彩乃はマシンで!
「よっしゃ、始めるか!」
そんな部長の声に合わせて、他の部員もコートに入っていく。
そして、私と彩乃先輩がスポーツドリンクを準備していたらしい他2人の先輩がゼッケンやその他諸々の準備をしていたらしい。
2人は慣れた手つきで部員に必要なものを手渡していく。
「はい、どうぞ」
そういう2年生の先輩、夏樹先輩は部員それぞれに個人のものを渡していく。それを全て覚えているのだと考えると、マネージャーの仕事も一筋縄ではいかないんだなぁと思う。
そして夏樹先輩は彩乃先輩が可愛くてフレンドリーな人だとしたら、真面目な人に見える。
それと3年生唯一のマネージャー、梨花先輩は1人で無口に必要なものを準備しているが、部員と顔を合わせるとにっこりと笑う。
その表情は同姓である私にとっても魅惑的なものであった。
「それじゃあ私たちも仕事しよっか!」
私は彩乃先輩が言う通りにコートに近づいていった。
そして渡されるがままホイッスルを受け取って、彩乃先輩が「鳴らしちゃえ♪」と行ったので、ホイッスルに息を吹き込んだ。
しかし、ホイッスルの甲高い音が鳴ることは無かった。
「アハハ! 琴葉ちゃん全然鳴らないじゃん! まぁいいや。いつかできるようになるよ!」
そう言って彩乃先輩は私の使っていたホイッスルを受け取ると、それを口に含んだ。
その様子はたった1つしか歳が違わないというのに、どうしてか艶めかしく見えた。
思わず私が唾をのんでいると、彩乃先輩は私のそんな様子に気が付くこともなく、ホイッスルに息を吹き込んだ。
ホイッスルは私の時とは違って甲高い音をあげた。
「うわっ! もうかよ」
「今日の練習ってなんだっけ?」
「レシーブ。辛いほうな」
「……帰っていい?」
「逃げたら明日やらすから」
部員はホイッスルの音を聞いた瞬間に嫌そうな顔をしたが、すぐに動き始めて練習の準備をする。
「じゃあ私たちの仕事を説明するね!」
「は、はい!」
「私たちの仕事はみんながレシーブの練習ができるようにボールを投げること。そうはいっても私たちが投げてもみんな簡単にレシーブしちゃうから、アレを使います!」
そう言って彩乃先輩が指差した先には、小柄な私の背よりも少し高めの機械を持ってきていた夏樹先輩の姿がある。
「えっと、あれは?」
「あれは夏樹だよー!」
「それは分かりますよ!」
思わず私がつっこむと彩乃先輩はケラケラと笑いながら倉庫から出てきた梨花先輩に近づいていった。
そして梨花先輩がもっていたボールがいっぱい入っているカゴを代わりに持って来た。
「さて琴葉ちゃん! 次の練習ではこれを使います! って言ってもみんなもうボール持ってるけどね……」
それから彩乃先輩は丁度夏樹先輩が持って来た機械を前に置いた。
「この機械ってサーブレシーブの練習で使うんだけど……私たちの練習ではスパイクマシンの代わりに使います!」
「……? それってだいぶ辛いんじゃ……」
「そうだよ♪ 辛いからこその練習だよ!」
私は部員の人たちが練習が変わる瞬間の嫌そうな顔を思い出した。
その理由をようやく理解すると、彩乃先輩はマシンの電源を入れると。カゴの中からボールを1つ取り出した。
「じゃあ、どうやって使うのかを見せようじゃないか!」
そう言った彩乃先輩は徐々にボールをマシンに近づけていく。
「んー、誰にしよっかな……」
少し逡巡した様子を見せた彩乃先輩、「相沢にしよ♪」と言った。
「相沢! レシーブしてね♪」
そしてその相沢先輩の意識が完全にこちらに向く前に彩乃先輩はマシンにボールを吸い込ませた。
そうするとマシンからは目にも言えないのでは、というほどの速度でボールが飛んでいった。
「あ? なんだ舞原……ってはぁ!?」
舞原というのは彩乃先輩の苗字だ。
そんな彩乃先輩の無茶振りかともいえるボールに相沢先輩は何とか反応できたようだ。
「オラッ!」
ボールが飛んできたのが分かった瞬間、相沢先輩はボールへと飛び込んで、そのボールを何とか上げた。
(す、すごい……)
妹のクラブでの試合を見ていた。だけどここまで派手なプレーは無かった。
それもあってか私は思わず目を見開いてしまった。
「どうだ! 見たかお前ら! これが先輩の力だ!」
相沢先輩は後ろにいた1年生に向って自慢するようにそう言った。うん。大体どんな人かは分かった。
だけど1つ分からないことは残っていた。
「こんな感じかな♪ 琴葉ちゃん、使い方分かった?」
「分からなかったです」
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