息はあってこそで!
「ヨッシャー! もう一回決めんぞー!
高松はスパイクを誰にも触れられずに決めたことで気分が良かったのかテンションを高めにして宣言した。
「あーうん。ナイスサー」
それに完全な棒読みで大川が高松に向って返した。
そんな大川の様子には高松にも気が付くことができるようだった。
「……大川、雑すぎないか?」
高松は微妙な顔をしながら審判の鳴らしたホイッスルに合わせてサーブを打った。
そんなサーブは今までのスパイクサーブとは打って変わって、ジャンプフローターサーブだった。
どうして高松の長所を潰してまで無回転のサーブに切り替えたのかというと、単純な話、威力が高くても相手チームのレシーバーには効果が薄いということだ。
それなら相手を少しで揺さぶってこちらの反撃のチャンスを多くしたほうがいいという大川の指示だ。
実際にそれは成功したようで、レシーバーは虎町先輩。もちろんセッターである渡辺先輩に向けてあげたのだろうが、今までよりも雑になったようにも見られる。
「ごめん! 短いかも!」
「いや、十分だ!」
渡辺先輩は虎町先輩と短く言葉を交わしたのちにボールの下へと潜り込む。
「それじゃあ最後はお前でな!!」
「エースに任せろ!」
渡辺先輩のトスに飛びついてきたのは案の定と言ったところか雀宮先輩だった。
しかしトスが高めに挙げられたこともあってか、スパイクの打点はこれまでよりも少しばかりか高くなっているように見える。
(だけど、その少しがブロッカー側からしたら大きくなるんだよな……)
少し関係のない話をするようにも思われるかもしれないが、俺はブロックが苦手だ。
なぜなのかと言うと、相手のスパイカーは助走をつけてスパイクに入ってきている。
それに比べて今の俺のようなブロッカーは助走もなしに上に跳躍しなければならない。そうすると必然的に助走のできるスパイカー側が有利に事を進められる。それも今回のようにセッターとスパイカーの息がピッタリにあったときなどは地獄と言っても良いほどだ。
そしてそれはバレーボーラー、それもオポジットとしては身長の低いほうになる俺、自分自身で証明している。
あいてのブロッカーの方が身長の高いという状況のなか。俺は何度もスパイクを決めてチームに貢献していた。
あっけらかんと言ってしまえば、俺にとってスパイクというのはなんとかなるのだ。
そしてそうはならないブロック。身長と手の長さ、それの利がもろに出てしまうということで俺は苦手意識を持っていた。
それを見透かしていたかのように雀宮先輩のスパイクは俺の手先少し上を飛んでいった。
俺のジャンプのタイミングが遅かったというのもあるのだかここまで余裕を持って打たれる悔しい、としか形容ができない。
もし、シューズがバレー用のものであったら。もし、1日の試合数が少なかったら。
そんな『もし』のことを言い訳に使おうとしている自分がいるのも確かだ。
悔しい気持ちをしている俺の後ろでボールの弾ける音がした。
こうして俺たちは今日の試合で始めてセットを落とした。
「……すまなかった」
「いや小鳥遊が気にすることではないだろ。あんなん俺でも取れないわ!」
そう言ってあっけらかんと笑うのは意外にも高松だった。正直に言ってこういうことは大川が言うものだと思っていた高松を除いた7名は思わず黙ってしまった。
「なんていうかお前も成長したな」
「そうだろ大川? 俺も小鳥遊に触発されちまったよ」
大川と高松はバレー部としての関係もあってか、短い言葉だけでコンタクトを取った。
それから大川は手をパチンと叩いて気を取り直すようにこう言った。
「セット間は3分。バカやってたらすぐ終わるからちゃんと有意義なものにしよう!」
それには誰もが賛成のようで、みんなが円陣を組んで話し合いが始まった。
「……とりあえず一番の課題は、あのレシーバー2人をどうするかだな」
そしてまたもや意外な事に話を切り出したのは高松だった。
思わず大川の方を向き、「話さなくて良いのか?」と聞いてみたら、大川は「いつものことだ」と返す。
「正直に言って俺にはあの2人を正攻法で倒すのは無理だ。だからこれからはクイックをしていこうと思う」
スパイカー側からの意見と言ったところか、高松は普段のテンションをどこに追いやったのか神妙な顔をして言い始めた。
「クイックっていうのは、読んで字の如く速い攻撃ということだ。ちゃんと説明するとセッターのトスからスパイクを打つまでの時間を少なくするっていうイメージだ」
そして大川は高松の説明に補足するかのように話し始めた。
「このクイックなんだけど、小鳥遊みたいなバレー経験者でも合わせるというのは難しい。というよりか出来ない! できたとしたら小鳥遊の方が凄いってことだな!」
大川は笑いながらそう言うが、その意見に関しては俺も同意だ。
トスが一番高く上がる前にはスパイカーはジャンプをしてスパイクモーションに入っていなければいけない。それを練習もせずにするというのはセッターもスパイカーも天才レベルでないとできない。と思う……
「だから俺がクイックをあげるのは高松だけ! もちろん皆にもスパイクを打ってほしいからそういう時は今まで通り頼んだぞ!」
「……それと俺だけでスパイクに入ってもクイックだというのがもろ分かりだから、お前らには俺と同時にスパイクの助走に入ってもらいたい」
「何を言いたいかって言うと、バレーはコート上の6人全員でやる競技だ。だれか1人でも掛けたら勝つなんて夢のまた夢! っていうこと。それに関して小鳥遊はなんか言うことがあるか?」
「……何でそこで俺に話を振るんだ?」
「一番バレー歴が長いから。ジュニア時代からやっているという情報は既につかんでいるんだよなー」
「食えない野郎だな。……まぁ、話させてもらうけど。俺も大川の言うことには賛成、というか俺も身をもって体験してきたことだ。だからみんなで頑張ろう」
「小鳥遊もそう言っているということで! せっかくの勝負だ! みんなで勝って終わろうぜ!」
大川の言葉に対する俺達7名の返事はただ一つ。
「「「「「「「オウッ!」」」」」」」
俺はこのチームメイトと初めて息があったのだと。そう思うことができた。
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