第6話≪召喚と精霊①≫

「少しは落ち着けただろうか。もしそうであるならば、少し話をしても良いだろうか」


 向かいのソファに座ったルイスはそう言った。

 ユンヌは、ティーカップを机に置き、返事の代わりに頷いた。


「ありがとう。まずは、改めて自己紹介をさせてほしい。私はルイス・リスティフォード。私の隣に座っているのはジュン・ステイル。そして、君の隣に座っているのはミラ・ロゼリア。全員二年生だ」

「よろしくな、ユンヌ)」

「よろしくね」


「は、はい!よろしくお願いします!」


「俺のことはジュンって呼んでくれ」

「はい、えっと、ジュン先輩」

「あー、固い固い!別の呼び方で頼むよ」

「じゃあ……ジュン……さんですか?」


 そう呼ぶと、ジュンは嬉しそうに笑みを浮かべた。ジュンとやりとりをしていると、右肩をトンっと叩かれた。


「ねぇ、ユンヌって名前で呼んでも良いかしら?私のこともミラさんって呼んでね。お姉さまと呼んでも構わないわよ」


 隣に座っているミラが冗談混じりで言った。


「はい……えっと、ミラさん?」

「うふふ、良い子ね。先輩だからってあまりかしこまらなくて良いから。気軽に呼んでちょうだいね、ユンヌ」と、優しく微笑んでくれた。


「さて、我々の自己紹介も済んだところで、次は君のことを教えてもらおうか」


 ルイスは、次は君の番だと手で示した。


「えっと、私は、ユンヌ・エスプリットと言います。フィルザーン領出身です。基礎クラスはDに所属しています……」


「へぇ、結構遠い所から来たんだな」と、ジュンが言った。


「はい、だからここまで来るのに3日かかりました……。この都市がこんなに遠いだなんて思いもしませんでした」


「それは本当に大移動だったね」


 出身地の話の後、何を話そうか考えていた時、

「はいはーい!ユンヌはどんな魔術が使えるの?」と、ミラから質問があった。


「あぁ、そういえばそうだな。基礎Dってことは、ちょっとした属性術が使えるのか?」


 ジュンも疑問に思っていたことを口にした。


「いえ、違います。私は……精霊術を使うことができます」


 その少しの沈黙に違和感を感じたのは、ルイスだけだった。


「精霊術!?すごいじゃない!」


 ミラは驚いた様子で話していたが、ユンヌはいまいちよくわからなかった。


「精霊術を扱えることは、それほどすごいことなのですか?」


「精霊術は精霊と契約結ぶことで、初めてその強大な力を行使することができる。しかし、精霊と契約することがそもそも簡単にできることではないからね。だから、精霊術士は希少な存在なんだ。」と、ルイスから説明された。


「ねぇ、どんな精霊と契約しているの?」

とミラが興味津々な表情を浮かべていた。


 あまり、人に見せたことは無いのだが──


「えーと……、たぶん大丈夫かな。今、喚んでみますね」

 私は精霊を召喚するための詠唱を始めた。


「おいおい、ここで大丈夫か?」


 心配そうなジュンを他所に、私は詠唱を始めた。

 意識を集中し始めると、ユンヌの周囲が淡く光り始めた。大気中の魔素、そしてユンヌ自身の魔力が反応していた。


『異界に住まいし我が友よ。呼び掛けに応え、その姿をここに現せ』


 詠唱を終えるとユンヌの左横に魔素が集まり、そして精霊が現れた。見た目は、白い毛で覆われた美しい毛並みを持つ狼の様な姿の精霊。瞳はエメラルド色で宝石の様に透き通っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る