第20話 重荷(Encumbrance)


「私が、的はずれな想像している?

 違うよ。

 あ、逆に君から見たらそうかもしれないな。

 私、ぜんぜん繋がらないこと言うけど……」

 そこで美子さんは一つ息をついた。


「あなたと私の子は男の子。生意気で、ぐうたらしていて、暇さえあれば寝ている。

 そのくせ、可愛い彼女がいて、足が速くて、成績もめちゃくちゃにいいんだ」

「な、なんの話?」

 俺、あまりの話の飛躍に思考が追いついていけない。動揺しまくりだ。

 でも、美子さんは俺に構うことなく話を続けた。


「私の未来予測、今はそんなのが見えているんだよ。

 あなたがなにをしたか、なぜか私にはわからない。

 あなたが死んでも話さないと決めている以上、もう私にできることはない。

 でも、見えている未来は変わった。

 だから、お願いはさせて。

 私はその子の顔を、この目で見たい。

 その子に会わせて」

 その言葉に、俺は呆然とした。

「君」だったはずの二人称も、いつの間にか「あなた」になっている。

 俺、なんかやりきれない、いやな気持ちになった。


「いやだ。

 それはないだろ?

 未来が見えているって、見えたからって、それだけで俺と付き合って家庭を持つと?

 好きとか嫌いとか、そういう気持ちとか無いのかよ?

 運命だからなんでも受け入れるって、言っていること、異常だろ?」

 おもわず俺、たたみかけるように問い続けた。


 どうせ、俺の生命の残りは短い。

 彼女が見えている未来というのは、なにかの間違いだ。そもそも、俺がなにをしたかわかっていないじゃないか。

 それに、彼女が言っていることは異常だ。

 感情なんか飛び越えた運命論で「一緒になりたい」と言われたって、引くだけだ。


 そりゃ、俺だって男だからね。

 ここまで綺麗な娘に対して、あわよくばという気持ち、ないわけがない。

 でも、中身がイカれているって言ったら言い過ぎかもだけど、理解できない相手と一緒にいるのは苦痛でしかないんじゃないだろうか。

 えっちと鑑賞だけが女性との付き合いじゃない。


 ともかく、最初に戻って考えれば、俺はつぐないをするために死ぬ決意をした。美子さんのことは、言わばオマケだ。

 それなのに、心の中でオマケに価値を見出してしまった自分が許せない。

 美子さんの言葉は、むしろ俺を自分の原点に引きずり戻していた。


 そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、彼女はその大きな目で俺の目を正面から覗き込んだ。

「言っていることはわかるよ。

 わかった上で、君ならわかってくれると思って話すよ。

 自分が死ぬと感じた時、君はどう感じた?

 自分が助かってしまったとき、それに代償があったと知ったとき、それぞれどう感じた?

 その上でだけど、今の私にどんな選択肢が残されていると思う?」


 そこまで言われて……。

 俺は初めて気がついた。

 死んだ方が楽だった。自分で自分を責め続けなくて済んだ。

 その2つの思いに、今、彼女は灼かれている。

 俺にとっての原点の思い、それと同じ重荷を美子さんは抱えてしまったんだ……。

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