第12話 ゴード帝国編 エピローグ

 それから数日後。

 勇者パーティーは未だにゴード帝国にいた。


 魔人の残した爪痕が深く、兵士達に掛けられた魔術をサラが浄化しなくてはならなかったからだ。一部は親しい者達からの言葉によって元に戻った者がいるものの、それでもまだ魔術に侵された兵士達はいた。


「よし……大分慣れてきた!」


 習得は難しかったものの、魔人戦によって奇跡付与の技が完成し、奇跡についてコツを掴んだサラは肉体治療の時に比べて早い速度で習得したのだ。

 これは王国にいた時は渋々訓練していたのに対し、今のサラは必要に駆られ、他者を救いたいという思いがあるからこそ習得速度が早かったのかもしれない。


「よし、流石にガランドの親方には敵わねぇが……それでもそこらのメイスよりかマシな物を用意できたと思うぜ」

「おぉ……まぁ流石に元の奴よりも違和感があるけど、程よい重さだなぁ!」

「兄ちゃん……それ一応巨人族の騎士様向けの武器を改良したもんだが……」


 一方ノルドの方は魔人との戦いによってガランドから貰ったメイスが壊れてしまい、こうして帝国の凄腕鍛治師に新しい武器を打って貰っていたのだ。

 因みに壊れたガランドのメイスは最早柄だけになって、一行の荷物袋に入れてある。


「俺達は確かにガランドの親方の弟子だが……それでもガランドの親方やその兄弟には敵わねぇさ。だから兄ちゃんにはドワーフの里へ行って、兄ちゃん専用の武器を作って貰わねぇとな」

「ドワーフの……里?」

「おう、一応この帝国から北東にある山の麓に、ドワーフの里へと通じる洞窟があるんだよ。その場所はガランドの親方と同じ『赤鎚せきついの鍛治師』の称号を持つ人達がいるから、この先魔王討伐をするなら仲間の装備更新のために行ったらどうだ?」


 目の前の鍛冶職人の言う称号について知らないノルドだが、言葉の響き的に何か凄そうな称号だという印象を抱いた。

 そして彼の言うように仲間の装備更新も良いかもしれないと、仲間に相談する事にした。


「ドワーフの里かぁ……良いかもしれないな。ありがとなおっちゃん! 良い話を聞けて良かった! あとこのメイスもありがとよ!」

「おう、こっちこそアレク様を助けてくれてありがとうよ! 兄ちゃん達はこの国の英雄だ!」

「ははは! よせよ柄でもねぇ!」


 そして場所はゴード帝国城の謁見の間。

 そこの玉座には皇帝代理である皇太子アレクサンドル……ではなく、今日まで病で床に伏せっていた筈の皇帝、サンダルシア・エゼビメウス・ゴードが玉座に座っており、皇太子アレクはその隣に立っていた。


「此度の件、よくやってくれた」

『はっ!』


 皇帝の言葉にノエルとヴィエラ、ノンナとそしてカマラが頭を下げる。

 実は魔人がいなくなった後で分かったのだが、何とサンダルシア皇帝の原因不明の病は魔人の瘴気による物だった。

 それに気付いたサラが皇帝の中にある瘴気を浄化した事で、ようやく職務に戻れたというわけである。齢五十を超えても尚、世界各地に赴き様々な職人を誘致してきた行動力を裏付ける程の気力が、玉座からでも伝わってくる程だ。


「我が帝国の危機を良くぞ解決してくれた。勇者に関する約定によって最大限支援するつもりではあるが、其方らにはそれとは別に褒美を取らせたい」

「ありがたき幸せです。ですが魔人を討滅したのも我が身に宿る勇者の使命によるもの……魔王を打倒するまで、心を一つにして頂ければ何も要りません」


 心を一つ。

 それは女神に対し信仰を捧げる事を表す言葉だ。

 何せ勇者と聖女には女神の加護があり、女神に対する信仰が勇者と聖女の力となるのだ。あの時魔人と戦っていた際にノエルが勇者として聖剣の力を引き出せたのも、あの場で戦っている全員……それも彼らの戦いを見ている帝国の住民が勇者パーティーに対し勝利を願っていた。


 それはつまり女神に対する祈りと同様の力が勇者に集まっていたという事になる。

 だからこそ、勇者は自分の力を引き出して魔人を倒すになったのだ。


「心を一つにする事は全人類共通の役目だ。当然そのように民を導こう。だがそれとは別に本当に褒美を取らせたいのだ。我が息子にして次期皇帝を助けた其方らに、私の誠意を見せたい」


 皇帝の言葉に何も褒美について思い付けないノエルとヴィエラが互いに顔を合わせる。

 その時である。今まで黙っていたノンナが急に言葉を発したのだ。


「それについては、ワシから提案を」

「おぉ何だ我が筆頭宮廷聖術士よ。申して見ると良い」

「では……この勇者ご一行、先程の言葉から余程欲がないとお見受けした。であれば陛下の善意からの褒美に関しては今この場で申す事など無理と存じる」

「ふむ、ではどうすれば良いのだ?」

「このワシ……筆頭宮廷聖術士であるノンナ・ノーン・ノイナが勇者パーティーと同行し、共に魔王討伐に赴くのはどうじゃろうか」


 その言葉に、事情を知っている者以外の全員が騒めく。

 当然その事を知らない皇帝は目を丸くさせ、事の真意を聞いてきた。


「ワシはこの帝国の事を第二の故郷と思っておる……しかし此度の魔人の件でワシは魔の者に対する報復の念を抱き、勇者らと共に旅に出たいと思うようになったのじゃ。ワシが勇者らに着いて行けば、正確に勇者らの願いを帝国に伝える事もできよう」


 彼女の優しい声音に、ある意味同年代である皇帝が笑みを零す。


「そうか……では勇者殿の考えは如何か」

「……ノンナ様の聖術はこの魔王討伐の旅に置いても有用と此度の戦いで証明してくれました。だから陛下の許しがあれば、共に旅をしたいと思っております」

「……良かろう! では筆頭宮廷聖術士ノンナ・ノーン・ノイナよ!! 其方は我がゴード帝国を代表して、勇者一行と共に魔の者を滅する旅にでよ!! 其方のこれまでの活躍に感謝し、そしてこれからの活躍を期待する!!」


 その言葉に、ノンナは笑みを浮かべて了承の声を上げた。



 ◇



 そして旅立ちの日。


「ノンちゃん……気を付けてね」

「うむ……カマラとアレクも息災でな。何だったらワシらが魔王討伐を終える頃には子供を作っておれ、抱きに行くのでな!」

「あぁ頑張るとしよう」

「あ、アレク様!?」


 ゴード帝国の門で勇者パーティーの見送りに来るカマラとアレク、そして帝国の民達。

 そんな彼らの声援を受け、勇者パーティーはキングの引く馬車に乗り込んでいく。


 魔の力を持つ者との戦い。

 勇者や聖女としての使命。

 勇者パーティーの新たな仲間。

 そして、一つの恋の物語。


 それを経て勇者パーティーは再び魔王討伐に向けて旅を出る。


「……幸せそうだな」

「……うん」


 ノルドとサラが遠くに見えても尚未だに手を振っているアレクとカマラを見て、そう呟く。幼馴染として過ごし、そして結ばれた彼らの姿を見て無意識の内にノルドとサラの手が重なる。


「サラ……やっぱり俺はサラの事が好きだ」

「うん……でもごめんね」


 良い雰囲気なのに玉砕するのが早過ぎる。

 いつも通りなのに何故か久しぶりのやり取りに二人は笑みを浮かべる。


「……ん? あれ今流れるように告白と玉砕を見たのじゃが……まさかお主らそういう!?」


 ノルドとサラの関係を知らないノンナが驚愕して二人に指を指す。

 そんな彼女の様子にノルドはいつも通りだと笑う。


 しかしこの時だけは、サラは自分の気持ちが徐々に変わっている事に気付いていたが、そっとその気持ちを心の中に封じ込める。






 そしてそんなやり取りをノエルが複雑な表情で見ていた事に、誰も気付かなかった。

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