第9話≪駆け降りた先に①≫
「……っ、はぁ……はぁ……」
|王の部屋(シークレットルーム)を出たユンヌは、体の震えを堪えながらも廊下を駆け抜け、途中に見つけた螺旋階段を無我夢中で駆け降りた。昇降用魔工具を使えばよかったのだが、使い方がわからなかったのだ。
降りている最中、背後からずっとあの鋭い視線のような冷たい何かが迫ってくる、そんな気がしてならない。
(早く……早く降りなきゃ)
ただひたすらに、下へ下へと降りることに意識を集中させた。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
手すりを使いながらも、ユンヌはなんとか一階に辿り着くことができた。
着いた途端、力が抜け膝から地面に崩れ落ち座り込んでしまった。
「はぁ……はぁ……もう、だめ……。力が……入らない」
そんなユンヌを、後から追い付いてきたレムが心配そうに見つめ、すり寄ってきた。
「レム……ありがとう。あなたが居てくれて、良かった……。」
レムに励まされた私は、震える足を叩き立ち上がろうとする。しかし、上手く力が入らずふらついてしまう。足元にいるレムも、必死に体を使って支えになろうとしてくれている。
体力は人並みにあるとは思っていたけれど、階段を駆け降りただけでこれほどまでに体の自由が利かなくなるだろうか。
(とにかく、早く、寮に帰らなきゃ……)
そう思う程、体は手足の先まで冷たく、そして鉛の様に重くなっていく。足は縺れ、一歩を踏み出すことすらままならない。しかし、私は強引に足を動かすが──
(あっ!)
そう思った時には既に遅く、縺れた足はちょっとした段差に躓き前のめりになった。
転ぶと思ったユンヌは、衝撃に備えるため反射的に手を前に出し、受け身の姿勢をとった。同時に目を瞑った。
しかし、転倒の衝撃は何時まで経っても訪れなかった。
むしろ倒れる所か、何かが受け止めてくれたような……。
(あれ?)
状況が掴めないユンヌは、恐る恐る目を開けると──。
「間に合って良かった、大丈夫かい?」
聞き覚えのある声。
ユンヌは顔を上げ、声の主を見る。
「……ど、どうして……?」
目の前にいたのは、先程まで|王の部屋(シークレットルーム)で話をしていたルイス本人だった。
「君が心配で追い掛けてきたんだ。そしたら、倒れそうになっていたけど、……こうして無事に受け止めることが出来て良かった」
そう言われて、初めて自分がルイスにぎゅっと抱き止められていることに気が付いた。
(っ!? は、は、離れなきゃ)
ルイスの胸に倒れ込んでいたユンヌは、すぐに姿勢を起こそうとする。しかし、背中に回されたルイスの手がそれを制止する。
「まだ術を解いていないから、無理に体を動かさない方が良い。体を痛めてしまうからね。」
そう言い、ユンヌの肩を支えて体勢をゆっくり直してくれた。
「術……って?」
「心配しなくていい。今、解いてあげるから」
そして、何かを唱えそのままユンヌの手を握る。何か温かいものが流れてくるような、そんな感覚だった。
(……体が、温かくなってきた。それに、震えが止まった?)
自分の体に起きた変化が無くなっていくのを感じた。
かけられていたという術が解けたのだろうか。
「うん、これで大丈夫」
「ありがとうございます」
「大したことじゃないよ。それに、仲間を助けるのは、当たり前だからね」
ルイスはユンヌに手を差し出した。
だが、ユンヌはその手を取っていいのかわからず、自力で立ち上がった。
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