第2話:冒険者

「メルスリア、後ろには十分気をつけてね」


「はい、でもここはモンスターが湧く場所ではないので、大丈夫です」


 メルスリアもモンスター狩りに慣れたのか、自信をもって答えます。

 私もここがモンスターの湧く場所ではない事は分かっていますが、六階層まで来ると別の危険があるのです。


「そうではなく、愚かな奴がモンスターを引き連れてくることがあるのです。

 このダンジョンは、五階層ごとに、一気にモンスターが強くなります。

 愚かな奴は、自分の力を過信して、六階層に来てしまいます。

 そして助かりたい一心で逃げ出し、多くのモンスターを引き連れてきて、他の冒険者に押し付けたりするのです」


「まあ、そんな酷い連中がいるのですね、初めて知りました」


 メルスリアが凄く驚いています。

 幼い頃に治癒の奇跡を行ったメルスリアは、国に囲われて純粋培養されました。

 世間知らずのお嬢様ですから、人間の汚さを知らないのです。

 上手く育てれば、若返りの奇跡すら行えるようになるかもしれません。

 糞ゲームを最良の形でクリアすれば、若返りスキルを手に入れられる設定でした。

 そんなメルスリアを連れ出したのですから、国はカンカンに怒っているでしょう。


「だから常に後方に気をつけてください」


「はい、分かりました」


 私が全周囲に気を配っていますから、まずは大丈夫なのですが、メルスリアにも成長して欲しいですからね。

 おっと、言っている端から愚かな冒険者達が前からやってきましたね。


「逃げてくれ、すまない、逃げてくれ、頼む、逃げてくれ」


 まだ謝れるだけの良心はあるようですね。

 だったら助けてあげましょう。

 私達にモンスター押し付けて助かろうとするなら、メルスリアに分からないように全員転倒させて、モンスターの餌にしてあげていましたよ。


「支援します、一列になりなさい」


 私の言った意味が分かったのでしょう。

 幼さの残る六人の冒険者が、縦一列になりました。

 これで彼らに誤射する可能性が低くなりました。


(魔弾)


 私は、幼い頃からの鍛錬で、無詠唱で魔術を発動できるのです。

 それに、火や水の属性をつけるために、魔力を減衰させる事がありません。

 私は使った魔力を、そのまま敵に叩きつける事ができます。

 純粋な魔力をそのまま、敵の脳内に発現させます。

 脳が一番素材として価値が低いから、破壊しても買取額に影響しないからです。


「「「「「ギャ」」」」」


 反射なのか、鳴き声とも呻き声とも分らないモノを発して、五十三頭もの魔狗が一斉に倒れます。

 単価は安いですが、五十三頭もいればそれなりの金になります。


「もう大丈夫です、魔狗は斃しましたよ」

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