第22話 配分(Allotment)


 俺と彼女の違い。

 それは、俺の身代わりとなった同級生は死んでしまったけれど、彼女の身代わりとなった俺はまだ生きているということだ。

 だから、彼女が生き続けるために、俺は自分を生かし続けなければならないのか……。


 でも、これはきつい選択だ。

 俺は、たとえこの先長生きが可能だとししても、自責の念に囚われ続けていくことになる。

 そして、もはや死に逃げることも許されない。


 ……でも、それを彼女に言ってなんになる?

 彼女の自責の念を増大させるだけだ。

 そして、その元々のことの起こりは俺のせいだ。


 いいだろう。

 俺は自分を責め、責め続けてでもこの一生を全うしよう。

 それしかもう、俺に道は残されていない。


 問題は、悪魔との契約をどうするかだ。

 再度、召喚をして、契約を結び直すしかない。

 ただ、そうは言っても……。

 代償は払った。

 問題は、払った上での俺の寿命の配分の問題で、それだけのことだ。

 契約本体に瑕疵はないし、変更は認めてもらえるかもしれない。


 俺の寿命のすべてを彼女に渡す予定だったのを、半分だけ渡す。

 そうすれば、数十年ずつは2人で生きることができる。

 まぁ、手数料は必要かもしれないけれど。


 ただ……。

 それでも叶えるつもりがない願いもある。彼女の「1日でいいから、私より長生きして」というヤツだ。

 それを満たしたら、俺は「彼女のことを口実にして自分が生きる」という選択をしてしまうことになる。だから、俺は1年早く死ぬことにするよ。

 とはいえ、20数年後の話だ。

 そこまで問題を先送りできていれば、彼女の自責の念というのも、そうは辛く厳しいものにはならないだろう。


 そして、もう一つ、重要なことがある。

「美子さん。

 君の願いを俺が叶えられるかはわからない。

 でも努力はする。

 でもそのことに関して、取引をしたい」

「取引?」

 彼女は大きな目をさらに大きく瞠って、俺に聞く。


「うん。

 君は、君自身の記憶を消せる?

 可能ならば、こういう力があるということを忘れ去ることはできないかな?」

「それは無理。

 それをしたら、私は私じゃなくなっちゃう。

 で……、その目的は?」

「この力があったら、普通の人間として、普通に生きられなくなっちゃう。

 美子さんも、莉絵さんも、相当に厳しい生き方をしているよね。

 それに気がついているからこそ、前に会ったときに、俺の力はなくなっていくから安心しろって言い方になったんだよね?

 この先も生き続けるのであれば、もっと普通の生き方をした方が良いよ。

 本当にその力は無くならないの?

 今の生き方を変えることはできないの?」

 俺は畳み掛けるように、彼女に聞いた。


「さっきも言ったけど、忘れるのは無理。

 でも……。

 心理障壁を作ることならできるかもしれない」

「心理障壁って?」

 俺は、さらに聞いた。

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