第81話 心、重ねて

 詰めていた女官を下がらせると、リアは一人でカーラの部屋に入った。

 簡素な部屋だ。机の上に書類があるぐらいで、他には何も、生活臭を感じさせるものはない。

 奥にある天蓋付きのベッドに、カーラは横たわっていた。

 顔色がまだ白い。その白さが、逆に美貌を人間離れしたものへと昇華させてしまっている。

「リア?」

「起こしてしまったか?」

「いえ」

 起き上がろうとしたカーラを、ベッドへと戻す。

「まだ辛いか?」

「いえ、体力は回復していませんが」

 そう言いながらも、魔力もまだ回復していないだろう。



 リアはカーラの右手を取った。切断面は、綺麗につながっている。

「もう、動かせるのか?」

「少し痺れは残っていますが…」

 リアはなぞるように手を動かすと、舌先でその部分に触れた。

 丹念に、リアはカーラの腕を唇でなぞる。それは指先に達し、小指の先を、唇で噛んだ。

 ほう、とカーラが吐息する。リアは手を伸ばし、カーラの衣服を脱がせにかかる。

「リア……」

「他の傷跡も見せてくれ」

 そう言ってリアは、カーラの服の襟を広げた。

 傷跡は綺麗に消えているが、少し赤みを帯びている。

 リアは指先と唇で、カーラの体をなぞっていく。

「もう二度と……他のやつに触れさせたりしない」

 カーラの手が動き、リアを自分の体で抱きしめる。



 見つめれば、カーラの目も濡れていた。

「二度と私の……手の届かないところにはいかせない」

「それはあなたが、私の手を離さないというなら」

 お互いが求めるように、唇が重なった。

 唇を割って、舌が絡み合った。

 手と手が絡み合い、足と足が絡み合って、それが一人の生き物のように、なまめかしく動いた。



 何度も舌を吸い合う。手と手、足と足の熱を交換する。

 やがてリアの下腹部から、信じられないほどの熱が生まれた。

「リア、それは……男性の……」

 熱に浮かされたカーラの美貌に、驚きの色が見える。

「バルスが言っていた。お互いが強く求め合うと、自然とそうなると……」

 その通り、カーラはリアを強く求めていた。

 リアももちろん、カーラを強く求めていた。



「はい、リア……来てください……」

 仰臥したカーラは、リアを迎え入れるべく動く。

 そしてリアも、カーラの中に己を差し出した。







 その夜、二人は重なり合った。

 何度も。

 何度も何度も重なり合った。



 リアはカーラの中に放ち、何度も動きを変え、放ち続けた。



 カーラはリアの手のままに動き、反応し、そして何度も達した。



 何度も。何度も何度も。二人は求め合った。いくつもの形で与え合った。



「言ってなかったな。愛してる、カーラ」

「ええ、私も、愛しています」

 今更ながらの告白だった。







 朝の光が強い。これは、かなり寝過ごしたのではないだろうか。

「リア、起きてください」

 何年ぶりだろうか、人に起こされるのは。

 全裸のリアが目を覚ますと、その腕の中にいたはずのカーラは既に服に袖を通し、普段と変わらない様子でベッド脇に立っていた。

 まるで昨晩のことが夢のようであるが、寝台の上の惨状が、夢ではなかったことを教えてくれる。

 リアの肉体は普段のものに戻っていた。まさに、あの時だけが、そう必要としたように。



「私は仕事に入ります。ベッドを……お願いできますか」

 カーラが小声で言う。確かにこれは侍女に任せるわけにはいかないだろう。

「分かった……。……体は大丈夫か?」

「まだ、あなたが入っている気がします……」

 かすかに頬を染め、カーラは言った。

 そんなことを言われては、リアも赤面せざるをえない。

「今日は、軽い仕事だけにします。……あ……」

「どうした?」

 もじもじと、カーラが内股をこすり合わせた。

「あなたのが……中から……」

「す、すまない」

 二人して赤面しながら、カーラは無理やり毅然とした様子へ切り替える。

「では、また後で」



 そう言って部屋をでたカーラを見送り、リアはまたベッドに寝転んだ。

「かわえかった……」

 リアの腕の中で、求められるままにカーラはその姿勢を変え、リアもまた、カーラが望むところに、唇と指先で触れた。

 あれを、一つになると言うのだろう。

「ああ、いかんいかん、お掃除お掃除」

 そういいつつも、リアはカーラの純潔の部分を散らしたシーツを、くるくると巻いてしまってしまう。

 いつかまたする時にでも、これを見せて反応を確かめたい。



「それにしても……疲れた……」

 カーラが初めてなのは分かっていたが、止められなかった。自分の中から根源的なものがごっそりと抜けてしまった気がして、起き上がる気になれない。

 何度したのか、覚えていない、体力の限りにしてしまったが、怪我を治したばかりのカーラが平気だったのか、いまさらながら心配になる。

「カーラ……」

 彼女の指先と唇が触れた、ほぼ全身。

 リアは自らを抱きしめて、もうしばらくだけ寝台の上から動かなかった。

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