第2話 ライド・オン・キング
「キング……! なんて強そうな名前なんだ!!」
「バトルホースの中の王……! それがキング!」
「まんまだよそれ……」
当然ノルドとサラはキングという都会の言葉は知らない。知らないが言葉の響きが強そうという理由で目を輝かせていた。
「とはいえ……王の名を与えるなんて不敬にならないかしら?」
「国王陛下から許しをくれました」
「わざわざ許可を取ったの……?」
行動力がありすぎる村長にヴィエラは顔を引きつった。
何せ自国の王様に、バトルホースとはいえ動物に王を意味する名前を与えてもいいですかと聞いたのだ。流石に恐れを知らなさ過ぎるだろう。
「キングだったら勇者パーティーの助けになってくれるんじゃないか!?」
「よし! キングの所まで行ってみようよ!」
「ちょ、待ちなさいあなた達!! 迂闊にバトルホースに近付いたら……!!」
バトルホースは主と認めない者に対して厳しいと有名な戦馬だ。
もし馴れ馴れしく近付いて行ったら後ろ蹴りが放たれる可能性がある。そのような情報を知っているヴィエラは急いでノルド達の元へ向かうも、想像とは違う光景に困惑をした。
「あ、あれ……? 大人しい?」
「あれがキングなんですよ……!」
「どういう事?」
「普通のバトルホースは仕える主を選り好みをしますがキングは違うんです……彼は選り好みなんてしません……ただ試練を与え、突破すれば従う。それがキングなんです!」
王とは自ら選ぶ者ではない。
座して待つ者である。
愚者であれば試練を突破できず、賢者であれば試練を突破し王の元へと馳せ参じる。
それが王。それが人の上に立つ天上人。
「いやキング、馬なんだけれど……」
「それで、その試練というのは?」
「ノエル様……もしやキングをお選びに?」
「まぁ……あの二人の言うようにもし、キングが仲間に加われば頼もしそうだしね」
あの体格のバトルホースは早々いないどころか、他にいないというぐらいの特別な個体だ。恐らくはバトルホースの突然変異か何かだろうが、キングならば魔王討伐において頼りになる存在になるのは間違いないだろう。
「簡単です。キングの出す試練とは――」
「よぉキング!! お前凄いバトルホースなんだってな! 奇遇だな、俺も大会の時にダークホースって呼ばれてたんだ!」
「そう言えばノルドってダークホースだった!」
「いや意味が違うわよ、あなた達……」
確かにホース繋がりではあるが。
「よしサラ! キングに乗ってどこかに走らせてみようぜ!」
「わーい!」
「え!? ちょ、まっ、お待ちください!」
ノルドの言葉を聞いた村長が彼らを止めようとするも、ノルドとサラはキングの背中に乗ってしまう。
「なっ、鞍も無しに!? お待ちくださいノルド様!! あーっ!! 危険ですノルド様!! お待ちください!! キングの試練とは背に乗って走る事なんですノルド様!! ノルド様!! あーっ!! ノルド様!! お待ちください!!」
しかし彼の制止の言葉も虚しく、二人はキングに乗って走ってしまった。
「ちょ、走って行ったわよあの二人!?」
「そんな……! バトルホースよりも倍近い体格を誇り、試練の時の走りはかなりの苛烈さ見せるキングは、例え鞍があっても乗りこなせる人はいない……!! それを鞍無しとなると彼の走りに耐えられる筈が――」
勇者パーティーの戦士と聖女を怪我させた村。
そのような見出しの新聞のイメージが、一瞬の内に村長の脳内を埋め尽くす。
そんな村長にノエルは。
「――ノルド、普通に乗ってるけど?」
「……はえ?」
「いいいいいいやっほおおおおお!!」
「いえーい!!」
ノルドはサラを支えながら、強烈な走りを見せるキングを相手に普通に乗りこなせていたのだ。それはそうだ。確かに通常個体より倍近い体格を誇るキングだが、ノルドの体格もまた戦士として完成されている体格なのだ。
「……ふふ、ある意味ノルドしか乗りこなせないバトルホースなのかも」
ノエルはそんなノルドを見て、微笑んだ。
暫く彼らが走っているのを見ていると、キングは気が済んだのか二人を乗せながらノエル達のいる所まで戻ってきた。
「いやぁ〜すげぇ早かったぞキング!」
「楽しかったね! キング!」
「ヒヒン!」
「意気投合してない……?」
まるで数年来の友人のような雰囲気を醸し出す二人と一匹。
先程の威風堂々とした雰囲気は消え、フランクさを見せるキングを見るにどうやらこちらが素のようである。
「オズワルドさん。これで試練は突破したという事でいいんだよね?」
「え? え、えぇ……これでキングはノルド様に従うようになるのですが、キングは他のバトルホースと違い、主の考えを汲み取って主の仲間でも乗せてくれると思いますよ」
つまりは主であるノルドの仲間であれば問題ないという事らしい。
「え? でも僕達は各自、自分用のバトルホースを貰おうと思っているんだけど……」
「お勧めはしませんね……並のバトルホースではキングの動きについていけませんし、返ってキングの動きを阻害する可能性があります」
「それじゃあどうすれば?」
「馬車をご検討してみてはどうでしょう。戦闘時に瞬時に馬車から切り離す事が出来る馬車であればキングも戦闘に参加できますし、キングの引く馬車なら魔王討伐への道のりもグッと縮まると思いますよ」
村長の提案した話を聞いたノエルは頭の中でゆっくりと考え、そして良案だと思ったノエルは村長の話を受け入れた。だが途中から村長は何やら思案する表情になり、やがて顔を青ざめた。
「あ、あの……?」
「……そう言えば並の馬車ではキングの動きについていけるか……? もしやキング用の馬車を用意しないといけないのでは……? す、すみません! ちょっと親方に相談しますね!!」
「あっちょっと! ……行っちゃった」
どうやら何か村長の中で想定外の事態に思い至ったらしく、村長はそんな問題に対する対処を相談するためにどこかへと走り去った。
そんな村長を見送ったノエルはふと、ノルド達の方へと目を向ける。
するとそこには。
『キ〜ング! キング、キング!』
「ヒン! ヒン!」
『キ〜ング! キング、キング!』
「ヒン! ヒン!」
「何をやっているのよあなた達……」
何やら歌を歌いながら奇怪な踊りでキングの周囲を回るノルドとサラに、合いの手を入れるキングの光景があったのだ。
「おぉ! ノエルも一緒にやろうぜ!」
「え!? え、えぇと……き〜んぐ……きんぐ、きんぐ……」
「止めなさい勇者」
友人の頼みは断れないチョロい勇者であった。
そんな彼らに、とあるドワーフを連れた村長が帰ってきた。
「あのキングが懐いたんですよ!」
「なぁ〜にぃ〜? やっちまったなお前らぁ!!」
「え、な、何?」
「あのキングが懐くなんて前代未聞の事態だぞぉ!!」
あまりの勢いにノエルが押される。
ドワーフの親方がキングのいる方向を見ると、そこには未だに奇怪な踊りをしているノルド達と合いの手を入れるキングがいた。一体なんの儀式だ。
「なんだありゃあ!?」
「ごめんなさいあのバカ二人が……」
「あんな威厳が吹っ飛んだキング見た事ねぇ!?」
「そっち?」
「こりゃああの馬車を用意するしかねぇなぁおい!!」
「ま、まさかあの馬車を!?」
「男なら黙って持ってこいやぁ!!」
「いや、人の身であの馬車は持ってこれないですよ!!」
怒涛過ぎる展開にヴィエラとノエルは疲れてしまいツッコミを止めた。
彼女達がツッコミを止めたら一体誰がこの事態を収拾するというのか。
暫くすると村長に案内され、勇者パーティーとキングは村長の指定した場所にいた。そこにはバトルホース用の馬車を制作している工場らしく、様々な馬車が組み立てられていた。
「おう来たかお前らぁ」
「あっ、えーと……親方でしたっけ?」
「おう、俺の名前はギッカ・ガガラ・ガーネットだぁ……気軽に親方でも呼べぇ」
「それで親方、なんで俺達をここに連れてきたんだ?」
「そりゃあキング用の馬車を見せるためだぜぃ」
親方の話によると、バトルホースに合う馬車というのはバトルホースの走りに対応し、尚且つ戦闘に遭遇しても壊れない耐久力が必要らしい。
しかしキング用の馬車という物はここで作っているバトルホース用の馬車では合わない可能性があり、こうして別の用途で作られた馬車を使わなければならないとのことだった。
「その馬車というのは?」
サラがそう質問をする。
そんなサラに親方は声を潜めて、静かに質問を返した。
「お嬢は『デスキャリッジレース』を知っているかぁ?」
「まさか……! あの死の馬車競争!?」
親方の言葉に反応したのはまさかのヴィエラだった。
「知っているのか、姐御!」
「馬車を使った何でもありの障害物競走……! まさかここでその言葉を聞けるとはね……!」
「ヴィエラがかつてない程熱くなってる……」
ヴィエラとの付き合いの長いノエルが引きながら驚愕する。
「知る人ぞ知る馬鹿野郎共の真剣試合ぃ! それが『デスキャリッジレース』よぉ!」
「あぁ……まさかこれから見せてくれる馬車というのは……!!」
「そうさ……あのレース用に作られた専用馬車さぁ!!」
「す、凄いわ! その馬車ならキングに耐えられるという訳ね!」
「慣性車輪滑りでも耐え得る車輪の耐久性、様々な障害でも問題なく走れるゴムトレントの素材、更には巨人族が愛用するヘビートレントの素材を使っているから馬車自体の耐久性も抜群だぁ!」
「なんて豪華な素材の数々……!!」
「……」
ヴィエラのまさかの趣味にノエルは関わらないよう気配を薄める。
「なんか凄そうだねー」
「だなー」
「ヒーン」
そんな彼らのやり取りを理解出来ない二人と一匹は遠くでヴィエラ達のやり取りを見る。
そしてようやく新しい仲間であるバトルホースのキングと、そのキング用の馬車を手に入れた勇者パーティーは再び旅に出たのであった。
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