東京タワーにて

東京タワーに登りその骨組みの一部に座り夜の東京を一望している。お金を持っていないので入場料を払えず、仕方なく登ることにした。時間をかけ登ること数時間、地上から300メートルの所まで辿り着いた。


「わー、高いね。」

「た、高すぎるにゃ!」

「…怖いの?」

「こ、怖くなんてないにゃ!」

「ここから落ちても死なないでしょ?」

「それと、これとは別問題にゃ!」

「やっぱ、怖いんだ。」

「うるさいにゃ!そもそも何でこんにゃところを登ってるにゃ!」

「…そこに東京タワーがあったから?」

「登山家みたいなことを言うなにゃ!」

「こんなこと時間がなきゃ出来ないでしょ?」

「それはそうだけどにゃ。」

「何が見える?」

「何って…建物に車に人に木とかにゃ!」

「…こんなに立体的なんだよね、世界って。」

「立体的ってどういうことにゃ?」

「下に居るときは上を見上げて歩かないでしょ?」

「首が疲れるにゃ。」

「…また駄猫のダメ発言。」

「駄猫じゃにゃいにゃ!」

「建物にも乗り物にも天井があって、せまい感じがするよね。」

「まぁ、都会はどこに行ってもそんな感じにゃ。」

「この前、島に行ったときは空が大きかった。」

「田舎だったからにゃ。」

「3次元の世界なのに、2次元の世界にいるみたいだね。」

「上を見る必要がないからにゃ。」

「みんな時間に限りがあって、忙しいから上を見る暇もなんだね。」

「最近は特にそうにゃ。」

「最近?」

「あのスマホ、とかいう手のひらサイズの機械にゃ。」

「あー、確かにスマホとかゲーム機とかでみんな下向いてるね。」

「そうにゃ。なんど踏まれそうになったことかにゃ。」

「エネは蹴られても問題ないじゃない。」

「なんで、そういうこと言うにゃ!動物愛護協会に訴えるにゃ!」

「ゾンビは動物愛護協会で扱ってくれないと思うわよ。…時間が無くて上も見なくなってて、テクノロジーのせいで更にモノが見えなくなってるのか。」

「人は物理世界に囚われすぎてるにゃ。」

「物理世界?」

「五感で感じる世界にゃ。」

「それはなんとなく分かるけど…。」

「もちろん物理世界も大切にゃ、けどその他にも大切なことはあるにゃ…。」

「…例えば、なに?」

「上をむぅーいて あーるぅこう にゃみだが こぼれにゃいように~」

「…ゾンビって高いところから落ちるとどうなるのかな。」

「やめるにゃ!動物虐待、絶対、だめ!にゃ!」

「じゃあ、ちゃんと答えなさいよ!」

「例えば、人のつながりなんかは物理的ではにゃい気がするにゃ。」

「関係性とかってことね。確かに関係性は手で触れないのかな?」

「共感とかも同じにゃ。」

「そうね。駄猫のくせに色々知ってるわね。」

「長く生きるといろいろあるにゃ~。」

「形あるものはいずれ壊れるって言ってたね。」

「エントロピーにゃ~。」

「すぐそうやって、カタカナ使って!」

「人のつながりは物理的なものではないけど、壊れたりもするにゃ。」

「確かに…。面白いよね。出会ったばかりの人でも、凄く仲良く慣れたりとか。」

「情報的なものは物理の法則には囚われないにゃ~。」

「人のつながりは壊れないってこと?」

「壊れるときもあれば、長く続くこともあるにゃ。」

「そっか、友達関係とかどれだけ長く付き合ったとかじゃなくて、今どういう関係かのほうが重要なのかな。」

「そうなんじゃないかにゃ~。」

「またすぐそうやって曖昧な返事をするよね。」

「答えはないにゃ~。」

「…愛も同じかな?」

「情報的なものにゃ~。」

「親の愛とか、恋人同士、夫婦愛…。」

「…あいしてーるー のひびきだけーにゃー」

「ここから落ちたらゾンビでも死ぬかな?」

「俺で試そうとするなにゃ!」

「人が真面目な話をしている時に、ふざけるからでしょ!」

「ツキはゾンビのくせに真面目だにゃ。」

「だって時間たくさんあるじゃない。色々考えちゃう。」

「…こんな話があるにゃ。元気で明るく友達の多い人がいたにゃ。」

「うん。」

「その人の明るさと持ち前の元気さは周りの人も元気にして、みんなが明るくなったにゃ。みんなが楽しくなってたにゃ。」

「一緒にいたら楽しくなる人っているよね。」

「その人は若くして病気になって、死んでしまったにゃ。」

「…。」

「葬式も一般の人にしては大きなものが行われて、多くの人が来たにゃ。」

「…うん。」

「最初の3年くらいは人は墓参りに来たりするけど、5年もすると人は来なくなったにゃ。」

「…時間が経つと…忘れちゃうのかな。」

「でも、たった一人だけ毎年お墓参りに行くにゃ。」

「…。」

「多分1000人くらいの友達がいたけど、結局はそのうちの999人は大した友達じゃなかったことにゃ。」

「そんな言い方…。」

「でも、その中にたった一人だけ本当の友達がいたにゃ。」

「そうだね。1人でも本当の友達が居ただけ、よかったのかな。」

「俺はそう思うにゃ~。」

「人は沢山の人と深い関係にはなれないのかな?」

「それは分からないけど、時間とは関係が無さそうにゃ。」

「…そうなんだ。長い時間を過ごすことが深い関係になるとは限らないってことか。」

「でも時間は一定じゃないのにゃ~。」

「え?どういうこと?」

「楽しいことをしている時は時間は早く進むにゃ。」

「それは感覚的なことでしょ?」

「光の速さに近づくにつれて、時間の進みは遅くなるにゃ~。」

「…なにそれ?」

「物理的なことにゃ~。」

「全然分からない。」

「要するに時間は関係ないにゃ。」

「なによ!意味分かんない。」

「どれだけ、その人の心に残れるかにゃ~。」

「どういうことなの?もうわからない。」

「情報的なものは時間とか距離とか関係ないにゃ。」

「だからそれが何なのよ。」

「愛とか友情とかは物理の法則のには当てはまらないってことにゃ〜。」

「そうか。友情はどんなに距離を置いてもその強さを保てるし、愛だって同じか。愛があると強くなるものがあったり。」

「切りたくても切れない縁とかもあったりするにゃ〜。」

「ああ、そっちの方向でもあるよね。そういう情報的なものは死んだら無くなっちゃうのかな?」

「情報的なものは物理の法則には当てはまらないにゃ。情報として残っている限り、例え人が死んでもそこにあるにゃ。」

「駄猫のくせに難しい事言うわね。」

「ふたーりがはーぐくむ あーいのにゃーまーえは」

「後で感想聞かせてね?」


その日エネは自由落下を体験した。

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