体育館の光の下で!

 大川がスパイクを決めたことで、得点は18-18となった。


「お、おぉ……小鳥遊、ナイストス」

「大川こそナイススパイク!」

「あ、ありがとう…… それよりも小鳥遊のトス打ちやすすぎじゃないか……?」

「俺は攻撃だけが取り柄じゃないからな」


 チームの『大砲』として動けば動くほど、相手にはサーブでもスパイクでも動きを阻まれる。

 俺は中学2年の時から、そんな状況でずっと戦ってきた。

 そうすれば、レシーブをしても体が崩れないように練習だってするし、スパイクが打てない状況になっても少しでもチームに貢献できるようなプレーをすることができるような練習をするのも当然だ。


 チームに貢献できないエースなんて必要ない。これは俺が中学校で先輩に言われ続けたことだ。

 その先輩は俺がスタメンになる前まではエースとしてチームを引っ張っていたが、ケガで休養をとっていた。

 その間も練習を見に来てはいたので、俺はよくそんなことを言われていた。

 だから俺は何だって出来るように色々なことに挑戦してきた。

 その結果が今になって生きてきたということだ。


 しかし大川は微妙な反応をした。


「そ、そうか…… 超人過ぎないか?」

「そんなことないだろ。大川のスパイクだって強かったじゃないか」

「小鳥遊ほどじゃないけどな。まあ、ありがとう。それよりも、小鳥遊のサーブの番だぞ」


 そう言って大川は審判から受け取ったボールを俺に託してきた。


 どうしてだか俺には、重くても280gしかないバレーボールが途轍もないほどに重く感じた。




 息を吸うと肺の中に酸素が入ってくるのが分かる。

 そしてそれは、肺胞から血液に。そして全身を回っていく。

 息を吸って肺に酸素を送り込めば送り込むほど脳にも酸素が回って活性化していく。


 そうするとコートの状況が良く分かる。

 相手コートのセンターラインより後ろには虎町先輩と渡辺先輩が揃ってレシーブの構えを見せている。

 渡辺先輩もいるというあたり、1回目の攻撃は諦めて取り敢えずレシーブで繋げようということだろう。


「真っ向勝負とでも行くか」


 コートのどこを見渡しても、軽薄な笑みは浮かんでおらず、ボールを必死につなごうとする3年生の姿しか俺の目には映らなかった。

 そうとなれば、一か八か。

 サービスエースで得点を狙っていく必要があるだろう。


 そしてホイッスルの音が耳に届いた。


 時間を使って焦らす必要なんて一切ない。

 仮にやったとしても、相手に余裕を作らせる時間を与えるだけだし、俺の方の集中も切れるだけだ。


 俺は変えたばかりのシューズの感触と、手に持っているボールの感触を確かめる。

 どちらも自分でも驚くくらいに馴染んでいて、違和感など一切ない。


 それを確かめて俺は空高くボールをあげた。

 ボールはトスの時の手首の捻りが加えられたことで、高速のスピンが起こっている。


 俺はそれを見ることもなく、助走に入っているわけなのだが……

 ありえないくらいにスピードに乗っている。

 このままならかなり高い位置からサーブが打てそうだ。


 俺は最後の一歩で思い切りブレーキを掛けると、助走で作り出したエネルギーを全て空中へと向けた。

 そして俺は鳥が飛び出すように空中へと舞った。そして、空中からの景色を見る余裕ができた。


——体育館のワックスがかけられた床で反射する蛍光灯の光


——たった12人では広すぎるのではないかというコート


——そして、そんな中でも輝いているように見える12人のプレイヤー


 俺の視界には体育館のそんな様子が広がっていた。

 そして俺の視界にボールがいっぱいに広がると、それまで後ろに控えていた右手をスイングさせて持ってくる。

 そして右手がボールに当たるその瞬間だけに力を込めて思い切りボールを飛ばした。


 ボールはネットギリギリを越えて、そのまま俺の狙い通り渡辺先輩の方へと向かっていく。


「僕がとる!」


 渡辺先輩はそう宣言した後、いつも通りに落ち着いて両腕を突き出す。


「ナイスレシーブ!」


 渡辺先輩はサーブを綺麗に上げ切った。


「オッケー! スズ! 最後は任せたぞ!」


 渡辺先輩のトスをあげるのは虎町先輩だった。

 反則を取られないようにセンターラインより後ろで踏み切った虎町先輩はトスを雀宮先輩に上げた。

 しかし、それは慣れていることではなかったのだろう。

 せっかくあげられたトスは雀宮先輩とのコンビネーションミスをして、雀宮先輩はアンダーハンドパスで返してくるしかなくなった。


 そしてボールはネットを越えて緩く俺のいるほうへと飛んできた。

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