ジャンプサーブは1人じゃないようで!

「っていうことで2セット目のポジションは高松からな」

「え? 俺のサーブは?」

「……あきらめろ」

「マジかよ」


 少し真面目な話をする大川。

 その内容はいよいよ始まる2セット目のポジションに関してだ。

 ポジションとしてはサーブを打つ人の位置に高松が立つという、1セット目の時と同じだ。


 意外に思われるかもしれないが、バレーの試合では1セットごとにスタートの位置を変えるオーダーを出す必要がある。

 それはチームごとの戦略に大きく関わってくるので、マッチアップさせたい選手に合わせて味方のチームの選手を配置していく必要がある。


「まあ高松は放っておいて……2セット目、頑張っていこう!」


 大川のその言葉を皮切りにしたかのように審判は両チームにコートへ戻ることを指示した。


 コートに戻ると、こちらとは違って相手はポジションを変えてきたらしい。

 俺の目の前にいるのは雀宮先輩。正直に言って高身長なことがあってか威圧感がものすごい。


「……3年前のこと覚えているか?」

「……は?」


 そんな雀宮先輩は意外にも俺に対して話しかけてきた。

 とは言っても俺には何のことか理解できないが。


「……覚えていないようだな。櫻島学園の小鳥遊翔」

「なっ! その学校名を知っているということは……」


 櫻島学園とは、2年前まで俺が通っていた中学校のことであり、もちろんそこは俺がバレーで全国に行っていた時の学校でもある。


「あぁそうだ。改めて俺の名前は雀宮翔太朗。3年前の駿南中学4番だ」

「もしかして、決勝で俺たちが……」

「ボコボコにした奴らの1人だな。ちなみのそこにいる渡辺もボコされたうちの1人だぜ」


(なんというか……申し訳ない)


「申し訳ない、なんて思うんじゃねぇよ。お前がバレーを出来なかった2年間、俺は必死に練習をしてきた。次こそは勝つつもりだ。だからリベンジマッチと洒落こもうじゃんか」

「……受けて立ちます。こっちこそ本気でやるって決めたんで」


 こうして俺と雀宮先輩、そして渡辺先輩とのリベンジマッチは始まった。

 もちろん俺にとってはいきなりのことだが、受けて立ってやろう、と生意気にもそう思ってしまった。




 それからしばらくして2セット目は始まった。

 最初は渡辺先輩のサーブ。

 渡辺先輩は弾速の早いジャンプフローターサーブを打つ選手で、たった今思い出したことではあるが、3年前も俺はそれにかなり苦しんでいた。

 いまでも変わりはないが、当時の俺は特にオーバーハンドが苦手だったからだ。


「オッケー! 俺が捕る!」


 2年間も同じ環境で練習をしてきたからなのか、高松はあっけなくサーブレシーブをする。

 そして緩やかな放物線を描いてボールは大川の頭上へと舞い降りようとしていた。


「行くぞ!」


 大川の声と同時に高松は助走を取り始めた。

 先程も話したクイック攻撃をするのだろう。

 それに合わせてあらかじめ助走距離を取っていた俺は遅れることもなくスパイクの為の助走へと入った。

 スパイクとは言っても囮なのだが……


 それでも囮という効果は大きかったのか、相手のブロッカーはまともに機能することもなく、高松のクイックを遮るものは何もなかった。


「これは決めたでしょ!?」


 高松はそんな言葉と共にコートへと降りてくる。

 実際に高松のスパイクは俺たちの得点となり、2セット目の1点目を取ったことに俺たちのクラスはもちろん、体育館は大盛り上がりを見せた。


(正直この中でサーブは精神的に辛いけど…… やるしかない、か……)


 ローテーションをしてサーバーの位置へと着た俺は覚悟を決めて、審判から投げられたボールを受け取った。


(セットの最初は時間いっぱいに……!)


 ホイッスルの音が聞こえた。

 だけどまだ我慢する。動きたくても、サーブを打ちたくても、まだ時間は残っている……

 そうしていた時に、ふと声がした。


「サクラ魂、見せつけろ!」


――あぁ、あの時とまったく同じじゃないか……


 コートチェンジを行ったことで、先程までは俺の後ろ側に居た琴乃葉は自然に目線に入る位置にいた。

 そんな琴乃葉は手を振って昔の中学での掛け声をなりふり構わず叫んでいた。


(こんなのノルしかないだろ……!)


「1点決めるぞ!」

「「「「「オー!」」」」」


その5つの声はバレーで唯一の1人でのプレーであるサーブという場面でもコートには仲間がいるということを実感させてくれる。

 どうして俺はこんなにいい奴と教室でも関わりを持とうとしてこなかったのかが不思議に思える。


 そんなことを考えていると8秒というのは簡単に過ぎていった。

 俺は審判のタイミングより少し早いタイミングでサーブトスを上げた。

 少し高いか、ちょうどいいか。自分でも微妙に思えてしまう出来栄え。


(それでも……サーブを打つのは俺しかいない!)


 俺は高く舞ったボールに目をやりながら助走を始めた。

 初めの2歩で少しでも早く。

 そして最後の1歩で一気にブレーキを掛ける。

 その反動で俺の体は高く宙を舞った。その間は俺はサーブの姿勢を意識するだけ。簡単な事だ。


そして俺の手とボールが丁度合ったかというとき。おれは思い切って腕をスイングさせた。

 力を入れるのはボールインパクトのほんの一瞬だけで良い。

 それだけでボールは威力を発揮する。


(ほら本当だろ?)


 俺は誰にも聞かせるわけでもなく、心の中でそう言っていた。

 実際に俺のスパイクサーブは驚異的な回転と弾速を持ったまま渡辺先輩の元へと飛んでいった。

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