駅内にて

出会いから数日後、平日の古宿駅内で足を止め壁に寄りかかり早8時間、止むことのない人がスクランブルしながら、どこかへ向かっているのをツキは眺めている。エネはその横で顔を擦ったり、毛繕いをしている。


「...何を見ているのにゃ?」

「人。」

「うん。それは、なんとなく知ってたにゃ。」

「うん。」

「...」

「...」

「...何故、人を見ているのにゃ?」

「みんな、どこにいくのかなって。」

「仕事にゃ。」

「...死んだら、働かなくていいのにね。」

「生きている時は飯を食わにゃきゃいかんのは知ってるにゃろう。」

「うん。」

「...」

「人はなんで生きてるのかな?」

「猫にそんな事聞くかにゃ~。」

「一生懸命働いて、疲れきって、それでも競争してる。」

「生きてる猫も食べるモノを探して必死にゃ。」

「猫は分かるよ。動物だもん。」

「人間も動物にゃ?」

「そうだけど、猫に電車作れる?」

「作れないにゃ。」

「うん。人間は色々作れるし、考えられる。」

「そういう意味では少し違う動物なのかにゃ。」

「でも、目は輝いてない。」

「ここ(日本)は特にそうかもにゃ。」

「外国は違うの?」

「違わにゃいけどここ密集してるから、見えやすいかにゃ。」

「意外に物知り。」

「褒めても何もでにゃいぞ。」

「お金を貯めて、良い家買って、高い車買って、美味しいご飯食べて、旅行に行って、可愛い奥さんと結婚しても、いつかは死んじゃう。みんな死ぬって分かってるのに、どうして一生懸命生きるのかな?」

「…。」

「生きる意味ってなに?」

「…にゃ~にゃ~にゃ~、にゃにゃっにゃあ、こと ばに でき にゃあい♪」

「…尻尾抜きたくなってきた。」

「やめろにゃ!」

「私は真面目な話してるのに!」

「…人間は長いことその答えを探してるにゃ。探さないで一生を終える人もいるにゃ~。」

「答えは…無いって事?」

「人によるにゃ。」

「どういうこと?」

「ツキは人間だった頃に、何時間も何時間も、ダラダラダラダラダラダラダラダラと、駅内で人を観察した事はあるかにゃ?」

「なにか文句があるようね。…無いわよ。」

「今までと人間の見方は変わったかにゃ?」

「そうね。少しは変わったかしら。」

「その視点と思考を人間だった頃のツキに伝えて、理解できると思うかにゃ?」

「...多分、無理ね。」

「そういうことにゃ~。」

「どういうこと?私には理解できないって事?」

「人に言われても、分からないもんにゃ~。」

「自分で考えろってことね。」

「そういうことにゃ~。」

「なんかヒントだけでも。」

「ん~…生きる意味の前に、生きるとはどういう状態かを考えてみたらいいにゃ~。」

「どういう状態…?」

「ツキと生きている人たちの違いはなんにゃ?」

「食欲、睡眠欲、性欲、排泄行動が無くなったかな。」

「俺がツキに興味がある部分がそこにゃ。」

「…なんの話をしてるの?」

「生命活動を終えたのに、心はあるにゃ。」

「…確かに。」

「心だけになった人が何をするのかに興味があるにゃ。」

「それが生きる意味と何の関係があるの?」

「…にゃ~にゃ~にゃ~…」

「ライター買ってくる。その無駄に動く尻尾を焼こう。」

「やめろにゃ!」

「もっと分かりやすく、何を考えるべきなのか教えて。」

「俺は猫だったにゃ。毎日食べて、寝てれば良かったにゃ。」

「…うん。」

「その他の事は意識にも上がらないにゃ。」

「どういうこと?」

「ん~例えば、地球は自転しながら公転しているらしいにゃ。」

「それは、知ってる。」

「でも、そんな事を考えなくても、生けて行けるにゃ。」

「それは、そうね。普段からそんなこと考えない。」

「そういう事を考えたらいいんじゃないのかにゃ。」

「えー。曖昧すぎる。」

「ツキがじーっと人を見てて生きる意味を考えたように、考えていればその内答えは出るにゃ。」

「そうなの?」

「たぶんにゃ。」

「多分!?」

「俺は猫にゃ~。猫に頼るようでは答えは見つからないにゃ~。」

「腹立つ猫。…ライターはどこで…。」

「やめるにゃ!」

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