幕間2 リベンジを願っていたようで!
「スズメ、ラスト!」
「任せろ!」
俺がそう言って打ったスパイクは、あっけなく相手のオポジットにレシーブされてしまった。
ブロッカーもついていなかった状況。誰もが俺のスパイクは決まったと思っただろう。
そんな俺のスパイクを憎くも綺麗にレシーブしたのは俺と同じポジションであるオポジットの相手選手。それも2年生。
中学生という成長によるパワーの変化が大きいこの状況の中で、その選手は俺よりも、否、このコートの上に立つ誰よりも輝いて活躍していた。
名前は小鳥遊翔。中学2年の時点で全国大会の決勝にスーパーエースとして出場しており、誰よりも得点を稼いでいる男。
そんな圧倒的な力を持つ小鳥遊相手に俺たちのチームも対策を練ってきていた。だけどもそれをすべて破壊するかのようなパワーと技術。
それに俺たちは完全に押されていた。
そんなことを考えている間にもプレーは続いている。
どうして今になってこんなことを考えているんだ! と俺は自分自身を鼓舞して試合も終盤となり重くなってきた体を動かす。
そしてレシーブされたボールは相手セッターの元へと返っており、今まさに助走を始めているのは小鳥遊。
得点は5セット目の18-19。相手があと1点決めれば試合は終わるというこの状況。
そんな大一番で持ってくるのはエースだと。それはどんなチームでも変わらないらしい。
上がったトスに食らいつくのは小鳥遊。俺よりも10センチ程は小さいであろうその男は、そんなことを考えさせないほどの跳躍力を見せてはるかに高い打点へと向かって跳んでいた。
それをみた俺は当然食らいつくようにブロックへと跳んだ。
——ここで負けてたまるか! 2年相手に、俺が負けてやるものかよ!
俺をそう考えさせるのはエースとして矜持だろうか。
仲間の期待を一身に背負って俺はスパイクを決めなくてはいけない。レシーブをしなくてはならない。相手よりも強くなくてもならない。
そんな俺の責任感は簡単に崩れ去ってしまった。
パンッ!
短くとも力が籠ったであろうその音と共にボールはありえないほどの回転を見せて俺の元へと向かってきた。
いや、俺の元というよりかは俺の手先というべきなのかもしれない。
「これは無理だな……」と思ってしまった俺は考える頭を止めずに叫んだ。
「レシーブ頼む! お願いだから!」
泣き叫ぶかのような声。それは相手への敗北を伝える最後の一言となってしまったのかもしれない。
会場から見ている観客には嘲笑されているのかもしれない。
それでも俺は負けるのが嫌で勝負を味方に託した。
しかし結果は俺のブロックも、味方のボールへと向かう迫力も。すべてを無に還した。
結果で言うと後衛はボールに触れることも許されずに地面を滑った。
負けなんだ。と理解するのには思っていたよりも時間がかからない。目の前が真っ暗になったかと感じさせるほどの痛み。1試合一度も跳ぶのをやめなかった俺の足は今頃になって痛みを訴えているらしい。
それもどうだっていい。あと1試合でも良い。コートに立たせてくれ! 跳ばせてくれ! と、そう願いながら、俺は願いとは逆にコートの上へと崩れた。
——アイツはあと1年出来るのに! どうして俺が負けなきゃいけないんだ!
——どうしてアイツのスパイクを取れなかったんだ!
小鳥遊を、俺自身を責め立てる言葉が次から次へと湧き出てくる。
「スズメ、俺ら負けっちゃったんだな!」
そうだというのに、チームメイトは、仲間は笑いながら俺へと手を指し伸ばしてくる。
どうして笑えるんだよ! とそう責めたかった俺に、そいつは笑いながらこう言った。
「再来年か、そのまた1年後。アイツと戦おう! 次こそ一緒に勝とうじゃねぇか!」
そいつは泣いているかも笑っているかも分からない声を出しながらも俺を引っ張って起こそうとする。
「……次こそ勝とう!」
そうチームメイトと、渡辺と誓い合って数カ月後。俺はある高校に進学していた。
もちろん隣には渡辺。
俺たちの入学した高校は県内でもそこそこのバレー強豪校で毎年と言って良いほどに全国大会の出場枠を争っているような学校だった。
それからの1年はあっという間に過ぎていった。
気が付けば俺は2年になっていて、半年もたたずに引退する先輩の次のエースとしてベンチ入りをさせて貰えるようになっていた。
そんな時にあった入学式。俺は次は迎える側か。と1年間の事を思い出しながら過ごしていた。
そう感傷に浸っていた時のあの感覚は忘れられない。
——どうしてお前がいるんだ……
敵として戦うことができなかったことに対する絶望だろうか。それとも単純に「どうしてこの学校に来たんだ」という疑問なのか。それは俺にも分からない。
確かな事と言えば……小鳥遊はバレー部にも入ってこないし。俺が戦った時の表情をは大きく違う暗い顔をしていたということだ。
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