第61話 魔王様は驚く

「それではハルトさん、また明日」

「ええ、お気をつけて」


 フェルナさんと約束をして宿に戻り、部屋の鍵を開ける。

 ブーツを脱ぐとそのまま、ベッドにどさりと倒れこむ。

「あ~」

 思わずうめき声。


 なんなの?

 あの二人、いったいなんなの?

 馬鹿なの? 死ぬの?

 勘弁してもらいたい。


 いや、カーラが強いのは知ってたよ? 実際に一緒に戦ったわけだしさ。でもあれから三年で、また別人のように強くなってるし。

 あの子、19歳でしょ? いくらギフトが強力とは言え、転生の記憶も持たない、異世界転移の恩恵も持ってない人間が、あそこまで強くなるのかね?

 まあ、実際に強くなってるわけだけどさ……。


 暗黒熱核爆裂地獄って、あれ禁呪よ? 国家管理の下に置かれた、持ち出し不可の呪文なわけよ。

 普通なら戦争でも使わないような、条約で禁止されている呪文なのよ。

 まあ、条約守らせる帝国は消えちゃったけどね!

 つーか、僕がやらかしちゃったんだけどね!

 仕方ないじゃん、クラリスがいると帝都を攻略できないんだから。

 それでも、300万は死にすぎだよ……。

 ……全部僕の責任だけどさ。彼の責任じゃない。責任回避はしないよ。

 反省終わり。


「う~」


 そんでもって天地崩壊って……あれ、大崩壊で神々が使ってた魔法だよね? どっから手に入れてきたのよ。

 いや、たとえ使い方が分かっても、実際に使えるものじゃないはずなんだけど……。

 神の血脈、ハンパないわ。


 うあ~。

 絶対に敵に回したくない。

 ただでさえあの人たちと戦わなければいけないのに。


 まあ、敵に回したくないという意味では、もう一人の女の子の方がやばいけど。

 うん、レイとアスカから聞いてはいたんだけどね。

 リュクレイアーナ・クリストール・カサリア・オーガス。長いな。

 全然関係ないけど、クリストールってクリトリスと似てるよね?


 ……現実逃避してないで、真面目に考えよう。


 あれはやばい。

 1000年間勇者たちから逃げ延びてきた、僕のハムスター的直感が言っている。

 あれは敵に回してはいけないものだ。

 レイが最初友好的に接触したらしいけど、GJと言わざるをえない。今度会ったら、頭を撫でてあげよう。

 アスカと違って、レイは自分からあれこれして欲しいとは言わないからなあ。


 さて、考えるべきことは、だ。

 まず、リアという子と、直接接触することかな。

 ああ、けど竜眼のギフトを持ってたら、こちらの正体がばれるのか。

 どうしよう。やはりここはアスカに任せるか。これからの動きも考えれば、あの子なら上手く立ち回れるだろうし。

 でもなあ、アスカ、本人は気付いてないけど、ちょっと…大分うかつなんだよね。

 獣人やオーガに差別意識を持っていない子みたいだし、魔族とも平気で付き合えるから、案外簡単に仲間になってくれそうではあるんだけど……。


 あの子、脳筋っぽいんだよなあ。

 普通一国の英雄様に、初対面で喧嘩売らないでしょ。

 バトルジャンキーよあれ。

 平和な日本でまったり高校生してた僕としては、勘弁して欲しい相手。

 フェルナさん相手には笑ってたけど、正直ドン引きでした。

 でもね、予想なんだけど、これもかなりの確率で、こっちのスキルとか見抜いて戦い挑んできそう。


 おまけにあの子の使ってたの、日本刀じゃん。

 どうして刀よ。この世界じゃ、南方でしかほとんど使ってないよ?

 どう見てもこっちの世界の人間だから、召喚勇者じゃないのは分かってるけど、ありえないわ~、あれは。

 動きがね、うにょうにょ変。

 あれ、前世の日本で見たような気がする。中国拳法っぽかったもん。

 転生者なのかねえ。

 転生で竜の血脈持ってるのって、初めてなんじゃないかな。

 戦いたくないよな~。

 戦いたくないでござる! 絶対に戦いたくないでござる!


 でもああいう血の気の多い子って、こちらが勝負してあげないと、へそ曲げる子多いからなあ……。

 って、それ魔族と同じじゃん!

 またあの頃の血みどろデスマーチ……いやいや、今度の相手は一人だ。そこまでひどくはないはずだ。

 幸いカーラとは友情が芽生えたようだし、そちらから話を通してもらうかな。

 はあ、また考えること多いよ。


 とりあえずコルドバはどうにかしないとね。

 もうね、あの国悲惨なのよ。

 軍備に力入れすぎて、バランスが取れてない。国民が飢えている一方で、軍備拡張して軍部優遇して、軍事力で不満抑えて、他国侵略してまた軍備増強。

 終わってるわ~。

 最初はちゃんとした国だったんだけどね。厳正な法律を、明確に運営する、国民の負担を公正に考えた組織だったのに。

 ちょっと目を離したらこのざまよ。法治主義じゃなく放置主義です、って笑えんわ!

 いったん解体するしかないのかなあ。でもそれも、手段を間違えるといっぱい血が流れるしね。


 ちょっと他の場所のことも考えてみよう。

 イストリアはいいよね。なにしろ王子様、奴隷解放を政策に掲げてるぐらいだし。

 まあ成功する確率は低いけど、その過程でこちらもじわじわ浸透していけばいいか。

 人魔共生。奴隷解放よりもよっぽど困難だけど、あの王子様ならむしろ燃えてくれそう。軍師殿もいい人だしね。

 ……だから今まで内乱終わらなかったんだけど。いや、人のせいにしても駄目か。終わらせなかったのも僕だしなあ。


 レムドリアは……ホリン王、長生きしてほしいなあ。でもあの人、自然に身を任せるタイプだから、延命魔法嫌うんだよな。あと100年ぐらい長生きしても、僕から見たら大差ないんだけど。

 後継者問題だよなあ、問題は。兄弟仲はいいんだけど、主義主張がね。特にシオン王子が、戦場では頭柔らかいのに、普段は頭固いから。

 軍の総司令官とかしてもらったらありがたいんだけど、そもそも魔族領とは軍の運用法自体が違うしなあ。

 黒猫の人たちもあそこには注力してるし、こちらから手を出すのはやぶ蛇か。


 カサリアは……ちょっと、担当者を間違えた。

 そりゃ、少し国内を混乱させろとはいったけど、それはあくまでも手段であって、目的じゃないのよ。

 大臣を直接暗殺とか、そういうの趣味じゃないというか、あの人たちに見つかって殺されても、助けないよ?

 まあしばらくはコルドバに注力しなければいけないから、こっちに呼んで直接目の届く範囲で監視するか。

 失敗したら即粛清じゃ、独裁者と変わらないもんね。


 ああ、そうだ。こちらが一段落したら、一度魔族領に戻ろう。

 報告は受け取っているとは言え、宰相に投げっぱなしじゃ、まるで人間世界の暗愚な君主と同じだ。

 魔族に寿命の長い種族が多いとは言え、人事の刷新も必要だしね。

 ……僕とバトりたい人もまた増えてるんだろうなあ、面倒くさい。


 ……そういえば、もうそろそろ夕食の時間か。

 やはり料理は魔族領の方がおいしいけど、ここの宿の料理だって負けてはいない。そもそもそれが目当てで選んだわけだし。

 さてさて、今日の料理はなんだろう。


 サンダルに履き替えて、部屋を出る。

 この匂いはシチューだな。煮込み物はそうそう外れもないよね。

 まだまだ考えることはあるけど、今は空腹を満たすことこそジャスティス!

 鼻歌など歌いながら、階段を降りていく僕でした。まる。

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