スポドリじゃなくて水で!
私にとって先輩はヒーロ―で憧れでもある人です。
私にとって先輩への憧れ、と言っても簡単に言えるものではない。
それはバレーボーラーとして、1人の先輩として。そして一番には1人の異性としての憧れというものがあるのでしょう。
そんなこともあって、私は先輩の事が気になり始めてから、幾度もなく先輩にアプローチを掛けてきた。
何度かはドキドキさせた、という自信もあるにはあるが、先輩にはどうして私がアプローチをしているのかが分かっていないらしい。
それに関しては、私自身もドキドキで楽しく思えはするのだが…… それでもやっぱり先輩には早く私の気持ちを気が付いて欲しいものです。
さて、そんな先輩と私が出会ったのは櫻島学園のバレーボール部に私がマネージャーとして入部したときです。
せっかくなので、その時のことを思い出していきたいと思います。
◇ 3年前 ◇
「こ、琴乃葉琴葉です! よろしくお願いします!」
そう自己紹介をした私にパチパチと拍手をしてくれる先輩方。
その中の多くの人はたった1,2歳しか変わらないと思えないほどに身長が高い。そのせいもあってか私は人見知りだったりするわけでは無いのに、妙な威圧感を感じて声が竦んでしまった。
「うん、まぁ…… いつか慣れるよ」
そんな私の様子をみて察したのか1個上のマネージャーの先輩は私にそう言ってきた。
そして隣には同級生だという男子バレー部員。こちらも先輩方には劣るとはいえ、同級生の中では体格もかなり恵まれている。正直に言ってとても怖いです。
それからは、その隣にいた同級生達も自己紹介も済ませた。
「よし! じゃあ練習始めるか!」
『はいっ!』
それを確認した3年生の部長は声を掛けて練習を始めた。
1年生の同級生が先輩にアップに連れていかれて、この場に残ったのは4人。
私と、2年生の先輩のマネージャーが2人。そして3年生のマネージャーの先輩。全員が美人、または美少女と呼ばれるような人で、どうして1つの部にここまでレベルの高い人が集まっているのか? と不思議に思ってしまうほどで。
「ユカ。結局、雨沢ってどうなったんだっけ?」
「なんでそれを杏奈さんが聞くんですか…… 一応先生からは全治5カ月って聞きましたけど……」
残ったマネージャーの3人とマネージャ候補生(私のことですけど……)が軽く情報交換を始めた。
とは言っても、完全に内輪ができている状態。そして同級生は誰1人としていない。その中で私が先輩たちの話についていけるわけが無い。
そう思っていたら話に加わっていなかったもう1人の2年生の先輩が補足してくれた。
「えっとね、雨沢さんっていう人はね、3年生なんだけど、つい最近ケガをしちゃって…… それで部活にも出れていない人なんだよ」
「そうなんですか。親切にありがとうございます」
「そんなに硬くならなくっていいって! そんな事よりも琴葉ちゃんは何でこの部に入ったの?」
「え、えっと。妹がバレーをしてまして。それで何度か試合に見に行っていたら興味が湧いてきて、この部にも入ったって感じですね」
私はいきなり親密になったかのような口調の2年生の先輩に対してしどろもどろになりながらも、何とか返すことができた。
それからその先輩、彩乃先輩と私は一緒にドリンクを作りに行った。
そこで分かったことだが、彩乃先輩のフレンドリーな口調は所構わずといったものではなく、人とのコミュニケーションを円滑に取るための道具でしかなかった。
何が言いたいのかといいますと…… 彩乃先輩は可愛くて、優しくて、頼りになる先輩だということ。楽しい部活になりそうだなぁ。
そう私はこれからの部活に思いを馳せていました。
彩乃先輩との初めてのマネージャーの仕事から数分後。
私は遂にバレー部の面々に対して仕事をすることとなった。
「ほーい、水だよー!」
隣ではアップを一通り終えて疲れた様子で戻ってきた部員にスポーツドリンクの入った容器を投げつける彩乃先輩。
もちろん私は先輩1人1人に手渡しでスポーツドリンクを渡している。
「ごめん、普通の水ってあるかな?」
「あっ! ごめーん! 翔
のはこっちねー」
「え? 分かりました……」
他の部員とは違って普通の水を要求してきた先輩。周りには部員を取り仕切っている部長の姿も見える。
きっと3年生なのだろうか? そう思った私の考えを壊したのは彩乃先輩だった。
「アハハ! 翔、3年生だと思われているし!」
その後も「翔が3年生なわけ!」と言いながら笑う彩乃先輩の姿。
その『翔』先輩が去った後、どうして彩乃先輩が笑っているのか気になって聞いみると、思いもしない答えが返ってきた。
「翔はね、私と同じ2年だよ。普段は口数が少ないだけで大人しいから間違われやすいけどね」
「そ、そうだったんですか…… 周りにも3年生の方がいたので、そうなのかと思って緊張してしまいました…… それにかなり意識が高いように見えたので」
私がそう言うと彩乃先輩は次こそ耐えられないとばかりに吹き出して笑い始めた。
でも実際にスポーツドリンクには糖分などが多く含まれているらしいので、それを危惧する選手もいるのではないかと思ってしまったのは本当です。とは言いつつもスポーツドリンクに入っている糖分まで気にするものなのかと気になってしまい考えていると、そんな私の顔を見て彩乃先輩はもう一度吹き出した。
「え、えっとね……翔はね、2年生の中で唯一スタメンに入っているから、他のメンバーの近くに居てコミュニケーションをとっているだけで、れっきとした2年生だよ。まぁ、プレーは2年生離れしてるけどね」
つまり今の『翔』先輩は2年生で、3年生相手程までに緊張する必要が中っということなのかな……?
それにしても同じ2年生でも2人には大きく違いがあるんだなといまだに笑っている彩乃先輩の顔をマジマジと見ていると、彩乃先輩はそれに気が付いたのか咎めるように言ってくる。
「あ! 翔と比べたでしょ!?」
「ち、違いますよ! え、えーっと……仲がいいのかな? と思いまして」
「ホントか~? まぁいっか。それじゃあ琴葉ちゃんの質問に答えよう! 先輩としてね!」
私が『翔』先輩と比べたことに憤りを感じている様に話す彩乃先輩は続けて話す。
「う~ん…… 仲が良いのか、って聞かれるとそうなのかな? 実際に幼馴染だしね~」
「え!? そうだったんですか!?」
「うん、そうだよ。後一応言っておくけど翔のスポドリ嫌いは『意識が高い』からとかじゃないからね」
「え? そうなんですか?」
「翔はね甘いのが本当に苦手でね。昔から運動後とかにスポドリを飲むと、そのまま戻しちゃうんだよ~」
「そ、そうだったんですか……」
なんじゃそれ。と思わず思ってしまったけど、部員のそんなことまで知っていて、それを笑い話にできるほどの絆が結ばれているんだな、とまで思った。
そして、私も早くその輪に入りたいと思うし、そんな雰囲気のこの部が本当に羨ましい。たった1日の練習なのに、私はそう思ってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます