第3章 俺だって変わるんだ!!!
幕間3 後輩女子との休日で!
「先輩、遊びに行きませんか!?」
それは休日の朝、琴乃葉が発した言葉だった。
ちなみに俺は琴乃葉を家に入れた覚えもない。つまり、合鍵を使って入ってきたということだろう。あれ、早く返して欲しいんだけど……
そんな琴乃葉に対して俺が返す言葉はただひとつ。
「休日って休む日って書くんだぞ。だから寝させろ」
「嫌だよ」
「即答ですか!?」
それからも「遊びに行きたい!」と琴乃葉は駄々をこねるが、俺はもちろん拒否する。
何が楽しくてせっかくの休日に遊びに行かなければならないのだろうか。
「……先輩。これを見てください」
「っち…… なんだよ」
琴乃葉が差し出すのは1枚の写真。
そこにはあどけなさの残る。……のこ、いや残ってないわ。
とにかく、その写真には俺の中学時代の姿が写されていた。問題は俺ではなく……
「なぁ、琴乃葉。これって……?」
「そうですね。巷で人気な佐藤アナウンサーとのツーショットですね」
「……どうして今になってそれを持ち出すんだ……?」
「遊びに行かなければ、これを学校中にばら撒きます」
琴乃葉は入学してからの数カ月で腹黒くなったというか何というか……
「いやぁー 今になってこの写真が役に立つとは思いませんでしたよ~」
そもそも琴乃葉が持っている写真は、俺たちが全中に出場したときに取材に来ていたアナウンサーにお願いした写真なのだ。
何が危険なのかと言うと、件のアナウンサーが老若男女問わず人気がありすぎるということだ。
そんなアナウンサーとのツーショットがばら撒かれると、学校内で知らない人からも問い詰められるのは必須だろう。
しかも、そこから俺の過去が知られるという可能性もある。
「……準備するから待ってろ」
「やりました!」
俺は仕方なく琴乃葉の言う通りに遊びに行くことにした。
「……疲れたわ。家に帰ろう」
「家からも出ていない状態で何言ってるんですか……」
そう駄々をこねる俺。それを無視して琴乃葉は玄関の扉を開ける。
吹き付ける風は秋のものらしく、どこか冷たさを持ち始めていた。
「じゃあ行きますか!」
琴乃葉の言葉を皮切りに俺たちは家を出て、ショッピングモールへと向かった。
バスに乗って30分。俺と琴乃葉は目的地であるショッピングモールに到着した。
バスの中でもそうだったが、休日であるということで多くの人でにぎわっている。
「さあ! 遊びつくしましょう!」
実は今回の目的は買い物ではない。
ショッピングモール内にあるアミューズメント施設で遊ぶことだ。その施設では定期的にキャンペーンをしており、その関係で今日は学割がさらにお得になるらしい。
両親からの仕送りで生活をしている身としては、そのような割引はかなり嬉しい。
「さて、待ち合わせもしているので少し休みましょうか!」
「え?」
俺は琴乃葉の口から出た「待ち合わせ」という一言に驚くことしかできなかった。
「なあ琴乃葉。俺が遊びに行かないって言ったらどうしていたんだ?」
「あの写真で脅せ……お願いしたら来てくれるのは分かってましたから」
「いま脅せばって言いかけたよな?」
「言ってません」
「……まあいいや。それで、その待ち合わせしている相手ってのは誰なんだ?」
「先輩も良く知っている人ですよ」
この町にてから俺は知り合いや友人と言える人を作っていない。
強いて言えば、昔から関わりのもつ琴乃葉と、スポーツ大会で同じ種目になった大川くらいだ。
琴乃葉のいう待ち合わせ相手が誰なのか。それを俺が知るまではさほど待つことも無かった。
「ごめーん。待たちゃったかな!?」
「そんなことないですよ!」
俺がベンチに座って待っていた時、その声は聞こえてきた。
やけに聞きなれた声。その声は可愛さの中にどこかウザさを持っていた。
「おひさだね翔! 私に会えて嬉しいでしょ♪」
俺の目の前に立っていたのは彩乃。
俺が中学時代の所属していたバレー部のマネージャーの1人で、幼馴染でもある人物だ。
俺と彩乃が初めてであったのは、地元にある病院の産婦人科。
俺と彩乃は生まれた場所も誕生日も同じ。そして両親の出身大学も同じで友人同士だったという会うべきして会った存在ともいえる。
それから当然のように同じ小学校、中学校に通って習い事までも同じだった。
それは俺が所属していた小学生バレーのクラブチームでもだ。
そんな俺と彩乃で初めて差ができたのは、俺の進学先を地元と遠いこの町の高校に選んだことだ。
そのことに初めは悲しんでいた彩乃だったが、今ではそんなことも忘れたかのように元気に俺の前に立っている。
「……久しぶりだな彩乃」
2年ぶりに会った彩乃はどこか大人らしさを持っていた。だけど俺には懐かしさを覚えることができた。
「じゃあ琴葉ちゃん! 早速だけど遊ぼうよ!」
「そうですね彩乃先輩!」
そう言ってアミューズメント施設の入口へと向かって手を繋いで歩いている2人。
(あれ? 俺の事もう忘れられていないか……?)
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