一目惚れ
ツキとエネは人通りの多い通りを歩いていた。ツキは通りすがりのカッコいい人を見て、二度見してしまう。それを見たエネは非常に興味を持った顔でツキに質問する。
「…一目惚れにゃ?」
「なっ、なっ、なにがっ?」
「ツキは分かりやすいにゃ〜。」
「…ちょっとカッコいいなぁって思っただけよ。」
「それはなかなか面白いにゃ〜。」
「駄猫には変な趣味があるようね。」
「まぁ、そう言われればそうかもしれないにゃ〜。」
「何がそんなに気になるのよ。」
「ツキはゾンビになったにゃ。たぶん次の世代に人間として生命情報を残せないにゃ。」
「まぁ、もう人間として生きていける気がしないわね。」
「そこにゃ!人間は常に生存と繁栄を基盤にして生きてきたにゃ。その制約が無くなったのに、ツキの体というか頭はまだ人間の時と同じように活動してるにゃ!」
「一目惚れがその活動だって言いたいわけ?」
「そうにゃ〜。人に好意を寄せるのも次の世代により良い種を残すためにゃ。」
「良い種って言い方が気に食わないわね。」
「なんでにゃ〜。他の動物も同じような事してるにゃ〜。」
「まぁ、そうなんだろうけどさ。そういう言い方されると他の動物と人間が同じみたいじゃない。」
「根本的なところは同じにゃ〜。」
「でも人と動物は違うじゃない。」
「どこが違うにゃ〜?」
「もう!分かってるくせに、わざわざ聞くのよね。」
「なんのことにゃ〜?」
「悪い顔して、そういう事言うわよね。」
「あーにゃーた だーけ 見つめてる!出会った日かーら今でもずっと!」
「…今日の晩ご飯は猫の尻尾のステーキってとこかな。」
「猫は食べ物じゃないにゃ!ダメ、絶対にゃ!」
「ほんと駄猫ね。人と動物で違うところってなにかしらね。改めて考えると以外に答えづらいわ。」
「人は対して考えてないってことにゃ〜。」
「んー、考えるって事が人間に出来て、動物には出来ないことなのかな。」
「そうかもしれないにゃ〜。」
「だって動物には予定を立てたり、罠を仕掛けたり、本を読んだり出来ないじゃない。」
「毎日大した予定が無い人も、罠を仕掛けない人も、本を読まない人も沢山いるにゃ〜。」
「そう言われればそうだけど…、人には出来るでしょ?」
「でもやってなければ動物と同じってことにゃ〜。」
「屁理屈ばっかね、この駄猫は。」
「だって本当のことにゃ〜。」
「…確かに。でも動物にビルは建てられないじゃない。」
「スケールが違うだけにゃ〜。」
「どういうことよ?」
「蟻だって蟻塚を作るし、蜘蛛は糸で蜘蛛の巣を、蜂は蜂の巣を作るにゃ。」
「ぐぬぬ…!じゃあ、創作ものは?本とか、映画とかは人間以外に作れないでしょ?」
「そういうことにゃ〜。動物と人間を分けるのは創造性のある事とか、ストーリーを書くこととか、嘘をつくことにゃ。」
「嘘をつくことも?」
「そうにゃ〜。」
「それだと誰でも一度はしたことがあるし、毎日誰かが嘘ついてるわよね、きっと。」
「人間は嘘つきにゃ〜。」
「全員が全員そうでは無いと思うけどね。…なんの話ししてたんだっけ?」
「嘘をつくくらいなら、にゃにも話してくれなくていいっ、あにゃたは去って行くの…」
「ミミガーって猫でもイケるかな…。」
「ダメにゃ!耳も尻尾も美味しくないにゃ!ツキが一目惚れしたって話にゃ〜。」
「…エネが正しいとして、私の中にある生物の生存と繁栄の本能がまだあったとしても、もう私はゾンビになってるから生存も繁栄もないのに、今になってから生きるってことに対して考えるようになったわね。」
「そんなもんにゃ〜。無くなってから、大切さに気付くにゃ〜。」
「…でも、エネが言うには私はまだ全部を失ったわけではないのよね?」
「見る限りではそうにゃ〜。」
「…ゾンビでも恋…出来るのかな。」
「あいらーびゅー、いーまだーけはーかにゃーしいーうたー、ききーたく、にゃいよぉ〜」
「その腐った脳みそを味見してみよう。ハンマーはどこかなっと。」
「そんな都合よくハンマーがあるわけないにゃ!探しちゃダメにゃ!」
「エネはゾンビになってから恋はした事ないの?」
「猫は恋なんてしないにゃ〜。」
「そっか…エネは元々猫だもんね。」
「猫とか人間と言うよりも、言葉の問題にゃ。」
「言葉の問題…?」
「この世の全ては言葉で作られている…。」
「そ、そうなの?」
「…かもしれないにゃ〜。」
「なによ!適当なこと言って。」
「恋とか愛って言うけど、そんなもの本当にあるのかにゃ?」
「あるじゃない。私は人を好きになったこともあるし。エネは恋とか愛とかが無いと思うの?」
「無いとは言わにゃいけど、生物が生存と繁栄をする上でそう思わされているのじゃないかにゃと思ってるにゃ。」
「思わされている?」
「そうにゃ。人を愛せば、人に恋をすればその分生存率が上がったって事だと思うにゃ。一目見て人を好きになったりするのは本能的で分かりやすいにゃ。でも恋とか愛とかはその本能的なものの上に、人としての理性とか言語的なものがある気がするにゃ。」
「なるほど……要するに脳が恋だとか愛だとかって概念に仕立てて人を騙して生存と繁栄を行っていると。」
「そんな感じにゃ。人に意識が芽生えたから何かしらの危険があったのかもしれないにゃ。」
「危険?意識が芽生えると危険なの?」
「意識が芽生えたことで生存と繁栄が上手くいかなかった可能性があるにゃ。だから、恋とか愛とかって概念を作り出して危機を乗り越えたのかもしれないにゃ。」
「…もうここまでくると意味が分からないわね。」
「もともとゾンビみたいな腐った脳みそでは考えるのは難しいにゃ?」
「…まずはあんたの脳みそを調べよっか。」
ゴンッ!
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