先輩のことが大好きで!
エースになるためには信じられろ、なんて言ったけど、俺はこのチームにおいてはエースでも何でもなかった。
むしろスポーツ大会のチーム分けの際には身長が高いからという理由だけで、バレーをすることになったという、言わば人数合わせ的な意味が大きかった。
そんな俺が今やここまでの感性を受けて、バレー部のエースである高松と同じようにスパイクを何本も打たせてもらっている。
だから俺はエースになんてならなくても、このチームで成長させてもらった分だけスパイクを打ち切りたい。そう思っている。
「ふぅ……大川トスくれ!」
俺はライトからほぼ逆サイドにいた大川にそう言うと、大川は俺の方をチラッと見てボールをあげた。
「決めてくれ!」
「任せとけ!」
そんなごくごく短い大川とのやり取り。
でもそれは、俺にスパイクを決めきれ、というセッターのプレッシャーも加わっていた。
大川のオープントス。それは相手にも誰にトスを上げたのかを教えているようなもので、3人が綺麗にブロックにそろったのが見えた。
俺はそれを見て、アタックラインギリギリから助走で得たパワーを全てジャンプによる上昇のパワーに変換する。
スパイクフォームを取ってみると、普段よりも遥にブロッカーとコートを見ることができた。
(ブロックは雀宮先輩を中心とした3枚ブロック。そしてそれは、俺がストレートを打つのを邪魔するかのように目の前に立ちはばかっている。そしてクロス側には虎町先輩と渡辺先輩がレシーブをしようと待ち構えている。正直に言って決めるのは厳しいな……)
ジャンプをしたものの相手のブロッカーの壁もかなり高い。
タイミングも完ぺきなブロック。触れられずにスパイクを決めるというのはかなり難しい。
それでも、何かしら手はあるはずだ。
「リバウンド!」
俺はスパイクをもう一度打ち直すという選択を取った。
俺の後ろにはレシーブから体勢を持ち直した高松が控えていて、俺のリバウンドをレシーブした。
「シャア! もう一回やっていこう!」
そう言って高松は味方を勇気づける。
そうしながらも、高松の大川へのAパスは高く上がっていた。
「小鳥遊、助走取るぞ!」
「分かった」
そう言っているということは高松も次の攻撃に加わるということだろう。なんとも心強いことだ。
そう思いながら俺は高松に言われた通りに助走距離を取った。
「もう一回トスくれ!」
「俺もいるからな!」
俺と高松は同時にそう叫ぶと、同じく同時に助走を始めた。
二人とも後衛なのでアタックラインを踏んだり越えたりすることはできない。
それでもこのチームで一番を争う俺たちのコンビネーション。
それには敵も惑わされてブロックが分散されてしまった。
高松はいつの間にかにレフト側に回っており、それで俺のブロックは雀宮先輩だけになっていた。
「小鳥遊最後に決めてくれ!」
そう言ってセッターから託されたトス。
そんな大川の期待だけではない。高松だってブロッカー二人を引っ張ってくれた。
(絶対に次こそは!)
そう思いながらも踏み込むと、この試合でも一番の跳躍をすることができた。
「たかっ!?」
思わずといった風に呟かれる雀宮先輩の声。そこそこ距離はあるはずなのにどうしてかよく聞こえてきた。
そして俺は大川のトスが届くギリギリまでスパイクフォームのまま耐えて、手が届く距離になったら右手をこれでもかというほどにスイングさせた。
そうして飛んでいったボールは雀宮先輩の手の上を越えていった。
エンドライン、サイドラインともにギリギリ。コートの隅を狙ったスパイクは、誰にも触れられることなく——地面で弾けた。
そんなボールの着弾地点の周りには虎町先輩と渡辺先輩がレシーブをしようとしたのか地面に横たわっている姿も見受けられる。
かなりギリギリだったとはいえ、何とか最後の1点を決めることができた。
「よっしゃ!」
思わずガッツポーズをして喜んでしまう。バレボールでは相手コートに向ってそういうことをするのは審判に注意されるのだが、今はそれを咎める者もいない。
「小鳥遊ナイスキー!」
セッターらしく冷静にそう言った大川。こいつのトスは本当に打ちやすくてこの試合でも何度も助けられた。
だけどそんな大川も先輩に勝ったからか嬉しそうだ。
「やるじゃねえか小鳥遊ぃ!」
そう言って俺に絡んでくる高松。俺とは性格が真逆なスパイカー。
そんな高松の存在は精神的にもかなり助けられたし、決勝点を取るのだってこいつが居なければ無理だっただろう。
「「「「勝ったー!!」」」」
そう言って喜ぶ他のメンバー。バレーに興味はなかったであろうはずなのに、毎回の昼休みを共に過ごした、いわば戦友と言っても過言ではないだろう。
『すげぇ! 2年が勝ったぞ!』
『アイツ本当になんなんだよ!?』
そう言って驚いたり、同じクラスである俺たちの勝利を純粋に喜ぶクラスメートやこの学校の生徒。
スポーツ大会なんて言う他の人からすればどうでも良い事。
だけどその当事者だからこそ楽しめる青春の色がそこにはあった。
だから俺も、自分の青春の色を見つけ出して見せようとそう思った。
「先輩!」
そう決意すると、聞きなれたあの声に呼ばれた。
俺は何も言わず、その声の持ち主——琴乃葉に目を向けると。
スパイクを決めた手を大きく振り上げてガッツポーズをして見せた。
それを見てただ笑うだけの琴乃葉。だけどその瞳には涙が浮かんでいた。
今思えば、偶然再会しただけの俺にずっと寄り添ってくれた。本当に感謝しかない。
それだけではない。中学時代からバレーボーラーとして支えてくれた。
今やその形は変わっているとはいえ、助けられたことには変わりない。
俺は琴乃葉を見つめながら口を動かした。
『ありがとう』
きっとその声は聞こえなかったのだろう。
だけど琴乃葉はにへらと笑うと、同じように口を動かした。
『どういたしまして! それと、ずっと好きでしたよ?』
口の動きだけで互いに言いたいことを読み取っている筈の俺たち。
だけど2人の間だけではどうしてか声が届いているような。そんな気さえした。
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