第4話:鍛錬

 私とメルスリアは、繰り返し六階層を巡り歩いて鍛錬をしました。

 聖女のメルスリアの回復力なら、魔狗程度を相手に魔力が尽きて戦えなくなることはありません。

 使う魔力よりも回復する魔力の方が多いのです。

 問題は気力なのです。

 ダンジョンという危険な場所で常に緊張をしていれば、体力や魔力が十分にあっても、気力が尽きて戦えなくなることがあるのです。


「さあ、貴方達も持てるだけ魔狗を持ってください。

 メルスリアの魔法袋は膨大ですが、それでも今は魔狗千頭が限界ですからね」


 真っ赤な嘘です。

 メルスリアならば、魔狗くらいの大きさなら、一万頭でも二万頭でも収納する事がでいますが、千頭くらいが常識的な上限でしょう。

 それでも、この国の魔法袋使いの十指に入るはずです。


「すっげええなあ、なんで姉ちゃん達はトップパーティーに入らないの?

 メルスリアの姉ちゃんがエリーゼ姉ちゃんと一緒じゃなきゃ嫌だと言ったら、エリーゼ姉ちゃんも一緒にトップパーティーに入れるんじゃない?」


 確かに彼らの言う通りでしょう。

 でも私達なら二人でトップパーティーになれるのです。

 二人で自由気ままに旅をしようと口説いて、メルスリアをフレーヌ王国から出奔させたので、男のいるパーティーと一緒にいるのも駄目なのです。

 聖女として純粋培養されたメルスリアは、軽い男性恐怖症なのです。


「私達はトップパーティーに入るのではなく、私達がトップパーティーになるのよ。

 今日はメルスリアばかり目立ったけれど、それは弱いメルスリアを鍛えるためよ。

 本気で戦えば、私の方が強いのよ」


「「「「「ふぅぇええええ!」」」」」


 あまりにも驚いてしまったようで、アイアンハートのメンバーが驚嘆の声を上げてしまいましたが、彼らにはもっと驚いてもらって、尾鰭がついて化け物のようになった噂を広めてもらわなければいけません。

 彼らに噂を広めてもらって、メルスリアを鍛えるためにはどうしても必要な、醜いモンスターを誘い出さなければいけないのです。


「今日はよく働いてくれたわね、御礼に運んだ魔狗のうち一頭は駄賃にあげるから、今日の食費の足しにしなさい」


 魔狗は多少毛皮に価値はあるが、肉には独特の臭気があって好む人が少ないです。

 その分安価だから、貧乏人や駆けだし冒険者がよく食べています。

 アイアンハートの六人も、毛皮だけを小銅貨五十枚、日本円で五千円位の価値でギルドに購入して貰っていました。


 私達は千百七頭をギルドに売ったので、五万五三五〇小銅貨を手に入れました。

 全部小銅貨でもらったわけではなく、ちゃんと金貨銀貨銅貨でもらっています。

 日本なら五百五十三万円くらいの価値があると思います。

 食糧の価値が高く人件費が安い世界ですから、何を基準に考えるかで全然単価が変わってきてしまいます。

 まあ、転生してこの世界で生きていくしかないので、日本の事を考えても仕方ありませんね。

 それよりは、明日の事を考えなければいけません。

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