第二章 勇者パーティー、旅をする

ゴード帝国編

第1話 王の名を持つ存在

 勇者パーティー。

 それは世界に仇なす魔王を討伐する為に選ばれた精鋭部隊。

 彼らだけが魔王を倒し、世界を救う女神に選ばれた救世主。


 長らく魔王の脅威から遠ざかっていたある日の事。

 魔王復活の知らせを受け、まるで運命のように勇者と聖女が現れた。

 そして彼らに同行する戦士を大会で決め、ここに今代の勇者パーティーが生まれ、ラックマーク王国から彼らが旅立ったのだ。


 勇者パーティーには聖剣を操り、騎士団長としての実力を兼ね備えた勇者ノエル。

 近衛騎士団長にして、王国最強の盾の異名を持つヴィエラ。

 類稀な癒しの力を使い、仲間を癒す聖女サラ。


 そんな選ばれた者同士で組まれた勇者パーティーの中に一人、その男がいた。


「サラ! 好きだ!! 俺と付き合ってくれ!!」

「ごめんね」

「はい」


 撃沈したその男の名前はノルド。

 カラク村のノルド。

 ただ自らの恋の為、友の為、そして好きになった女の為に戦士となった男。


 これは魔王を討伐する為に立ち上がった勇者の物語ではない。

 これはその男の、恋の物語である。



 ◇



「そう言えば俺達ってどこに向かってるんだっけ?」


 ラックマーク王国から旅立った彼ら勇者パーティーは、その道中自らが向かう行き先に疑問を抱いたノルドが三人に質問をした。


「そう言えば、貴方は何も分かっていなかったわね」

「確か魔王って東の最果てにいるんだよね?」


 ヴィエラが今更気付いたかのようにポンと手を合わせる。

 そんな彼女にサラがかつて聞いた魔王の場所を思い出すも、彼女の知識はまだ不足しているようで、ノエルが知識の補足をする。


「僕らの目的である魔王は確かにサラの言う通り東の最果てにいるね。でももっと細かく言うと、魔王がいるのは東のケーン大陸なんだ」

『……たいりく?』

「そこの知識も無かったのね、この二人……」


 ノルドとサラはずっと村から出た事がなく、こうした一般知識について知らない事も多いのだ。最も、その原因というのはノルド達を溺愛している育ての親であるカラクなのだが。


「たいりく……王国とも違うよな?」

「一体どういう国だろう……」

「大陸は国じゃなく、大地の事よ」

『……へ?』


 ヴィエラの言葉にノルドとサラは共に首を傾げる。


「この世界には二つの大きい大地があってね。一つが世界で最も大きい大陸で、大多数の人々が暮らしているのがここ、ショーブ大陸」

「そして海を挟んで東にあるのが魔王の封印されているケーン大陸よ。最も、そこに人が住んでいないわけでもないけどね」

『なるほど〜』

「いや分かっていない顔じゃないあなた達……」


 想像力の許容量を超えたため、どうやら理解を放棄したらしい。

 すると、ノルドはまた新しい疑問を思い浮かんだのか、ヴィエラとノエルに質問をする。


「だったら、そのケーン大陸? までにはどれぐらいで着くんだ?」


 そんなノルドの疑問にヴィエラは普通に答えた。


「今の私達だったら着く前に世界が滅亡するわね」

『えええええええええ!?』


 衝撃の事実! 世界の滅亡は既に確定していた!

 という考えが二人の脳内を占める。

 そんな二人にノエルが呆れながら訂正をした。


「ははは……東の最果てというぐらいだからかなり遠いんだ。ほら、二人がラックマーク王国に来る時は何に乗っていたか思い出せる?」

「えーと……確かあの時は行商人の馬車だったよな……?」


 その日はカラクに急かされ朝早くから行商人の馬車に乗せて貰った記憶がノルドとサラにある。しかし初めての馬車で興奮していたノルド達は気付かなかったが、速度の速い馬車であっても王国に着いたのは数日経ってからの事であった。


「どれだけ興奮して気付かなかったのよ……」


 そんなヴィエラのツッコミを無視して、とある事実に気付いたサラは顔を青褪める。


「た、大変だよノルド! 今私達……徒歩だよ!?」

「あぁ!? そうだ俺達徒歩じゃん!!」

『えぇ……?』


 カラク村から王国まで馬車で数日だというのに、確実に王国よりも遠い東の最果てで徒歩とは流石にどう足掻いても世界を救うより先に世界が滅びるだろう。

 その事実に気付いたノルドとサラはパニックになった。


「ど、どうしようノルド! あ、そうだ! ノルドが私達を投げれば距離を稼げるのかも!」

「おぉ流石だぜサラ! 好き! 愛してる! 俺と付き合って!」

「ごめんね!」

「落ち着きなさいそこのバカップル」


 手をついて落ち込むノルドとパニックになっているサラを落ち着かせるヴィエラ。ノエルはそんな彼らに微笑みながら、心配ないと説明をする。


「だから今、僕達は旅に必要な足を手に入れるためにとある村に向かっているんだよ」

『……足?』

「そう、その名もバトルホース。六頭で引く大馬車を一頭で引く力を持ち、尚且つ戦闘にも参加出来る馬を、これから貰いに行くんだ」


 その話を聞いたノルドは目を輝かせながら、ノエルに詰め寄った。


「す、すげぇ! そんな凄い馬がいるのか!?」

「ちょ、近い……近いよノルド……!」


 顔を赤らめながら何とかノルドを引き離そうとするノエル。

 そんな二人に、サラはとある疑問を抱いた。


「あれ? でもそんなに凄い馬がいるなら、どうして王国の方で手配してくれなかったの?」

「それはね……そのバトルホースという馬は自分が認めた人じゃないと乗せてくれないのよ」


 プライドが高く、力も強いバトルホースは自分が認めた人でなければ従わず、無理に従おうものなら強力な後ろ蹴りで蹴り飛ばすという。

 王国にいるバトルホースは既に誰かと主従の絆を交わしており、一度主従関係を結べばその者から絶対に離れない忠義のある動物なのだ。


「それが例え勇者パーティーであっても認めない物は絶対に認めない馬……でもバトルホースが僕達勇者パーティーに入ってくれたらこれほど頼りになる存在はいないよ」

「そしてそのバトルホースがいるのはこの大陸中で唯一バトルホースを養成する事が出来る村……ほら噂をすれば」


 ヴィエラが前方に指を指すと、ノルドとサラはその村の存在に気付いた。


「『マー村』……そこが私達の最初の目的地よ」



 ◇



 マー村に辿り着いた一行を待っていたのはその村の村長、オズワルドだった。


「おぉそこの方はもしやノエル様でしょうか? という事はもしや貴方方が……」

「はい。この度魔王討伐の使命を受けた勇者パーティーです」

「おぉ!! という事はこの村にやって来たのはバトルホースをお求めという事ですね!?」


 オズワルドの言葉にノエルは頷く。


「そうであれば早速、貴方方に我が村自慢のバトルホースを紹介いたしましょう!!」


 随分と勢いのある村長で、ノルド達はオズワルドの勢いに流されながら、養成しているバトルホースとやらの場所を案内される。


『お〜!!』


 ノルドとサラは初めてみるバトルホースに驚嘆の声を上げた。

 目の前にいるのは無数のバトルホースと思われる馬の数々。

 普通の馬よりもがっしりとした体格を持ち、特に足の筋肉が通常の馬よりも肥大化しており、中には後ろ足の蹴りによって大男が着るような鎧に穴を開ける馬もいた。

 彼らは養成員の指示に従い訓練を受けているようで、養成所というよりは訓練所に近い印象があった。


「おぉ……あれ? でも認めない人には従わない筈だよな? という事はここにいるバトルホースは既に主を持っているんじゃ……」

「いいえ、彼らに主人はいませんよ」

「村長さん!」

「我が村はこの大陸の中で唯一バトルホースを育てる事が出来る村です。つまりこの村にいれば自分達は強くなり、自分に相応しい主人と巡り合えると思っているからこそ、私達の言葉を聞いてくれるんです」

「へ〜信頼されてるんだな〜」

「はい! それが私達の誇りなのです!」


 そんな会話をしていると、ふとサラが何かに気付いた。


「あ、あの子凄いよノルド!」

「え? あ、すげえ! あれもバトルホースなのか!?」

「あ、あのバトルホースは……」


 ノルドとサラの見つけた一匹のバトルホース。

 そのバトルホースは他のバトルホースと違い、通常のバトルホースよりも更に倍近い体格を誇り、金色のたてがみを靡かせながら威風堂々とその場に立っていた。その雰囲気は並のバトルホースとは違う、まさに強者と呼ぶに相応しいオーラを発していた。


「あれは……マー村がこの事業を始まって以来の最強のバトルホース……!」


 並のバトルホース数匹がそのバトルホースと戦っても敵わない規格外の存在。最初の頃は養成員の指示に従っていたが、強くなるにつれ徐々に従わなくなった最大の問題児。


「まさに王の中の王……あのバトルホースを我々は、『キング』と呼んでいます……!」


 そのキングが、ノルド達の方へと目を向けた。

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