幕間3-2 幼馴染も一緒で!

「都会っちゅうもんはすげぇな」

「お前そんなキャラじゃないだろ」


 アミューズメント施設に入って早速ボケをかましたのは彩乃だった。

 一応言っておくと、俺と彩乃の故郷ではこのような訛りは一切ない。とは言え、この町程に都会だというわけでもなかったので、彩乃の言いたいことは無かった。

 俺たちの休日の遊び方といえば、ゲーセンにいったりカラオケ、ボーリングなどと言ったものだ。あれ、今と変わんなくね?


「それじゃあ……どこ行きます!? カラオケなんてどうですか? バブルサッカーなんてものもありますね!」


 俺が彩乃につっこんでいると、隣にいた琴乃葉はテンションを高くして何をして遊ぶかを考えていた。


「バブルサッカー!? 私一度はやってみたかったんだよね~♪」

「私もです! 私たちの故郷じゃ普通ありませんですしね!」

「いや、こういう施設じゃないとできないのは変わらないからね?」

「まあとにかく行こうぜ♪」


 そういう彩乃に琴乃葉はテクテクと着いていく。まるでカルガモの親子みたいだな。あれって何であんなに可愛いんだろう?

 それはともかく……


「バブルサッカーはそっちじゃないぞ」

「「……マジで(ですか)?」」

「うん。マジ」




 それから少しうるさく感じてしまうゲームコーナーを通り抜けてバブルサッカーを行うことのできるこーなにやってきた。

 バブルサッカー。今となっては多くの人が知っているかもしれないが一応補足説明を。


 風船のような透明の丸い球体を上半身にまとい、その状態でサッカーをするというもの。

 普通のものとは違って、サッカーの技術で優劣が付くことは少ないらしい。それにも関わらずドイツなどのバブルサッカー強豪国ではプロチームも存在しているらしい。

 ……補足説明といっても特に言うことないな。


 ともあれ、俺自身も初めてやるのもあって、かなり楽しみだったりする。

 だけどこれだけは許せない。


「なあお前ら。何で奇数人のこの状況でバブルサッカーを選択したんだ?」

「「……」」

「おい黙るな。それに何このチーム分け。1対2はさすがにおかしいだろ」


 この施設ではある程度の人数がいなければプレーできないらしいが、バブルサッカーに来ている人そのものが少なすぎるため、特別に3人でさせて貰えるらしい。

 なにも嬉しくないわ。恥ずかしいんだけど……


「琴葉ちゃん、どう思う?」

「そうですね。あれでも運動神経は良いので黙ってやれ! って思いますね」

「琴乃葉さん? 言葉が辛辣すぎないか?」

「「あ、先輩(翔)。負けたらお昼ご飯奢りだから♪」

「ふざけんじゃねえ……」


 俺には仲間の1人も与えられない状況。

 そのうえ負けたら俺の財布がすっからかんになるというプレッシャー付き。

 これでどう勝てと言うのか。


「……あのぉ。私も参加しましょうか?」

「「ダメです」」


 俺の悲しい状況を見かねたスタッフのお姉さんがそう提案するが、女子マネージャー1人組はそれを即断る。

 これで俺の勝ち筋は完全に途絶えてしまった。普通の男の人だったら1対2でもなんとか勝てるのかもしれないが……

 俺にとっては、そんなこと夢のまた夢だ。だって……


「お前ら知ってるよな? 俺がバレー以外の球技が下手なの。それ分かって勝負賭けるとか悪魔かよ?」

「「……ハツミミダナー」」

「ふざけんじゃねえ……」




 俺はバブルサッカーでハンデをもらえるように2人に何度もお願いしたのだが……

 結果はあえなく撃沈。ちなみにバブルサッカーそのものも負けた。


 俺が球技のセンスが圧倒的にないのも敗因なのだろうが、それ以上に2年間で多くの仕事を共にこなしてきていた2人の絆を俺は舐めていたらしい。

 そもそもボールに触れないという状況が続発したのだ。

 それは2人の華麗すぎるパス回しもそうだが、バブルが邪魔過ぎて俺の足がボールに届かないことがあった。


 そのようなことから、俺はいま2人に昼飯を奢ることになっていた。

 その結果、来る前から思いとは言えなかった俺の財布からは英世が数枚飛んでいった。

 なにしろ2人とも容赦なく注文するので俺が我慢したところで英世が飛んでいくのには変わらない。


「彩乃先輩、おいしいですね!」

「そうだね~♪ このハンバーグも最高だよ! 琴葉ちゃんも一口食べる」

「ハッハッハ。人の金で食う肉は美味いってか? あぁん?」

「彩乃先輩もこれどうぞー」

「本当ありがとう! ってなにこれ! 美味しい!」

「無視しないでくれませんか……?」


 こうして俺達、いや俺以外の2人が料理に口鼓をうっていると、どこか聞きなれた声が耳に入ってきた。


「大川! お願いだ、俺に飯を奢ってくれ!」

「絶対に嫌だわ! お前が遊び呆けているのが悪いんだろ!」

「2人とも少し落ち着いたら? 結構注目浴びているのだけれども?」


 1人は喧しく、もう1人はそれに対して少し嫌そうに答える声。残りの声は唯一の女声で、その声には2人を咎めながらもどこか自身も楽しそうにしている声。


「……あれっ? 琴葉ちゃんじゃない」

「これホント美味し……!? 千秋先輩!?」


「あれー! 琴乃葉じゃん!」

「高松先輩は静かにしてください」

「はい……」


 そこにいたのは大川、千秋、高松のバレー部員の3人。そして俺のクラスメートだった。

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