クラスメイトも一緒で!

「小鳥遊ってなんだかんだ言ってモテるよな」

「だからアレは違うって言ってるだろ」


 俺が大川に言っているアレとは彩乃のことだ。

 大川は、というよりかは後から偶然合流した3人は俺と彩乃が男女交際にあると勘違いしている。

 俺と琴乃葉がそのような関係にあると勘違いされなかっただけ、まだマシな勘違いとも言えるけど……


 何が大事なのかと言うと……俺たちは大川、千秋、高松の3人がばったり出会って、それで一緒に遊ぶことになったということだ。何も大事なことがないだって?

 大事なのはこのメンバー。ちなみに今まで俺は『大事』を『だいじ』とは読んでいない。『大事』と呼んでいた。

 分かりやすく言うと、なにが問題なのかと言うとこのメンバー。6人のほとんど全員が美男美女だということ。そうではないのは俺とギリギリ高松が入っているということくらい。

 ほとんど全員の容姿が優れているということもあって、先程から多くの人に見られている。

 これが俺にとっては中々落ち着かない。こいつらは普段からこのような視線にさらされているというのか……


「さーて! みんな食べ終わったことだし、一緒に遊ぼっか♪」

「彩乃ちゃんサイコー!」


 いつの間にか、この場を仕切っていた。というよりかは支配していた彩乃はそう提案する。

 支配、という証拠に高松は既に彩乃に追従する姿勢を見せている。


「彩乃様…… 次は何をするのでしょうか?」


 ……高松だけではなかったようだ。常識人だと思っていた千秋は彩乃に洗脳されたかのようになっている。

 琴乃葉もそのような節があるが、そこまでさせる魅力が彩乃のどこにあるのか疑問になってしまう。

 もちろん、みんなで遊ぶということには賛成なので、早く食器を片付けておくことにしよう。金銭的な面で心配もあったが、そもそもこの施設では飲食以外では基本的にお金はかからないので問題はなさそうだ。


「じゃあ行こっか♪」

「彩乃先輩、お供します!」

「そりゃ一緒に遊びに来ているわけだしな……」


 彩乃は3人を引き連れて先へどこかへと向かっていった。

 必然と残された俺と大川は話しながら4人についていくことになる。何となく気まずいし、俺も洗脳されよっかな……


「なんていうか凄い幼馴染だな」

「そうだろ? 俺もそう思う。本当にすごい幼馴染だよ」


 そう返す俺の言葉はどうしてか重みが滲み出ていた。

 昔から俺は彩乃の事を羨ましく思っていた。選手だった俺とマネージャーであった彩乃という関係のせいか、俺が目立つことのほうが多かった。

 だけど実際はそうではなく、俺は昔から彩乃に連れまわされていた。

 そういう時に限って思うのは、「俺は陰なんだな」ということ。だけど皮肉にもバレーでそれは違うと証明したのも彩乃。

 それが原因でケンカにまで発展したこともあった。だけど今はそれを乗り越えている。


(今日くらいは全力で楽しまなきゃな)


 いつのまにかに半分をきっていた高校生活。

 そのうちの1日を自分の信念と違えた過ごし方をしても勿体ないなんてことはないだろう。むしろ普通の人からすれば今までが勿体なかったのだろうが……・




「さてさて……今からみんなでバレーをしまーす♪」


 彩乃はこのメンバーにバレー経験者が多いということを知ったのだろうか。そのような提案をしてきた。

 彩乃は基本的にこのような場では空気を読もうとする。『する』というだけで基本的には出来ないというのもまた事実。


「おい彩乃。ちょっと来なさい」

「? どうしたの翔?」


 俺は何を言われるのか分かっていない彩乃を他の4人には聞かれない所まで呼び出して話をすることにした。



「なあ、俺がこっちの高校に通っている理由を覚えているか?」

「……? 当然じゃん。それがどうしたの?」

「バレーでごたごたに巻き込まれたくないんだよ。だから今回は勘弁してくれ」


(……大川、あっちはあんな話をしてるけど気付いているよね?)

(千秋から貰った情報で確信しているけど、小鳥遊はガチ勢だとしか思えない。それは昼休みの練習が実証している)


 大川と千秋が俺と彩乃を見ながら何かを話しているが俺は気にせず話を進める。


「取り敢えずバレーだけはやめてくれないか? いや、ホントマジで」


 俺はそう懇願するが彩乃の返答はそっけないものだった。


「やーだ♪」

「なんで!?」

「なんでって…… 私も久しぶりに翔とバレーしたいし。何よりも……気付いていないのは高松君くらいだよ」

「気付いていないって、何にだ?」

「……翔がバレー経験者ってことに。多分だけど千秋ちゃんはもっと深くまで知ってると思う。これは女の感だけどね」


 マジかよ…… 女ってこわ。

 俺が勝手に戦々恐々としていると、琴乃葉を中心に他のメンバーはバレーコートの受付を終えたらしい。

 ここってバレーコートまであるのか。本当にショッピングモールの中か? と思ったけど、これってフィクションだかr……


「2人ともー 話は終わった!?」

「今行くよー♪」


 俺と彩乃は千秋に呼ばれてコートの中へと入っていった。




「じゃあここは俺がルールを」


 話を切り出したのは大川だった。


「人も並んできているし、時間もかけられない。っていうことで15点先取のゲームでやるからな。

 それでチーム分けなんだけど…… 俺と千秋、琴乃葉で1チーム。あとは余りもんで」

「「「言い方!」」」


 こうしてチーム分けがなされ、バレーが行われることになった。




「さてチームが決まったことだし、戦略でも決めていくか♪」

「いえーい!」

「い、いえーい?」


 反応はまちまちだが、俺たちはポジションを分けることにした。


「私が決めて言っちゃうねー 高松君はアタッカーにしよっか♪ 普段オポジットなんだよね? そーれなーら……私がセッターで、翔がレシーバーかな。当たるの上手だし」

「おい、どういうことだ」

「だって昔からドッジボールでよく当たってたじゃん」


 ……それってアウトだよな? 確かに雑魚かったからよく狙われたけども……


「あと、サッカーでも上に飛ばすの上手じゃん」


 それはシュートのつもりだったんだが…… 必ずゴールの上に飛ばしていたけども……


「他にもー バスケでも結構飛ばせるしね」


 確かにそうだったけど…… それは味方のゴール下から遠投していただけだからな? 何なら投げた先に味方いないこともあったし。


「あとは…… 野球でも結構場外に飛ばしてたじゃん!」


 うん。それは紛れもない事実だけどね……? 俺の場合はファウルって言うんだよ?


「まあ、何とかなるでしょ!」

「ならねぇよ!」


 ともあれ、この布陣で戦うことになった。

 やるからには頭でも何でもいいからレシーブしてやろう。




 試合は終わった。結果としては15-12で勝つことができたのだが……

 周りからの視線がなんとも厳しい。不躾にみられる視線。なんとも慣れないものだ。


「うわー痛そう……」

「……先輩、大丈夫ですか? めっちゃ痛そうですけど」


 俺は宣言通りにレシーバーとしての仕事を全うした。

 頭で……

 俺は不幸にも琴乃葉のスパイクを頭で受けまくっていた。

 何しろ普通の大きさのコートを3人でプレーしている。そして、俺たちはそれぞれで役割を決めていた。俺が頑張るのは当然だ。

 でも頭でレシーブすることになるとは俺自身でも思わなかった……




 こんなこともあったが、それからゲームコーナーやカラオケ、ボウリングで時間を潰した。

 気づいたら、時間も遅くなっていてお開きということになっていた。


「それじゃあーね! みんなまた会おうね♪」


時間が来れば当然彩乃も帰ることになり、俺たちは5人全員で見送りに来ていた。

彩乃が帰るということで、高松は分かりすぎるくらいに悲しんでいた。

 そしてもっとヤバいのがここに2人。


「彩乃せんぱーい! 帰らないでくだしゃいよー あと1か月、あと1か月でいいんですから」


琴乃葉は普段の大人しい様子はどこに追いやったのか、あまりにもひどい姿で彩乃に懇願していた。


 そして、もう1人のヤバいほうは……


「彩乃様。本当にお願いします! 帰らないでください! 私の家に泊って行って良いので、どうにか! どうにか! どうにか!」


 土下座をするかのような勢いで彩乃を引き留める千秋の姿。普段の様子からは考えることはできない。

 人通りが少なかったのが唯一の救いだ。だけど大川だけは遠くから見守っている。

 さすがに俺が遠くから見送りというのも、ここまで来てくれた彩乃にも失礼かと思ったので、できるだけ近くで見送りをしようと思ったのだが……


「う、うん。でも私にも学校があるから……」


 3人に本気で引き留められている当の本人はというと、引きつった笑顔でそう告げる彩乃。それから改札に向って歩いていく。

 そして改札を抜けてもう一度こちらを見ると……


「じゃあねみんな♪ また今度!」


 そう最後に告げた彩乃は電車に乗っていった。

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