第6話 未来を掴むたm「サラァッ!! 好きだああ!!」

「な、なんだ?」


 ヴィエラが謎の行動をしたその瞬間、ノルドはまるで目の前に威圧感のような壁がそびえ立ったかのような錯覚を受ける。


「どうしたの? そろそろ動かないと時間切れになるわよ」

「くっ……」


 ヴィエラの言う通り、このトーナメントには制限時間がある。

 魔王という脅威が刻一刻も迫り来る中、時間を長引かせないよう制限時間を設けられており、その制限時間の中で有効となる攻撃を与えればその者に点数が手に入る仕組みだ。

 そしてどちらも気絶や場外、降参などがなく、制限時間に達すれば両方のポイントを比べて勝敗を決めるのだ。


 そして現在、ノルドはヴィエラから一撃を貰っており、具体的な点数は分からない物の確実にヴィエラの方に点数が入っている事だろう。対するノルドは一撃もヴィエラに与えてはおらず、点数が入っていない事だけは確かなのだ。


「うおおおおお!!」


 だからヴィエラが何をしようかノルドは攻撃をしなくてはならない。

 盾をどっしりと構えるヴィエラに向かってメイスを叩き付ける。最大慣性にまで到達し、ノルドの怪力によって放たれるメイスがヴィエラの盾に向かう。

 通常ならば盾があっても盾ごと粉砕する威力。

 しかしヴィエラの盾に直撃しても、ヴィエラは微動だにしなかった。


「なっ……!?」


 完全な直撃だった筈だ。

 しかし直撃した筈なのにまるで直撃していない感触にノルドは混乱する。


「どうしたの? そんな攻撃で私の防御を崩せるとでも?」

「く、そっ………!!」


 ヴィエラの側面へと回り込み、盾を構えていない部分へと攻撃をする。

 しかしその攻撃はヴィエラの操る盾によって受け流され、ヴィエラに当たらない。


「無駄よ。貴方の攻撃は全て私のマナを通って根元世界に流れるマナラインへと分散される」

「何言ってんのか分からねぇ、よ!!」


 今度は背面へと移動し、メイスを繰り出す。

 だがこれも、ノルドの動きを予測したヴィエラによって防御される。


「だったら簡単に言うわね。貴方の全ての攻撃は全て私の足元へと分散されるのよ」


 だがまぁ簡単に説明してもどうにもならないのが現実。

 そうヴィエラは思った。


「なんていう娘じゃ……ノルドの一撃は壁をも粉砕するほどの一撃! その威力の一撃を何度打ち込まれても痺れの様子どころか、顔色一つも変えないとは!」


 観客席にいるカラクがヴィエラの力に驚愕する。

 ガランドもまた、ヴィエラの力の正体に目を見開いていた。


「ありゃあ数百年に一人の天才が、弛まぬ訓練と実践によって生み出された絶技じゃぞ……カラクの時代でもあんな騎士は一人もいなかった筈じゃ……」

「マナラインへの接続速度や、マナの使い方が上手すぎるわい……」

「それが分かるアンタら何もんだよ……」


 バッタが隣にいる爺さん達に顔を引き攣らせながらツッコミを入れていた。

 会場にいるヴィエラは、彼女が何をやっているのか分からないノルドに対し、哀れみの表情を浮かべながら言葉を発する。


「そう言えば貴方、マナの存在も知らないのね……それで良くここまで来たものだわ」

「だったらどうしたんだ!!」

「マナの存在はこの先魔王討伐において最も重要な力の一つなの……それを知らない貴方は、魔王討伐に同行するのはやはり早すぎる」

「早いとか遅いとか関係ねぇんだよ!!」


 何度も、何度も、叩き付ける。

 しかしそれでも彼女の盾を突破する事ができない。


「俺はサラを守りたい!! 魔王とか勇者とか関係なく、サラのために一緒にいたいんだよ!」

「健気な感情ね……それとも気持ち悪い男の執念かしら」


 さっきまで防御に徹していたヴィエラが動き出す。

 ノルドの一撃を弾き、無防備となったノルドの体へと斬撃を放った。


「がっ……!」


 これがヴィエラの本来の攻撃スタイル。

 相手の攻撃を堅実に防御し、隙を突いて一撃を入れるカウンタースタイルが彼女の戦い方。


「これで点数も広がったけど……まだまだ行くわよ!」


 メイスを構えようとするノルドに次々と一撃を入れるヴィエラ。ノルドが攻撃をする度に彼女の盾に防がれ、カウンターがやってくる現状にノルドは何もできない。


「はぁ……はぁ……」

「まだ、倒れないの? でもこのまま悪戯に時間を掛けても貴方の負けは確実よ」

「う、るせぇ……」


 メイスを杖にしてようやく立っていられる程度の重症。

 それでも尚、ノルドの目には諦めという感情がなかった。


「……嫌われてんなら、もうとっくに嫌われてんだよ」

「……何ですって?」

「俺がつい最近サラを好きになったって思ってんのか……? いいや、もっと前だ……もっと前からなんだよ……毎日毎日告白をしても、サラは嫌な顔を見せないでいつも申し訳なさそうな顔をしてるんだ……」

「……それは、サラ様が優しいからじゃないかしら?」

「当たり前だろ……サラは優しいんだよ……世界一な。でも嫌な事は嫌って言うんだサラは」


 それなのに、ノルドの告白をサラは一度も嫌とは言ってない。

 勇者の事が好きでいつもノルドの告白を断る彼女は、側から見れば嫌な女性に見えるだろう。だがノルドだけはそうは思わない。


「俺が諦めれば……

「……何を言っているの?」

「さぁな俺も分からねぇ……だけどよ」


 ――ノルド!


「こんな俺でも心配そうな顔をしてくれるんだぜ……?」


 ノルドは声の聞こえてきた方向へ向けるとそこには、傷だらけのノルドを見て心配そうに声を掛けるサラがいた。


「女々しい野郎でも、大切にされてるって分かるんだよ……」


 だからどんなに断られてもノルドは諦めない。

 例え目の前に騎士が、勇者が、魔王が、運命が立ちはだかろうとも、恋を貫く。


「サラに……嫌われるまでな」


 ……流石に嫌われたら死ぬ自信がノルドにはあるが。


「……でも、貴方に勝つ術はないわ」

「なーに言ってんだ……俺はまだ本気を出してないぞ?」

「なんですって?」


 普通に考えれば単なるハッタリ。

 しかしノルドの眼差しにはハッタリとは思えない情熱が渦巻いていた。


『一つ目だ……! 相手のペースに呑まれるな、自分を信じて突き進め!!』


 バッタの言葉がノルドの脳裏に過ぎる。

 それを思い出したノルドは顔に笑みを浮かべた。


「あぁそうか、そうだったな……そういやアンタは俺に覚悟を聞いてきたんだっけな」


 メイスを構え、静かにヴィエラの瞳を見つめる。


「覚悟ならあるさ……サラを守るという覚悟がなぁ!!」


 疾走。

 そして重撃。


 それでもヴィエラの盾を崩せない。

 しかし。


(何……この痺れ……?)


 僅かではあるが、ヴィエラは自分の手に異常を覚えた。


「過酷な魔王討伐に対する覚悟ぉ? 人々の期待を背負う重圧ぅ? 関係ねぇ!! サラを守る覚悟さえあればいいんだよ!! それが俺の原動力! それが俺の覚悟だぁ!!」

「っ、ふざけるんじゃないわよ! 魔王討伐における覚悟と貴方の覚悟は重さが違うのよ!?」

「あぁ!? 重さが違う!? だったら俺の方が重いに決まってるぜ!! 拾われてから十七年ずっとサラを守るって誓ってんだぁ!! 年季が違うんだよ年季がぁ!!」


 カラクによれば赤子の頃からずっとサラにべったりだったノルド。

 因みにだがヴィエラが騎士になったのは十四の頃で、現在の彼女の年齢は十九である。騎士任命式で人を守るという覚悟を背負った事を踏まえれば五年の期間がある。


 つまりはある意味ノルドの方が正しいともいう。


「魔王を倒したいとかそんなもんはねぇ! でもサラが笑顔で平和に暮らせるなら魔王でもなんでもぶっ倒してやらぁ!!」

「この、無鉄砲が!」


 その言葉と共にヴィエラがノルドの右手へと一撃を放つ。

 つまりはそう、準決勝の試合でバッタによって負傷させられ、メイスを握るために縛られたバンダナに向けて、ヴィエラが剣撃を放ったのだ。


「ツッ……!!」


 激痛が右手に走り、バンダナが切れる。

 そしてメイスはノルドの手元から離れ、落ちる瞬間ヴィエラがメイスを蹴って場外へと吹き飛ばした。


「いった……! なんて重さなのよ貴方のメイスは! でもまぁこれで貴方の武器が無くなったわよ!!」

「ぐふっ!?」


 痛む右手を抑えているノルドに対してシールドバッシュ。

 それによってノルドは吹き飛ばされた。


「それでも……俺は!!」


 武器は場外。

 体はボロボロ。

 対する相手は無傷。


『二つ目だ!! 例え武器を失っても決して諦めんじゃねぇ!!』


 バッタの言葉がノルドに力を与える。

 前に踏み込み、ヴィエラの盾へとタックルする。


「な、貴方!?」

「あぁそうだなアニキィ……こんな事で諦める訳にはいかねぇよなぁ!?」

「まさか私と力比べをするっていうの!?」

「うおおおおお!!」


 ヴィエラの『聖術・不動王の構え』は自身のマナを根元世界に流れるマナライン……即ち世界の真下にある多次元世界のマナを循環するマナラインに繋ぐ技術。

 つまり彼女の体はまるで大地に根を張った大木のような状態にあり、幾らノルドが力で押そうにも絶対に彼女の体を動かす事はできない。


 ――それでも。


『最後はなぁ……!! 結局物を言うのは己の肉体だけだぜ……!!』


 そう信じて、前に突き進む。


「サラァッ!! 好きだああ!!」

「……なっ!?」


 一瞬、ヴィエラの体が僅かに後ずさる。


「一体……どこからこんな力を!?」

「聞きたいなら聞かせてやるよぉ……!!」


 サラへの恋があれば無限の力を引き出せる。

 これがノルド。

 これが幼馴染に恋する戦士。


「これが俺のぉ……恋の力だあああ!!」


 ――その瞬間。


 ヴィエラの体は宙へと放り出され、観客も、彼女自身も、目を見開く。

 まるでゆっくりとなった時間で、放物線を描く彼女を観客がゆっくりと見る。

 そして彼女は、王国最強の騎士であるヴィエラ・パッツェは、会場の外へと吹き飛ばされた。


「……え?」


 誰かがそう呟く。

 そしてそれと同時に実況の声が響き渡る。


『じょ、場外ィイィィイ!! 栄えある戦士選定トーナメント決勝戦!! 最強を打倒し、勇者パーティーの戦士枠へと選ばれたその者の名前は――』


 ――カラク村のノルド選手だぁ!!!

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