第22話 ドワーフの里編 エピローグ「今までありがとう」
「爺ちゃん、見送り終わったよ。兄ちゃん達「今までありがとう」だってさ」
「……そうか」
「爺ちゃん良いのか? 最後ぐらい見送らなくって」
「良いんだ……俺は、あの光景を見れただけで十分だ……」
「……そっか」
二体目の存在によって他に穿壊魔竜がいないか、勇者パーティーは数日掛けてノンナの聖術による探索をしていたのだ。
だが結果として三体目の穿壊魔竜は見つからなかった。
ノルドの新しい武器に、勇者パーティー全員の新しい装備。
当初の目的を終わらせた彼らは、もうドワーフの里にいる意味がなくなってしまい、彼らはドワーフの開催する宴に一日だけ堪能した後に去っていった。
「爺ちゃん、体の調子はどうだ?」
「あぁ……随分と調子が良い……」
「そっか……あ、そうだ。喉渇いたろ? アタシが持ってきてやるよ」
「……レイヤ」
「ん? なんだ爺ちゃん?」
「……幸せにな」
「……うん」
ガイアの言葉に、レイヤは寂しそうな表情を浮かべ、それでも不安をかけさせないように笑みを浮かべる。水差しを取りに行ったレイヤを見て、ガイアはゆっくりと椅子の背もたれに体重を乗せた。
「……ふぅ」
ノルドのためにドワーフ武器を作り上げたガイアはあの穿壊魔竜が倒された後、ずっと椅子の上で生活していた。
ドワーフ史上高齢でありながら、過酷なドワーフ武器を作り上げたにしては表情は穏やかで、椅子の上で生活している事以外は健康な老人そのものだ。
恐らくは奇跡が起きたんだろうと、誰もが言う。
事実、ノルドが助けに来なければ、ノルドから愛を聞かなければその時点でガイアの命は無かったのだろう。しかしガイアは生きていた。
残っているドワーフ達と宴を楽しみ、愛する孫娘と穏やかな時間を過ごせたのだ。
「ありがとう……ノルド殿。俺に穏やかな時間を与えてくれて……」
去って行った恩人の姿を思い浮かび、笑みを浮かべる。
父を超えられた事。同胞を守れた事。そして大切な孫娘を救えた事。
あの青年に対して感謝しても仕切れない。
「ノルド殿も……いつかは報われるだろう……」
聖女には何やら不可解な運命が与えられていた。
それは孫娘であるレイヤに女神の加護がある理由に似て、どこか大いなる意思が絡んでいるのではないかとガイアは感じた。
だが今の聖女はそのような運命にあまり影響されていない様子だった。恐らくはノルドの献身的な告白を毎日受けていたからこそ、変わって行ったのかもしれない。
最初は勇者に対する盲目的な恋心が、徐々に憧れへと変わって行ったのがその証拠だろう。
「……ふふ」
これからノルド達の歩む未来を思い浮かべて、ガイアはおかしそうに微笑む。
限界を超え、魂がマナラインに還る間際にあるからこそ、ガイアはこうしてある種の未来予知めいた力を持つようになったのかもしれない。
ただ分かることは、今見えている光景は決して幻でも幻覚でもないという事だけ。
「……あぁ」
随分と長く生きた。
友を看取り、母を看取り、息子や同胞の死を見た。
いつかは自分もと考えたが、この最後がこれで十分満足だ。
そして。
眠気が。
安らぎが。
目蓋が徐々に下がっていく。
「……」
これまでの思い出。
そしてこれからの期待。
それらを抱いて、ゆっくりと……ガイアは眠る。
「爺ちゃん……?」
……。
「……っ」
……。
「あぁ……ゆっくりと寝ててよ……こっちは何とかするからさ」
……。
「爺ちゃんにも負けねぇぐらい立派な……鍛治師になってやるからよ……っ」
――だから。
「今までありがとう……爺ちゃん……っ!」
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