まだまだ続きそうで!
黒に赤のコントラストの利いたそのシューズは2年近く履いていなかったというのに、どうしてか俺の足にピッタリとあって馴染んでいた。
「先輩、どうですか?」
「あぁ。なんか今なら飛べそうな気がする」
「そんなにですか」
「そんなにだ。それよりも琴乃葉。シューズ持ってきてくれてありがとうな」
「お礼なら後で彩乃先輩に連絡してあげてください」
「どうして彩乃が出てくるんだ?」
「実はこの前の週末に彩乃先輩が遊ぶに来た時に一緒に持ってきてくれたんですよ」
「そうだったのか…… 彩乃には礼を言わないとな」
きっと琴乃葉がスポーツ大会の直前になって、一応俺のシューズを用意してくれていたのだろう。
マネージャー歴が4年目となっているだけあって、やはり琴乃葉は気が利く。
琴乃葉にシューズについて聞かれながらも、俺は丁寧に靴ひもを結んでいった。
そして最後の穴に紐を通して、それを蝶々結びにすると、俺は大声で大川に呼びかける。
「大川、俺はいつでも行けるからな!」
一体どうしてなのだろうか。自分でもそう考えるほどに、俺はたかだがスポーツ大会の一戦で精神的にかなり成長したように思える。
そして、そんな俺の周りには敵味方問わず多くの人がいてくれた。
(本当に恵まれすぎているな……)
俺からバレーを捨てさせるのを許さなかった琴乃葉。
たった1週間で、俺にバレーの楽しさを改めて教えてくれた大川と高松。
俺の事情を知っておきながら親身になって話をした千秋。
敵でありながらも俺の道標となってくれた雀宮先輩、渡辺先輩に虎町先輩。
2階を見渡せば、この学校の生徒全員と言っても過言ではないくらいの人がこの試合を見ていてくれている。
それなら俺がやることはただ一つ。
——この試合に2-C全員で勝つこと。
たったそれだけ。
だけどその『たった』が気が遠くなるほどに辛い。
俺が靴を履いている間に得点は17-18。いつのまにか決勝はデュースへともつれこんでいた。
そして、審判が俺と代わりに入っていてくれた生徒の交代を告げると俺はコートに向って一礼してから入った。
そして、サーブは雀宮先輩の強烈なサーブからだ。
俺たちが勝つためには、このサーブカットで失敗するわけにはいかない。
そして、ホイッスルが鳴った。
「オラァッ!」
雀宮先輩はこの試合で一番とも言えるスパイクサーブを打ってきた。
俺は迷いなくセンターラインを越えた。
「俺が捕る!」
高松の叫ぶ声。高松の手にギリギリと言ったところでボールは触れたが、それは大きく始め飛んでいってしまう。
そんなボールに一番近いのは俺だ。そうとなればボールを繋げにいくしかない。
俺は高く弾け飛んだボールの下に潜り込むと、一瞬でコートの状況を確認する。
レシーブをしたまま大きく崩れている高松。
他のメンバーはと言うとスパイクの準備をしてはいるが、どうにもポジション取りが良くない。
そんな中、俺は1人だけブロッカーから外れようとしている奴を見つけた。
そいつはセッターだというのに、既にスパイクの為に助走の準備を終えていた。
『そいつ』というのは、セッターと言っているので分かると思うが、大川のことだ。
俺が今潜り込んでいるのは、エンドラインよりも遥か後ろ。
大川は前衛なので、助走をしてスパイクを打つとなるならばネットに近い位置となる。
(まあ、仕方ないか……)
俺は両腕を上に振り上げると、手先の感覚を完全に覚醒させた、
そして、ジャンプしながら一瞬だけボールに触ると、そのままエンドラインからネットまでボールを打ち上げた。
「大川、頼んだぞ!」
俺は大川に向けて二段トスを放った。
大川はそのトスを確認すると、そのまま助走から跳躍した。
そして、大川は後ろからのトスという難しいボールを打ち切ってみせた。
そんな大川の珍しいともいえるスパイクに虎町先輩を含む相手チームのほぼ全員はボールに凝視をして、捕りに行くが結局ボールはコート内に落ちた。
「よし!」
大川は静かに喜んだ。
これで18-18。試合はまだまだ続きそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます