姉が可哀想なので、婚約者を譲る事にしました。

克全

第1話:婚約破棄

「ジリオン公爵家令嬢エリーゼ、今まで我慢に我慢を重ねて来たが、もう我慢の限界だ、度重なる非礼許し難い。

 本来なら婚約解消の上で死刑とするところだが、ジリオン公爵家の長年の忠勤と、ロアリナの懇願に免じて婚約解消の上で国外追放刑とする」


 ようやくです、ようやく婚約破棄がかないました。

 乙女ゲームと全く同じ世界に転生してしまい、その設定を覆そうとしてもどうしても覆せない雁字搦めの世界を、ようやく変える事ができました。

 史上最低の糞ゲームと呼ばれた設定を、何としてでも変えたかったのです。

 特に姉妹で王太子を争い、最後は憎しみ合って相討ちとなり、ヒロインが王太子と結ばれる設定など、断固として認められませんでした。


「ロアリナ御姉様、殿下にとりなして頂いた事、感謝いたします」


「エリーゼ、貴女……うっうぅぅぅぅぅ」


 ロアリナ御姉様が、万感の思いを込めて私を見つめられ、最後はこらえ切れずに嗚咽を漏らして泣きだされました。

 両親から愛されず、虐待とも言える仕打ちの中で育てられたロアリナ御姉様。

 逆に溺愛され、甘やかされて育てられるのが妹の私でした。

 私がこの世界に転生しなければ、本当にそうなっていた事ででしょう。

 ですが、前世の記憶を持って、私が妹のエリーゼとして生まれ変わったのですから、断じてロアリナ御姉様を不幸にはしません。


「ロアリナ御姉様、泣かないでください、死に分かれる訳ではないのですから」


 私は両親の性根を叩き直そうとしましたが、無理でした。

 ゲームの設定から外れる事ができないのか、それとも人として狂っているのか、どうしても姉上への虐待を止められませんでした。

 両親を殺してしまう事も真剣に考えましたが、この虐待が両親の責任ではない可能性も高いので、殺す事ができなかったのです。

 ですから、両親の眼を盗んで、姉上を慰め助ける事にしました。


「本当ですよ、本当にまた会えるのですよね」


 だからこそロアリナ姉上様は、ゲームの設定を討破って私を憎まなかったのです。

 私達姉妹の愛情が、ガチガチのゲーム設定を討破ったのです。

 糞ゲームを内側から破壊できた事は痛快でしたが、ヒロインを放置しておくと、今度はロアリナ姉上様が婚約破棄され、殺されてしまうかもしれません。

 ですから、ヒロインのメルスリアと親友となって、私と一緒に国を出るように仕向けたのです。


「はい、殿下の勘気が解ける時が来ましたら、直ぐにロアリナ姉上様に会いに参りますので、それまで御元気になされて下さい」

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る