島にて
東京、松芝にある港に停泊していた船に忍び込み身を潜めた一匹と一人。数時間の旅を終えある島へとやってきた。
そこには豊かな自然が溢れていた。その自然の豊かな山を登り、頂上付近で座るのに丁度いい木を見つけた。
数時間の登山の末に腰を下ろし、周りを見渡すとそこからは海が一望できる。自然に育った木々から雨風に守られ、冬を感じさせる少し冷たい空気の中ツキとエネは森と海を眺めていた。
「ツキ…」
「…何?」
「…今日で一年にゃ。」
「何が?」
「…この場所に座り続けて。」
「もう一年経った?」
「そうにゃ!いつまで座ってるつもりにゃ!」
「ついて来るっていったのはエネだよね?」
「…そうだけどにゃ!365日目にゃ!今日で!」
「ずっと数えてたの?」
「当たり前にゃ!3日過ぎたあたりから長丁場になる気がしてたにゃ!」
「猫の癖にマメね。もっと肩の力抜いたほうがいいね。時間はたっぷりあるし。」
「元人間に…そんな事を言われるとは…不覚にゃ…。」
「エネはここに座ってて、どうだった?」
「どうってなんにゃ!ずっと座ってただけにゃ!」
「…あの小さな木は私たちが来た時は、私と同じくらいの大きさだった。」
「今は1.5倍くらいあるにゃ!」
「植物の成長ってこんなにゆっくりなんだね。」
「あんまり気にしたことなかったにゃ。」
「うん。普通は気が付かないよ。」
「それが、なんなのにゃ?」
「人と似てるなぁって。」
「そうかにゃ?」
「うん。人って変わりたくても、すぐに変われない。」
「…。」
「過去に縛られて、動けなくなっちゃうんだよ。」
「ゾンビには関係ない話に聞こえるにゃ~。」
「なんで、そう思うの?」
「時間がたっぷりあるから、辛いことがあっても忘れるにゃ~。」
「そういうものなのかな。」
「そうにゃ~。5年前の事をどれだけ思い出せるにゃ?」
「5年前なら多分、思い出せるよ。」
「10年前はどうにゃ?」
「まだ小さかったからなぁ。」
「20年、50年、100年、500年と考えてみたらいいにゃ。」
「エネは…長く生きてるんだね。」
「数えてにゃいから、正確にはわからないにゃ。」
「そうなんだ。」
「例えば、ツキは生きている間は高校生だったにゃ。」
「うん。」
「いつまでそれを覚えていられると思うにゃ?」
「え~、それは流石に忘れないと思うけど。」
「脳みそには限界があるにゃ。」
「まぁ、無限に覚えられるとは思わないけど。」
「忘れるように出来てるにゃ~。」
「それって、なんか悲しい。」
「そうだにゃ~。」
「忘れたくないこともあるよ。」
「…。」
「忘れないためにはどうしたらいいのかな。」
「昔の人はこういう木に切り傷なんかの印をつけたりしてたにゃ。」
「その印は無くならないか。」
「木がまだ立って残ってればの話にゃ~。」
「そっか、そうだよね。木が燃えたり、折れちゃえば無くなっちゃうね。」
「物理的なものにはエントロピーの法則があるにゃ。」
「…エントロピー?」
「にゃみだーが~ にゃふれる~ きゃにゃしーい~ 季節にゃ~。」
「…ナイフはあったっけ?」
「やめろにゃ!尻尾は大切にゃ!」
「エントロピーって何?」
「自然の法則にゃ~。」
「もっと細かく分かりやすく言って。」
「形あるものはいずれ壊れる的なやつにゃ~。」
「そういうことね。わざわざ格好つけて、カタカナ使わないで。」
「日本語は世界的にかなりマイナーな言語にゃ~。」
「それもそうね。…全部忘れちゃうんだ、結局。」
「死んだら、それまでにゃ~。」
「死んでも、生きてる私たちは…?」
「死んでても、生きてても、今何しているかが大切にゃ~。」
「今、何をしているか…?」
「そうにゃ…。一年も同じ場所に座るなんて最悪にゃ~。」
「…ナイフ、ナイフ。どこにしまったっけな?」
「持って来てないにゃ!探すのやめるにゃ!」
「今、何しているかが大切なんだね…。」
「生きてても何もしてにゃきゃ、死んでるのと同じにゃ~。」
「まさに生きてるゾンビ。」
「そういうことにゃ~。」
「私は死んじゃったけど、ゾンビになったのにはきっと理由があるよね。」
「猫はなにも知らないにゃ~。」
「…駄猫。」
「聞こえてるにゃ!」
「私はゾンビになった理由を知りたい。」
「にゃ~。」
「ゾンビになってるから変だけど、生きる目標も決めたい。」
「まずはこの島からの脱出にゃ!」
「そうね。もう十分ここの四季も堪能したし。」
「…よし、作戦成功にゃ…。」
「聞こえてるわよ。」
「に、にゃ~。」
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