シューズは誕プレで!

 最終セットとなる3セット目が始まって数分が経過した。

 現在は12-11。こちらの1点リードと思いきやサーブ権は2-Cに。

 バレーボールではサーブレシーブ側が先に有利な攻撃を仕掛けられるので、次は相手にとられる可能性が高い。

 というよりも、今までの12点もほとんどそう取ってきた。


 サーブは大川。フローターサーブという無回転のボールを打てる。

 大川のサーブトスは俺や高松のものと違って小さなものであるが、絶対的にと言えるほどには安定している。

 それもセッターとしての実力なのだろうか。


 それから大川のサーブは

レシーバーであった虎町先輩を崩したが、結局渡辺先輩のトスを雀宮先輩が打ち切って点を取られた。



 俺は今この試合を見てうずうずしていた。

 足の痛みもだいぶ引いてきて、既に運動はできるであろうというくらいになっていた。

 さすがにジャンプなどは難しいし、シューズもあっていないことが分かっているので、今から試合に出たとしても再度足を痛めるかもしれないし、大川もそれを許さないだろう。


 そう思っていると、大川はタイムアウトを取った。

 30秒の間だけだが、これで両チームは戦略を考える時間を取ることができる。


「小鳥遊、足の方はどうだ?」

「もう大丈夫だ。何なら試合に出たいくらいだ」

「……俺たちも出て貰ったほうが良いけど……やっぱり小鳥遊が怪我をするほうがダメだしな」

「まあ、試合に関しては何とかなるっしょ! っていうか俺が何とかするわ!」


 俺は大川にそれとなく試合に出たい意思を伝えたが、やはり駄目なようだ。

 そうとは言っても、チーム全体としても練習の成果もあってか、かなり自信はあるようだが。

 それでも俺が試合に出たいと思うことには変わりない。


「先輩! 持ってきましたよ!」


 そう思っていると、体育館の外からは昔から聞きなれた声がした。


 そこには髪の毛があちこちにはねていて、息を矢継ぎ早に吸っている琴乃葉がいた。

 そしてその手には、黒色のシューズ袋をもっている。


 シューズ袋は黒色をベースとしたもので。赤色のアクセントと某有名スポーツ用品メーカーのロゴが入っている。


「先輩、これ使ってください。多分まだ使えるはずなので」


 俺と琴乃葉が話していると試合が再開した。

 琴乃葉はコートに戻っていく大川に「先輩の足に合っているので大丈夫です」とだけ伝えた。

 琴乃葉も俺が試合に出られるようにしていてくれたらしい。


 それを横目に俺は、シューズ袋を眺める。

 そしてそれを裏返すと、白色のマジックで書かれた文字で、『がんばろう!』とか『目指せ、日本一!』だとか書かれていた。


「なあ琴乃葉。これって……」

「先輩が昔使っていたシューズです。と言っても1カ月くらいだけですけどね」


 琴乃葉は走って取ってきたのだろうか、まだ過呼吸なままで汗を拭っている。


「何でこれがここに……?」


 俺はシューズ袋からシューズを取り出した。

 取り出したそれは、黒色を基調として、袋と同じように赤色のコントラスが良く聞いているものだ。

 ミドルカットと言って、足首の上までを完全に覆っている。生地は分厚くはあるが、通気性は取られているために安全性と快適性は両立されている。

 他にも底面にはプレートが入っており、ジャンプなどのプレーの時にグラつくことがないというものである。


 なによりも俺が思い出したのは、これを買った時の琴乃葉との思い出。




◇ 2年前 ◇


「先輩! これなんかはどうですか!?」


 琴乃葉がそう言って取り出したのは、黒を基調として赤をコントラストにしたシューズ。


 俺と琴乃葉が出会ってからは、既に2年の年月が経っており、いつのまにか関係は深くなっていた。


「……? 結構いいかもな」


 俺は琴乃葉から店内でディスプレイされていたシューズを受け取った。

 それは手に取っただけで、どうしてかしっくりと手に馴染んだ。


「先輩、これ買いましょう! そうしましょうよ!」

「そうだな……って高っ!?」


 俺はシューズにつけられていたタグに書かれている値段を確認すると、そそくさと棚に戻した。

 しかし、棚に戻したはずのシューズを琴乃葉は取り出す。


「高いですね……でも、私が何とかします」

「いやムリだろ」

「今まで貯めてきた貯金を切り崩せば……っ!」

「やめとけ」

「……ん~ しょうがないですね! 割り勘としましょう!」

「いや、これ俺が使うものだから俺が払うしかないだろ」


 琴乃葉は俺に何とかシューズを買おうとさせていた。


「っていうか元から先輩の誕生日なんですから!」

「そうか……?」


 その後も俺と琴乃葉は言い合いのようになりながらもシューズを買うことにした。

 結局俺が7割、琴乃葉が3割を払うことになった。

 俺としては琴乃葉に払わせることを申し訳なくなっていたのだが、琴乃葉からは「誕生日プレゼントですから!」と言われたので何とか納得することにした。


(いつか俺も誕プレあげなきゃな)


 もちろんそれだけではない。いつもマネージャーとして俺だけではなくチームを支えてくれている。その恩返しもしなければと、そう俺は思った。




 これがこのシューズと俺と琴乃葉の思い出。

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