第21話 新しいちかr「食らいやがれぇええ!!」
「うぉおお!?」
あまりの重さにノルドは思わず持っている黒銀のメイスを地面に落とす。
危うく腕に抱くノエルも落とそうになったノルドは安堵に息を吐いた。
「ふぅ……ったく重過ぎだろこれ……」
だがまるで長年使っていたかのような手の馴染み具合だ。
ノルドはゆっくりとノエルを地面へと横たわらせ、黒銀のメイスをまじまじと見つめる。そしてノルドはこのメイスは投げた少女へと目を向けた。
「兄ちゃん!! アタシの爺ちゃんはやったよ!! だから――」
目じりに涙を浮かべ、ゆっくりと息を吸う。
そして、レイヤは大声で願いを行った。
「――そいつをぶっ飛ばせぇ!!」
その願いにノルドは笑みを浮かべ、両手でメイスを持ち上げる。
「……任せろォォォォ!!!」
まるで雄叫びのように、ノルドは答えた。
黒銀のメイスを肩に乗せ、のっしのっしと吹き飛んだ穿壊魔竜へと向かっていくノルド。そんなノルドをノエルのいる場所に集合した仲間達が見守る。
「……ごめんね。あれだけ大口を叩いてあの怪物を通しちゃった」
「すまぬ……」
「ううん……二人はちゃんと間に合わせてくれたよ」
反省するヴィエラとノンナにサラが励ます。
そう、二人が時間を稼いでいなかれば今頃レイヤは間に合わずノルドとノエルはあの穿壊魔竜に食われたのだろう。
だが二人が時間を稼いでいたからこそ、それが例え一分でも、一秒でも稼いでいてくれたお陰で、レイヤは間に合った。
「だがノルド一人で大丈夫なのか? 彼奴一人ではあの怪物を倒す事は……」
「ノルドなら……大丈夫だよ」
「ノエル……」
「僕達は確かに魔王討伐に集まったパーティー……対外的にこのパーティーの中心は勇者である僕だろう……」
でも、とノエルは首を振る。
真っ直ぐと戦いに赴くノルドの背中を見つめ、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「いつだって僕達を引っ張ってくれたのは……ノルドだ」
「……そうね、あの子なら大丈夫」
「そうじゃのう……あの気迫じゃ。恐らく今のノルドにワシらが支援しても足を引っ張るじゃろう……」
「……ノルド」
勇者とは違う。
だけど勇者や聖女以上に奇跡を起こす戦士。
「――頑張って」
そんな一人の戦士に、サラは笑みを浮かべた。
◇
『――!!』
「さぁ、そろそろ終わりにするかぁ!」
ノルドでさえも、両手で持たなくてはいけない重さを誇るメイスの重量。だがその重量はまるで戦いに赴くノルドに頼もしさを与えていた。
「うぅおおおらああああ!!」
駆け出し、水平に大振り。
そしてノルドの振るメイスが穿壊魔竜に直撃した瞬間、メイスの放つ衝撃によって穿壊魔竜の体から体液が勢い良く吹き出す。
『――!!!?』
回復するにしてもあまりの衝撃に悲鳴を上げざるを得ない怪物は、やり返すために体を捻ってノルドに長い体を叩き付けようとする。
しかしノルドはメイスを下に構え、勢い良く振り上げた事でその衝撃によって穿壊魔竜の体は浮かび上がり、ノルドの頭上を通過した。
「なんという威力じゃ……あれがノルドの新しい武器か……?」
「……でもどの攻撃も瞬時に回復しているわよ」
「爺ちゃんの作った武器はそんなもんじゃねぇ!!」
「レイヤちゃん!」
ノルドの戦いを見ていたヴィエラ達にレイヤが反論した。
「爺ちゃんがあの兄ちゃんのために作ったドワーフ武器だ! だからまだ、まだあの武器の力を引き出せていねぇんだ!」
「あれでまだ未完成じゃと?」
「あぁ! 最後の鍵は、兄ちゃん次第だ!!」
レイヤの言葉にノエル達はノルドの方へと見る。
すると、徐々にノルドの動きが変わってきているのが見えた。
「うぅらああっ!!」
最初は、不思議と手が馴染む重たい武器だと思っていた。
『――!!』
「食らうかよ!!」
しかし、一回振るごとに徐々に自身の体に黒銀のメイスが適応してきている気がする。事実、メイスの重さが徐々にノルドの振りやすい重さに変わってきているのだ。
『――っ?』
それで重さが軽くなったわけではない。
振りやすいからこそ、そこに鋭さが生まれ、威力が増す。
徐々に、徐々に、穿壊魔竜はノルドの動きに着いて行く事が出来なくなって行く。
「な、なんじゃあれ……? ノルドの武器が、徐々に変色していく……?」
目の良いノンナがノルドの持つ武器の変化に困惑する。
あの黒銀の色だったメイスの色が、ノルドの持つ手から徐々に先端へと白銀に変わって行ったのだ。やがて黒銀のメイスが完全に白銀のメイスに変わった頃、それは突如として起きた。
――ドォオンッ!!
轟音。
それと同時に白銀の光が視界を染め上げる。
「な、何が起こったの!?」
突然の出来事にヴィエラ達は驚愕する。
何故なら目の前には肉を大きく抉れた穿壊魔竜の姿があったのだ。
「もう一発ッッ!!」
ノルドがもう一撃叩き込むと再び轟音と白銀の閃光が生まれる。
流石に二回目となると、ノエル達もその光景の正体が分かった。
「メイスの一撃と同時に……爆発?」
そう、ノエルの言う通り白銀のメイスを叩き付けた瞬間、白銀の爆発が起こり穿壊魔竜の体を大きく抉ったのだ。
「これがあの武器の、真価なの?」
「もしやノルドのマナを吸い上げて爆発を起こしているのか?」
「――違う」
『!?』
ノンナの考察に一人の老人の声が響き渡る。
驚いて振り向くとそこには若いドワーフに連れられ、車椅子に乗ったガイアの姿があった。
「爺ちゃん!」
「あの爆発がワシの考えとは違うとは一体……」
「あの武器はノルド殿のマナを吸い上げるものではない……読み取るのだ」
ガイアの言葉にノンナ達は疑問を浮かべた。
「そもそもノルド殿に……あの爆発を生み出す程のマナはない」
「なっ、そんな馬鹿な!? ノルドは無意識にマナを制御してあの怪力を引き出している筈じゃぞ!? でなければあの怪力の説明がつかん!!」
「だが……事実としてノルドの体内マナは微弱だ」
そうでなければノルドを通して体内マナを鉄に込める事が出来なかったし、事実として昔のノルドはその微弱な体内マナによって体は弱かった。
「もしあの怪力に理由を探すのなら……それは愛の力だろう」
「何故そこで愛なんじゃ……?」
「ふっ……俺の作った武器はノルドのマナを読み取る武器だ……そしてあの武器はノルドのとある感情を元に、爆発を引き起こす」
読み取る機能は謂わば一種の生体認証のようなものだ。
そして認証した持ち主の感情が一定値を越えれば、その武器の力が現れる。
「その感情とは……即ち『愛』」
ガイアの真面目な顔とは裏腹に飛び出た言葉は周囲を唖然とさせた。
「――愛は爆発だ」
ノルドの持つ愛の力によって爆発が起こる。
これはつまり、ノルドの持つ愛の力であり証明。
「仲間への愛、サラへの愛!! だがそれ以上に!!」
自分の命を犠牲にしてまでも守り抜いたドワーフ。
大好きな爺ちゃんや、自分を守ってくれた人達のために自分の命を諦めなかったレイヤ。
一振りする事に、このメイスに込められた愛がノルドに伝わる。
愛を託されたのだとノルドは気付いたのだ。
ドワーフを守りたい。
孫娘を守りたい。
そんな彼らを愛する一人のドワーフの愛。
――その愛を。
「食らいやがれぇええ!!」
一段目。
爆発によってノルドの振るうメイスに推進力が生まれる。
音の壁を超え、瞬時に穿壊魔竜の肉へと食い込むように叩き付ける。
『――』
声にならない悲鳴。
もしくは聞こえない断末魔のような物が穿壊魔竜の口から飛び出る。
「うおおおおおお!!!!」
そして二段目。
叩き付けたメイスに光が生まれる。
まるで閃光のように周囲の視界を白銀に染め上げ、肉を焼く。
そしてその瞬間。
轟音と同時に、強烈な衝撃が辺り一面に広がる。
光が徐々に収まり、明るさに目が慣れて行った者達が見たのは。
「はぁ……はぁ……」
穿壊魔竜を消し飛ばし、それどころか山を消し飛ばしたノルドの姿だった。
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