第5話 いざ、ゴード帝国へ
「ゴード帝国に……」
「魔王の手が!?」
ノンナの推測にノルドとサラが驚く。
しかしそんな二人にノンナは首を振った。
「いやいや、魔王の手の者じゃ。そこ重要じゃぞ」
「どういう事だ?」
「ノルド、魔王は瘴気のない所だと活動出来ないんだ」
魔王の最大の脅威こそが瘴気ならば、魔王の弱点もまた瘴気であるとノエルは言う。
しかしだからこそケーン大陸から徐々に瘴気の範囲を拡大し、魔王自身の活動範囲を広げようとしているのだ。
「瘴気は時間が経つに連れて徐々に拡大していくわ。でもそれだけじゃないの」
「魔王には瘴気によって死んだ人間を『魔人』という存在に転生させる力を持っているんだ」
そしてこの魔人こそがノンナ達の言う魔王の手の者。
恐らくノンナ達が言いたいのは、ゴード帝国でアレクサンドルを操っているのが魔人という存在なのだ。
「魔人は体内にある瘴気で魔術を使える魔王の眷属じゃ……そしてその魔人は魔王とは違い瘴気の中にいなくとも活動出来、その身で瘴気を拡散させる力を持つ……と本に書いてあった」
「えぇ……」
突然の曖昧な表現でノルドが呆れた声を出した。だが詳しく尋ねてもノンナにはそれ以上の知識を持っていないという事だけ分かった。
「し、仕方がないじゃろ! 先代魔王は数百年前の話で、当時ワシは生まれておらんかったのじゃから!!」
「でも他のエルフなら当時の話を知っているでしょ? その人達から聞かなかったの?」
エルフ族の寿命は普人族の約五倍。
つまり一般的な普人族が最長で百年生きられるとしたら、エルフ族は最長で五百年生きられる事になる。流石にそのぐらいの年齢なら、先代魔王との戦いも知っているエルフがいるだろうとヴィエラが言うが、ノンナはスーッと目を逸らした。
そんなノンナの代わりにカマラがフォローした。
「好奇心旺盛なノンちゃんはのんびりと暮らすエルフ族の生活に耐えられなかったそうで……」
「つまり里から飛び出してきたと」
「ゆ、勇者物語なぞ興味なかったし? 聖術一筋だからどっち道聞かなかったし?」
無知ではなく、単に興味が無かったと意味不明な言い訳をするノンナ。そして飛び出した先で拾われたのがゴード帝国というわけだ。
「くぅ……まさか魔王が復活するなんて知らなかったんじゃ……」
「魔王復活の報を受けて、ノンちゃん急いで勇者物語の書物を頭に叩き込んでたよね」
それに付き合わされてカマラもノンナのために勇者物語に関する書物を探されていたという。
「うーんでも……今までの話はラックマーク王国にも伝わってる話だし……正直目新しい情報は無かったかな」
これまでの話は何も知らないノルドとサラのために語られた情報だ。これらの情報は魔王討伐を受け持つ勇者パーティー全員が知らないといけないため、致し方がない。
「うん大体分かったぜ!」
「ありがとうみんな!」
「さて、今のゴード帝国の現状がそうなっている可能性が高い今、ワシらはお主ら勇者パーティーに協力を要請したいのじゃ」
「……僕達に、その魔人を倒して欲しいという事だね?」
ノエルのその言葉にノルドとサラが唾を鳴らす。
もしノンナ達の推測が正しければ、最終的に勇者パーティーはその魔人と戦う事になる。王国から旅立った魔王軍との戦闘がこれから起きるという事にノルドとサラは緊張をしたのだ。
「そうじゃ……どうか頼む! 我がゴート帝国のために、その力を貸してくれ!!」
「どうか私からもお願いします!」
そう言って、ノンナとカマラが勇者一行に頭を下げる。その様子にノルドとサラは目を見開くが、それと同時にそれらの問題が余程の大事なのだと実感できた。
そして暫くすると、サラが声を上げた。
「……分かった!」
「サラ……」
「私は、ノンナちゃん達を助けたい!!」
「……は! サラがそう言うなら助けに行くとするか! それに他ならねぇノンナ達の頼みだ、断る必要性もないしな!」
二人の返答に彼らを見守っていたノエルとヴィエラが笑みを浮かべる。
確かにノルドとサラは勇者パーティーの一員だろう。しかしそれまでは一介の村人に過ぎなかった彼らにいきなり魔王討伐や魔人討伐は荷が重すぎるのだ。
当然彼らが拒否か躊躇しよう物なら、彼らを尊重し頼みを断ろうと思っていた二人だった。
「そうか……そうか!! ならばワシらが案内をしよう! ショーブ大陸最先端の国、ゴード帝国とやらを!!」
そう言ってノンナはさっきから黙っているキングの方へと目を向けた。
「ふむここからゴード帝国はそれなりに遠いが、突然変異のバトルホースかぁ……これは速度にも期待できるかのう」
「……ヒン」
「……あれ?」
何か心なしか嫌そうな表情をしているキングにノルドは首を傾げた。
当然だがノンナ達は馬もなしに走って逃げていた。だからこそ足のある現状にノンナは安堵し、嬉々としてキングの所へと近付いて行った。
「おっほおお! あの時尻を齧った時もそうじゃがやっぱり大きいのう!」
「……(ピキッ)」
そしてとうっ! とノンナは跳躍してキングの背中に乗ったのだ。
「ほほう! バトルホースは初めて乗ったが普通の馬より背が高いのう!!」
キングの上ではしゃぐノンナ。
この時、ノルド達勇者パーティーはキングは賢い馬だから仲間であるノンナを乗せてくれるだろうと思っていた。
――そう、この時までは。
「ほいほーい!! いやぁ高い、高いのう! キングだなんだと大層な名前で生意気だなぁと思っておったが、凄いじゃないかお主!」
その一言で、キングの何かが切れた。
「……ヒヒン!!」
「ほいほ――痛ぁ!?」
『ちょ!?』
突然キングが背中にいるノンナを振り落としたのだ。
それによってノンナはキングの背中から落ちて、土塗れになる。
「いたた……な、なんじゃ!? 何をしよる!!」
そんな土塗れになって憤っているノンナの様子を見たキングは――。
「……ペッ」
と地面に唾を吐いたのだ。
「んなぁ!? こ、こやつワシの顔を見て唾を吐いたぞ!?」
「……これ、ノンちゃんキングに嫌われてるよね?」
「なんじゃと〜? この才色兼備なワシを嫌うとか生意気な馬じゃのう!」
「……(ピキピキ)」
「そう言うところよ……貴女……」
尻を齧られ、更には生意気なエルフ族に生意気と言われたキング。
王としての誇りがある故に、案外根にもつキングとノンナの性格は、それはそれは絶望的に合わなかったらしい。
◇
取り敢えず拗ねているノンナを馬車の中に詰め、御者担当になったヴィエラはカマラの案内でゴード帝国へと続く道を走らせた。そして勇者パーティーは、ようやくゴード帝国とやらに辿り着いたのだ。
『はえ〜……』
ラックマーク王国を初めて見た時と同様ポカンと間抜け顔を晒すノルドとサラ。
ラックマーク王国と同様国を囲む壁がゴード帝国にもあるが、王国と違い帝国の外壁は王国よりも遥かに横に長かったのだ。
「……ここから先は、恐らくワシらは指名手配されておるから隠れるぞ」
「隠れるって……どこに?」
もうすぐ跳ね橋を越えて兵士のいる城門に着くというのに、何故このタイミングなのだろうかという疑問がサラの中で生まれる。
そんなサラにノンナは不敵な笑みを浮かべた。
「それはこうするのじゃよ……
その瞬間、なんとノンナとカマラの姿が消えたのだ。
『え、ええええ!?』
「しーっ!! 黙らんかいお主ら!」
『痛ぁっ!?』
突如として消えた二人にノルドとサラが驚きの声を上げる。そんな声を上げたノルドとサラに消えた筈のノンナの声が二人を制止して、二人は何かに頭を叩かれた。
「ちょっと落ち着きなさいあなた達……これはノンナが姿を隠す聖術を唱えたからよ」
「す、すげぇ……聖術ってこんな事が出来るのか……」
「くっふっふ……凄いじゃろ? 思わず崇めるほどじゃろ? じゃろ?」
「……ペッ」
調子に乗っているノンナに対して、キングが適当な所で唾を吐いた。
『……』
「……なんじゃこやつ、なんじゃこやつ、なんじゃこやつ〜!!」
結局の所一番うるさくしているノンナであった。
そんな出来事があったものの、ノンナ達の姿が見えなかった兵士と穏やかな入国手続きをした勇者パーティー。ヴィエラの運転によって馬車を中へと進ませると、馬車が二台分横に並べられる程の広さの道がノルド達を出迎えた。
そんな時、ヴィエラが姿を消しているノンナに質問をした。
「確か帝国内で馬車を走らせる時は左側を走るのよね」
「確かにそうじゃが……なぁ、確かあの中でお主だけ帝国の馬車免許を持っている筈だが……」
「馬車免許を取って以来、帝国内で馬車を走らせた事はないわ」
「はぁ?」
「だって公道はかったるいもの」
「そうだった……ヴィエラはデスキャリッジレースの熱狂的なファンだった……」
ノエルがヴィエラの趣味を思い出して頭を抱える。
それでノンナはヴィエラに向かって心の底から嘆願した。
「後生じゃヴィエラ嬢……安全運転で……何卒安全運転で……!」
「私は騎士よ? 安全運転に決まっているでしょう?」
心底心外そうな表情でヴィエラが反論をした。
例えデスキャリッジレースの熱狂的なファンだとしても、その無茶苦茶な走りが認められているのは一部の地域のみと分かっている。
だからこそ、もしここで事故を起こしてしまえば騎士として、例え魔王討伐の任に着いていようと自死する覚悟がヴィエラの中にあるのだ。
「何を話しているのか全然分からないねー」
「俺もだー」
「ははは……実は帝国って広いんですよ。帝国内を移動する時は、主に馬車が使われていると言えば想像出来るでしょうか?」
訳の分からないノルドとサラにカマラが説明をする。
どうやら帝国は王国とは違い、領主は自分の領土を持って領地を治めたりはしないという。彼らは帝国の中に自分が担当する領区ともいうべき区画で領主が働いているというのだ。
またそのような背景か様々な施設が帝国の中に密集しており、それが原因で帝国内の広さは途轍もなく広いのだ。
それ故に人々は個人用の馬車や国の運営する公共馬車を使って帝国内を移動しているのだという。当然帝国内では無用な事故を起こさないためにも、交通に関する法律が独自に設けられているのだ。
「それで、今私達はどこに向かっているのよ?」
ここまでノンナの案内で帝国内を走らせているヴィエラは、ふとした疑問を抱き、ノンナに尋ねた。すると彼女の口からとんでもない言葉が出てきた。
「あぁそれはじゃな……ゴード帝国城じゃよ」
『……は?』
まさかの直通に、一同声を失った。
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