ツキとエネ

アラヤス

満月の夜に

2020年10月31日土曜日午後8時00分


去年はこの時間の甘谷区のスクランブル交差点はコスプレをした人で埋め尽くされていた。コロナが世界を圧巻しこの小さな島国まで影響を与えている。今年は仮想(バーチャル)で仮装をするとニュースが流れていたにも関わらず、感染を止めようと多くの警官も出回っている。それでも若者は外に飛び出て元気良くハロウィンを楽しんできる。


『...仮想のなにが楽しいのにゃら。お祭りごとで集まってやるから楽しいんにゃろうが。』


一匹の青白い猫がテクテクと目的もないような素振りで警官を横目に歩いている。その猫は人気の無い方向に向かい歩き、午前2時になる頃に寒く静かな墓地に辿り着いた。


墓地を歩いていると、満月の夜に照らされ見えたのは人影だった。こんな時間に誰が?と気になったその猫は、その人影に近寄っていく。


目で確認出来る距離まで近づくと、制服を着た女の子がすすり泣いているのがわかった。さらに距離を縮め様子を見ると服は汚れ所々破けている。誰かに襲われたのだろうと思ったが、何か違うモノを感じその猫はさらに近づいた。


制服を着た女の子は何か気配を感じたのか、急に後ろを向いた。


「誰!!?」


その猫は確認が終わりそれ以上怖がらせるつもりはなく、さよならの意味を込めて鳴いた。


「さよな...ミャ〜。」

「...え?」


ヘマをし危険を感じ足早に去ろうとした猫の尻尾を、咄嗟に制服を着た女の子が掴んだ。その掴まれた尻尾は根本から取れ、掴んだ手も手首から取れて地面に落ちた。尻尾を掴んだままの手と、蛇のように暴れる尻尾は地面で無言の戦いを繰り広げている。


尻尾を失った猫は尻尾を奪い返す為、手を失った制服の女の子は興味と恐怖からお互いを睨みあっていた。


「...言葉話すの?」

「に、にゃー...。」

「...さっきはミャーって。」

「...ミ、ミャー。」

「...やっぱ、話せるんだ。」

「...何のことにゃ...。」

「何で猫なのに喋れるの?」

「では、なんで人間は話せるのか?...まぁ、もう人間ですらにゃさそうだけども。」

「...私、どうなっちゃったの?」

「ゾンビにゃ。」

「私...ゾンビになっちゃったの?」

「そうにゃ。」

「...だから、か。」

「心当たりがあったのにゃ?」

「気がついたら、ここに座ってて、急にポロンって目が取れたの。目が取れたのにその目に映った映像はそのまま見えるの。...怖くなって泣いちゃった。」

「最初はもんなもんにゃ。」

「猫さんも...ゾンビなの?」

「そうにゃ。」

「...そうなんだ。私みたいな…ゾンビはたくさんいるの?」

「...いや、俺以外のゾンビ初めて見たにゃ。」

「え!?初めて?猫さん何歳?」

「そうにゃ。何歳と聞かれても分からないにゃ。...あと、尻尾をそろそろ返してもらっていいかにゃ?」

「あ!ゾンビだもんね…。ごめん、凄い掴んでたね。」

「まぁ、長い間ずっとにゃ。」

「そうなんだ。私が2番目なのかな?」

「世界を旅して回ったけど、一度も会ったことないにゃ。」

「なんか…運命的。」

「ゾンビに運命も何もあったもんじゃないけどにゃ。」

「ゾンビは死なないの?」

「そうにゃ。...まぁ、格言は出来にゃいけど、俺は長いことこのままにゃ。」

「...そうなんだ。私も長く生きれるかな?」

「生きれるって表現は少し違うけどにゃ。」

「そうだね。…猫さんの名前は?」

「名前は、まだ無い。」

「それ、秋目漱石。」

「...エネにゃ。」

「エネ。私はツキ。」

「満月の夜にツキにゃ。」

「今日はハロウィンで満月だね。私がゾンビになったのと関係あるかな?」

「…分からないにゃ。」

「エネはこれからどこに行くの?」

「決めてないにゃ。」

「そうなんだ。猫だもんね。自由気ままに移動出来るよね。」

「ツキはこれからどうするにゃ?」

「どうするも、こうするも…。もう人間社会では生けていけないよね?」

「そうかもにゃ。…肌はだいぶ青いにゃ。」

「もうお嫁さんになれないのかな?」

「それ一番最初に心配することじゃないにゃ~。」

「エネ…私はこれからどうしたらいい?」

「猫にそういう事を聞くかにゃ。」

「…1人だと怖いよ。」

「そ、そんにゃ事を言われても。」

「ゾンビ友達が欲しいな。」

「ん~。」

「1人になったら、また泣いちゃう。」

「…にゃ~…分かったにゃ。時間はあるにゃ。」

「やった!…意外と簡単だった。」

「にゃ!簡単!?」

「へへ。エネはいつも何してるの?」

「意外とお茶目なやつにゃ。…散歩と観察にゃ。」

「観察?」

「そうにゃ。動物を観察したり、人間を観察したりにゃ。」

「それが楽しいの?」

「楽しいというより、それくらいしかやることが無いにゃ。」

「ああ、死なないと時間が関係ないのか。」

「ある意味では生きるのよりも地獄だにゃ。…観察してて大きく変化するにょは人間だけだにゃ。」

「…どういうこと?」

「自然…動物や植物は昔から変わらず、少しずつ多様性を持ちながら変化しているにゃ。でも、人間は大きな変化をもたらしたにゃ。大勢での殺し合いから、鉄道、電気などの発見、発明…。」

「…猫の癖に難しい話するね。」

「長く生きてるからにゃ。」

「その変化を見ながら世界を周ってるの?」

「まぁ、そんなとこにゃ。」

「私も連れてって。」

「ツキがやりたい事、行きたい場所に付き合うにゃ。」

「えー。私が先導するってこと?エネは雄っぽいから、リードしてよ。」

「嫌にゃ。俺は猫だにゃ。…実際、興味がある。」

「私に?…まさか、そういう趣味?」

「毛が生えたばっかりの小娘が、スケベなことを言うにゃ。」

「口の悪い猫ね。で、何に興味があるの?」

「ゾンビとなった人間が何をするのかに、にゃ。」

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