3人にも思うところがあるようで!
◇ 高松 廉也の場合 ◇
あと1点だ!
上からはそんな声が聞こえてくる。
ふざけるんじゃねえ。その1点を取るのがこれ以上ないくらいに難しい。今俺たちが戦っているのはそういうチームなんだ。
そう俺は改めて思う。
どうして俺はこの学校に入ってきたんだっけな。
どうして俺はバレー部でエースを目指してたんだっけな。
そういえば——俺は中学時代にどこかで聞いた雀宮先輩に憧れてきたんだ。
その相手が目の前にいる。そしてその人を今戦えている。
もしかしたら。いや、もしかしなくても小鳥遊の方が活躍できているのかもしれない。そして試合が終わるギリギリまで活躍して注目を浴びるのかもしれない。
俺は自分の手で点を取らずに決着をつけられずにこの機会を逃すことになるのかもしれない。
なんか、悔しいな。
「高松、集中しとけ!」
そんなことを考えていたら、対角線上にいた大川が注意してくる。
さすがに気を逸らしすぎたかな? と反省してプレーの準備をする。
確かに小鳥遊のダイレクトには驚かされた。
だけどそれだけ。
大川のトスをずっと打ち続けてきたのが俺だというのは確かなんだ。
だからその役目まで小鳥遊に奪われてたまるか!
そうして小鳥遊の圧倒的すぎるサーブが打たれた。
◇ 大川 蓮司の場合 ◇
本当に小鳥遊には驚かせられる。
さっきのダイレクトだってそうだ。
みんなの想像を絶することを、そしてかなりの難易度を誇ることを当然のようにやった。
今思えば最初の驚かされた時だってそうだ。
いきなり千秋に呼び出されて、小鳥遊が全中で優勝したこともあって、全日本にも選抜された事もあった。そんな事を聞かされた。
正直に言って最初は信じる気なんて一切なかった。別に千秋の事を疑っていたわけではない。
そんな疑いも時が経つにつれ確信へと変わっていった。
初めにそう感じたのは昼休みの練習。
確かに驚くほどのプレーはしていなかった。
それでも動き一つひとつが洗練されていて、俺と高松よりもバレーに慣れているようにも思えた。
それも練習を経ていくたびに増していって、ついに今日がやってきた。
試合を重ねるごとに鋭くなっていくキレ。
そしてこの決勝ときた。
今日の小鳥遊のプレーを見て「疑わない」なんて言うような奴がいるのだろうか。
虎町先輩のよりも洗練されているように思えるフライングレシーブ。
俺はもちろん渡辺先輩のよりもはるかに技術を有しているトス。
そして、雀宮先輩よりもずっと圧倒的な強さ、技術、高さ。そのすべてが盛り込まれたスパイク。
あぁ…… 天才ってこう言う奴のことを言うんだな。
自分と小鳥遊という天才との差を考えると悔しくて仕方がない。
もしも、小鳥遊が味方じゃなかったら俺はどうするんだろう。
きっと試合に勝つのを諦めていたんだろうな。
そんな想像を優にできてしまう。
だけど、仲間である今。これ以上頼もしいことは無いだろう。
さて、決着をつけるのにはどっちを使うべきだ。
高校入学してから嫌というほどに慣れ親しんだ高松へのトス。
正直に言ってまだ合わせることができていない小鳥遊へのトス。
俺はセッターだ。
それなら勝ちに行ける奴にボールを託すしかない!
今——小鳥遊のサーブが虎町先輩に直撃した。
◇ 千秋 奈々の場合 ◇
私は圧倒されるばかりだった。
レシーブも、トスも、スパイクも、サーブさえも。コートに立つ12人の誰よりも何だって出来る小鳥遊君に。
雑誌で彼の名前を見つけた時は、まさしく「度肝を抜かれた」と言ったところだった。
そして、彼が全日本中学選抜のメンバー、それも日本のエースとして選ばれていたのも知った。
それからは動画サイトで彼のプレーを漁るように探して、その動画を何度も見ていた。
そうしていると悔しいことに私たちのチームにはまだまだ足りない部分があるんだなと思い知った。
そして私の隣には、
「先輩、ラストプレーも気を抜かずに!」
圧倒的な強さを誇る小鳥遊君に声援を送る琴葉ちゃんの姿があった。
琴葉ちゃんは中学時代に小鳥遊君も所属していたバレー部のマネージャーをしていたらしい。
全中に2冠を誇るチームのマネージャーなだけあって、私達も度々琴葉ちゃんの気づかいに救われている。
そんな琴葉ちゃんが注目する小鳥遊君。それは私以外、例えバレーを詳しく知らないなんて言う人でも分かるくらいに活躍している。
そしてなによりも——いつもより輝いている。
「琴葉ちゃんが惚れるわけだ」
「え? 千秋先輩何か言いました?」
「ううん。なんも」
これが恋する乙女の目か。そう私は琴葉ちゃんの目が輝くのを見ていた。
そして今——雀宮先輩のスパイクが放たれた。
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