とにかく繋いで!
虎町先輩、渡辺先輩、雀宮先輩の順番で攻撃が回ってきた。
正直に言って、この3人になると誰が攻撃してくるのかが丸分かりになる。それでも必ず止められると言えるわけではない。
それほどまでに3人の動きは洗練されていて、とても強い。
俺たちも相手も同じように急造チームだというのに、バレー歴の長い3人がいるだけで、かなりの差が開いているということだ。
「シャア!」
そして、雀宮先輩の強打が俺の方へと飛んできた。
攻撃力の高い俺をレシーブで乱すとこで攻撃への参加をなくそうという魂胆だろう。
もちろん俺はそれをレシーブする。
「ナイスレシーブ!」
大川とは少しずれてしまったが、これくらいなら大川が何とかしてくれるだろうと信じる。
そして、大川はボールの下へと潜り込んでから、トスをあげた。
文句なしの完璧なトス。
それに向かって俺は攻撃へと入ったが、今回はさすがに高松の方が適任だろうな。
そう思うのはセッターとしての経験が長い大川も同じようで、渡辺先輩に負けるとも劣らないトスで高松に攻撃を任せた。
「キタア!」
トスが上がったことに歓喜しながらもスパイクを打った。
そのコースはエンドラインギリギリ。
しかし、それはコースを読んで待ち構えていた虎町先輩によって、いとも簡単に取られてしまった。
さすがはバレー部の元リベロと言ったところだろう。相手のスパイカーのことが良く分かっている。
こうして俯瞰的に見てみると、虎町先輩は攻撃に参加しない以上に厄介だ。
それからさっきと同じように、渡辺先輩が虎町先輩からのパスを受け取ってトスをした。
2-Cの前衛3人は綺麗な3枚ブロックを雀宮先輩に合わせることができた。
(あ、やばいッ……)
直感的にそう思った俺は、迷わず足を踏み出す。
完全に隙を突かれた! そう思いながら俺は足を踏み出す。
さっきから雀宮先輩の攻撃が目立つなとは思っていた。とはいえ、この勝負の大一番で雀宮先輩ではなくその反対側の人を使ってくるとは思わなかった。
渡辺先輩を見てみれば、してやったりと顔がニヤついている。
だけど……間に合わないほどではないか。
元野球部の人が打ったスパイクは、思い切って飛び込んだ俺の元へと向かってくる。
もちろん偶然なんじゃない。俺がこれまでで培ってきた経験とスパイカー、セッターの目線からどこに打ちこもうとしたのかを予想した。
そうしたら細かい違いは腕の振りでカバーすればいい。
後なにか必要だとすれば……カンだろうか。結局偶然じゃねえか。
そう自分でツッコミながら俺はレシーブをした。
そして床を滑る。だけどこうなったら次の攻撃にも加われそうにはない。
「ナイスレシーブ!」
そう俺が勝手に悲しんでいると聞き覚えのあるフレーズが聞こえてきた。
だけど声は大川のものよりも少し喧しい。そう、高松のものだった。
立ち上がりながら上を見てみれば俺のレシーブは上手く上がったようで大川の真上へと上がっていた。
それはジャンプしてギリギリ手を届くぐらいだったというのに、大川は何とかトスをあげた。
しかし渡辺先輩のようにチャレンジするわけでもなく高松のバックアタックとなった。
それもそうだろう。こんなところで賭けに出て折角のマッチポイントを奪われたくなんかない。それに俺たちも万全な状態ともいえない。
大川は好機を窺っているところなんだろう。
そうして俺は高松のバックアタックがレシーブされるのを見て立ち上がった。
(次こそ。次こそ俺が打ってやる!)
俺はそう覚悟を決めてボールを見る。
高松の攻撃をレシーブしたのは渡辺先輩だ。これで司令塔であるセッターは機能しなくなった。
高松は感情的な面があると思いきや、意外と冷静にコート見てプレーしている。
渡辺先輩を狙ったのも、それによるものなのだろう。
渡辺先輩のパスを受け取ったのは意外な事に虎町先輩ではなく、雀宮先輩だった。
それは渡辺先輩のレシーブが乱れて、近くでトスを上げられそうだったのが雀宮先輩くらいしかいなかったからだろう。
それでもトスは上手に上げられた。
そして雀宮先輩がトスをした以上に意外な事が起こった。
「チビを舐めんじゃねえよ!」
「はあ!? それはないっしょ!?」
体育館に鳴り響く虎町先輩と高松の声。
なんと、3回目にボールを繋げたのは他のスパイカーではなく虎町先輩だった。それもかなりの強打。
いや、本当に雀宮先輩と同じくらいには強い打球なんだけど……
バレーでときどきある現象だ。
守りの要であるはずのリベロ。そいつらの攻撃力がチーム内でも随一を誇る。なんていうチームも存在する。
実際に中学時代の同級生にもそんな奴がいたしな……
って、そんなことを考えている暇はない。
そんなこんなで虎町先輩の強打を高松がレシーブした……顔面で。
「イッたぁっ!」
「「「「「な、ナイスレシーブ……」」」」」
なんて言うか……痛そうだ。
ともあれ、高松のレシーブ(?)は大川の元へと飛んでいった。
なんで顔面で綺麗にコントロールできるんだよ。と、そういう疑問はあるが取り敢えず助走を取るか。
今攻撃に参加できるのは、大川と顔を抑えている高松以外の4人。
その中で攻撃力が高いのは俺だろう。
あの先輩はなんて言っていたっけ……? エースになるには『信じられろ』って言っていたな。
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