高松はエースのようで!
喧騒も収まりを見せ始めて試合が再開した。
サーバーは高松なので期待はかなりあるはずだが、それと同じくらいに相手のレシーバーたちも手強いので得点を取れるかどうか相手の攻撃のあと、つまりこちら側が次につなげられるかどうかで決まる。
結局俺たちの不利だということには変わりがないということだ。
「よっしゃ! 1本決めるぞ!」
大川が味方を鼓舞する。それに従って、俺を含むチームメンバーも「オォー!」と声をあげる。
それからホイッスルが鳴って高松がサーブした。
ボールはネットギリギリ飛んでいって渡辺先輩の腕に収まった。
ここで相手のセッターを動けなくするというのはかなり大きい。それもあってか相手のスパイカーは雀宮先輩ではあったが、威力も弱かったため高松が綺麗なレシーブを大川に上げた。
「もう一回小鳥遊!」
大川は先程よりも低くトスを上げた。
しかし俺は既にスパイクの為の助走を取っている。
そんな俺の様子に気が付いたのか体育館では「アイツまたやるのかよ!?」という声も聞こえてくる。
ここでスパイクを打たなかったら先程のは『奇跡』ということもまだできるだろう。もちろん誤魔化すのは簡単ではないだろうが……
だけど俺のはそんなことは関係ない。
2階には応援してくれる琴乃葉がいる。そんな声援を無視する度胸も勇気も俺にはない。
俺は相手のコートを見据えて、スパイクを打つために一気に跳んだ。
それと同時に相手のブロッカーも跳んできたが、十分な助走を取れた俺の跳躍にかなうはずもなく、俺の打点はブロッカーを越えた。
スパーンという小気味の良い音を出しながらボールは飛んでいって、誰にも触れられることなく俺たちのポイントとなった。
「小鳥遊ナイスキー」
「そっちこそナイストス」
俺は大川と短く言葉を交わしたのちに、他のメンバーとハイタッチを交わす。
そういうチームメイトは俺の顔をマジマジと見つめて、今までとの変わりように驚いている様子だったが。
「大川、次は頼むぞ」
「おう、任せておけ!」
「次もアイツ来るから要注意な! ブロックは完全に止めなくてもいい!」
俺と大川の『少し』大き目で話した戦術を聞きつけた渡辺先輩は俺を注意するように言った。
今現在でポイントは25-19。正直に言って、これから点を取ったとしても、このセットは諦めざるを得ないだろう。
しかしここで少しでも相手の余裕を奪っておくことは2セット目で確実に生きてくる。
それから甲高いホイッスルの音が鳴った。
それとほぼ同時に高松な強烈なサーブが飛んでいった。
「ワタ!」
虎町先輩は渡辺先輩の方へとレシーブを返した。
そのレシーブは見てれるくらいに綺麗なもので、完全にサーブの勢いが消されているという完璧なものであった。
「ナイスレシーブ! そんじゃ最後はスズメでなー!」
渡辺先輩は俺たちを誘導するかのように、雀宮先輩にスパイクを打たようとトスの為にジャンプした。
その時には雀宮先輩はスパイクに入ってきていて、大川ともう1人のチームメイトはブロックに入っていた。
(……そんな簡単に騙されるものかなー)
2人がブロックに入っているのを横目に俺はセッターである渡辺先輩の前でレシーブの構えをしていた。
ちなみに渡辺先輩はボールと雀宮先輩だけを見ていて、俺は目線に入っていないようだった。
「オラッ!」
そう叫んでスパイクを打ったのは雀宮先輩。ではなく渡辺先輩だった。
つまり渡辺先輩は雀宮先輩を囮に使ってツーアタックをしたということ。
そしてツーアタックの強打は両腕を既に前に出してレシーブの構えをしていた俺の元へと直で飛んできた。
「オッケー! 大川、次は騙されんなよー!」
「悪かったな! じゃあ次も頼んだぞ!」
俺と大川はレシーブとトスをしながらも会話をする。
そんななか大川が最後を託したのは俺。ではなく高松だった。
今までの2点分のプレーで俺を警戒していた相手チームは高松を一切と言って良いほどに警戒されていなかった。そのことを高松が心から喜べるかどうかは知らないが、ブロックに阻まれることもなくスパイクを気持ちよく打てるというのは確かなようだ。
「ヤッフーッ!」
高松は舐め腐ったかのような声を出しながらスパイクを打ち切った。
それは誰もいないセンターライン前方へと落ちた。もちろんそれは俺たちのポイントとなった。
「……ふぅ。……2階のみんな見てるー!? 俺を褒めろ! とにかくチヤホヤしろ!」
「調子乗んなくそ松!」
「決めて当然だったろー!」
高松は気を良くしたのか、2階に向って声をあげた。
しかしそれには厳しい声が戻ってきた。こういうのを無くせば高松もモテそうなんだけどな……
それでも高松がこのチームでもバレー部のでもムードメーカとなっているという話を聞くが、それも今の様子を見ていれば納得は出来そうだ。
それからもしばらく高松は2階に向ってアピールをしていたが、審判の女子生徒に咎められたのをきっかけに試合は再開した。
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