もう一度あの青春を取り戻して

 あのスポーツ大会とその後の日々は今でさえ鮮明に覚えている。

 決勝で勝ってからクラスに戻ると勇者のように持て囃され、それからは中学時代を彷彿とさせるようにクラスメートに囲まれるようになっていた。

 他に何かあったと言えば、大川と高松、そして決勝で対戦相手だった3人の元バレー部の面々に誘われて入部したことや、色々な女子に告白された事。


 もちろん『付き合う』なんて言うことに俺自身が興味を持っているわけではないが、それでも一度捨てたはずの青春が戻ってきたということは確かだった。


「先輩も先輩らしくなってきましたね」


 とは、琴乃葉の言葉だった。

 そんな言葉には妙に納得できてしまう。

 本当は寂しがり屋な俺が勝手に孤立しようとして誰かの助けを求めていた。でもそれが、何もしていなくても周りには人であふれるくらいになったんだから。


 ともあれ、そんな日々を過ごしながらも高校バレーを一通り経験した俺は、大学に入ってもなおバレーを続けることを決意した。

 それもそうだろう。物心ついた時からやっていた事なんだ。たった2年弱のブランクがあろうとも、辞めるなんて言う選択肢が簡単にとれるわけがない。

 だけども、そんな感じで始めた大学バレーも大して変わることは無かった。

 その部には渡辺先輩が居て、同期には高松もいた。何なら次の年にはマネージャーとして琴乃葉が入ってきたくらいだ。


 かなり順調に進んだ大学時代。そんな4年間もあっという間に過ぎ去って、ついに就職を考える必要が出てきた。

 結果的に言えば、俺はVリーグでも有名な、とある電気製品メーカーに入社して、その会社のバレー部で活動をすることにした。


 そんな生活を数年続けた俺は、いつの間にかに日本のバレー界で不可欠ともいわれるくらいの選手になることができた。

 ワールドカップにもオポジットとして出場して、チームとしては負けたが、個人的には大きな収穫をしたと、そう思っている。もちろん得点数は一番だった。


 そんな風に活躍してバレーボールファンの注目を一身に受けた俺。だけどそれだけでは満足することなんかできなかった。

 だって、世界で見れば自分も、日本のバレーそのものも弱い事には変わりがなかったのだから。

 そんな風に考えていた俺は、数年間お世話になった会社を辞めた。

 上司の反応も、チームメートの反応も呆けたものではあったが、俺がどうしてやめるのか説明をしたら、みんながみんな納得したような反応と共に呆れたような反応を見せた。

 特にひどかったのは、よく食事にも行った、チームメートの中でも一番に仲が良かった奴の反応。


「あー、うん…… 脳筋なお前らしい考えだな」

「それは酷くないか?」


 こんな会話があった。ちなみにそいつは中学時代に日本代表選抜に選ばれたセッターの鷹屋 藍だった。

 当初はライバル意識を互いに持っていたものの、多くに試合を通じている内に、スーパーエースと司令塔であることも相まって仲が良くなっていた。




「それでは最後にお聞きします。高校時代にバレーボールを再開されたきっかけは何なのでしょうか?」


 そう聞いてくるのは、とあるスポーツ雑誌の女性記者。

 彼女は栗色の髪をハーフアップにして纏めている。いかにも女性らしいという感じだ。そして今取材を受けているカフェでも圧倒的な注目を浴びている。

 少なからずプロスポーツで活躍している俺に気が付いている人もいるのだろう。と、信じたい……


 そんな彼女からの質問。『どうしてバレーを再開したのか?』というもの。

 その質問に対する答えは『アレ』しか思いつかない。


 それは10年ほど前のスポーツ大会。

 ただの高校での出来事は確かに今の俺を形成している。それもバレーのプロリーグで活躍できるほどに。

 それには中学時代までの俺がバレーに注いできたからこその物もあったのだろうが、それ以上に大川と高松を始めとしたみんなの力が大きいことには変わりないだろう。


「やっぱり高校時代のスポーツ大会が大きいですかね。バレーを諦めていた俺を仲が良かったわけでもない皆が引き戻してくれたんです」

「そんなことがあったんですか…… 例えば、その皆にはどのような人がいたのでしょうか?」

「……大学時代にチームのセッターをしていた大川とか、今もディビジョン1で活動されている高松選手とかですね」

「なんだが凄いですね。今も活躍されている選手ばかりじゃないですか! それで他にも居たりはしなかったんでしょうか? 例えば、後輩の可愛い女子とか」

「そんな子がいるとでも?」

「はあ?」


 ついに記者が本性を表した。


「はあ…… いましたよ一応」

「一応って何ですか!」

「まあ、中学時代から何かと助けてくれた後輩の女子はいましたけどね。例えば、熱を出したときにわざわざ看病してくれたり、同学年の事ビーチでバレーの楽しさを思い出させてくれたり、昔馴染みの友人たちに会わせてくれたり、スポーツ大会で応援してくれて、シューズをわざわざ持ってきてくれたり、バレーを再開してからもマネとして助けてくれたり。本当に感謝しかないですよ」

「そ、そうですか……」


 そこまで褒めるようなことを言うと記者は頬を赤らめて照れ始めた。


「あの時の俺は勝手にやさぐれていて、それでも周りは優しかった。だから今俺はこうして取材を受けているんです。それもこれも全部お前のおかげだよ。琴葉」


 俺が心をかみしめながらそう言うと、その女性記者——琴葉は、はにかみながら笑ってみせた。

 そうして俺の取材は終わった。




「それじゃあ先輩、いえ、翔さん。今日はありがとうございました」


 俺が大学を卒業するのに遅れて1年。琴葉も同じように大学を卒業して就職した。

 就職先はとある出版社。俺が取材を受けていたスポーツ雑誌もその出版社のものだ。


 それじゃあどうして俺が取材を受けていたのか。

 それはプロリーグで活躍していただけなのが理由ではない。


「まあ、私はこっちの仕事を片付けるまでいけませんですけど……翔さんは先に頑張っていてくださいね」

「ああ、そうするよ。先にイタリアに行ってる」

「はい! 頑張ってください。私もできるだけすぐに行くので」


 俺は遂にバレーで海外リーグに挑戦することになった。

 そんなことをスポーツ雑誌のライターである琴葉が見逃すわけもなく…… そうして今に至っているというわけだ。


 そして。そんな俺と琴葉は大学時代から同棲している。

 互いに社会人となって数年してからも同じような生活をしていたが、俺のイタリア行きでも同じようになるようだ。


 その後、イタリアに行ってから俺たちの関係がどうなるのかも分からない。

 それでもどうしてか、俺には悪いことが起こる気がしない。


「それじゃあ、楽しんでバレーするとしますか!」

「そうですね! 私も先輩直属のマネとして支えるので一緒に頑張りましょう!」



————————————


完結しました……


そんなに面白くもない作品、内容だと自分でも思いますが、それでもここまで読んでいただいた皆様には本当に感謝です!


少しずつ増えていく、評価と応援。それを見てニヤニヤしている時もありました。

ネタ不足に悩み続けていても皆様のそんな声援に作者自身が救われたようにも思っています。


改めて、『バレーボールはやめたはずなのに、後輩女子はそれを許してくれない。』完結となります!


ここまでありがとうございました!

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バレーボールはやめたはずなのに、後輩女子はそれを許してくれない。 涼野 りょう @Ryo_Suzuno

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