決勝戦は転換点で!

 バレーの女子の決勝が終わりに近づいたころ。


「よし! もうそろそろ決勝の準備をするか!」


 大川がそう言ってメンバーを呼び寄せた。よ、呼び寄せたんだけどなぁ……


「もうそろそろ! 決勝の準備! するか!」


 大川はこめかみを引きつらせながら強調して同じことを言った。

 そう。高松に対して。高松は先程から女子の決勝を見て大騒ぎしていた。とは言っても、プレーに対してではなく女子のプレーする姿に対してだ。それでいいのかバレー部……

 ちなみに高松のこの様子。俺がひとり考えて2階から上がってきた時から何も変わっていない。


 そして高松が一人で盛り上がっている女子の決勝は琴乃葉のいる1年生のクラスが3年生のクラス相手に圧倒的に優勢だった。

 それもあってか決勝の準備は早めにしておいたほうがいいという判断なのだろうか。大川は既に荷物をまとめていた。

 しかし、その様子にも気が付く気配のない高松。

 それには大川もしびれを切らしたようで……


「おい高松。行くっつってんだろうが」

「え? 大川? どうしたんだ?」

「早く準備しろって言ってたんだ」

「お、オッス」


 大川は普段からは想像もできないドスの利いた声で高松に指示した。口調もかなり変わっていて、近くで琴乃葉たちの決勝を見ていたクラスの女子の面々も少し引いているように見える。

 だけど俺だけには大川が笑っているように見えた。きっと、決勝を待ち望んでいるのではないかと。だから笑っているのではないかと俺には思えてしまう。


 それからは従順に大川に従った高松を連れて俺たちは決勝の行われるコートへと向かった。




「さ。軽くアップでもするか!」


 大川は普段の様子を取り戻してメンバーに指示を与えていく。


「お! 大川も張り切っているな! それに高松も……高松はうん。調子に乗りすぎたんだな。きっと」


 アップを始めようかと、そう思った矢先対戦相手だろうか。他の生徒とは比べつかないほどの体格をした生徒が話しかけてきた。

 これが準決勝の直後に大川と高松が話していた3年の先輩だろうか。

 ちょうど俺に隣にいた高松は「去年のバレー部キャプテンでポジションはウィングスパイカーの雀宮先輩です……」と小声で教えてくれる。大人しくなりすぎだろ。こっちが心配になるだろ。

 その後に対戦相手の選手全員が体育館に入ってきた。なんて言うか…… 全員総じて体格が良すぎる。

 話を聞くにスタメンだけでバレー部が3人。それ以外も全員が運動出身らしい。かなり強いチームだな。と思ったが俺のクラスもそんなものか……


 それから俺たち両チームはそれぞれアップを始めることにした。

 そうして俺が他のメンバーについていってアップをしようかとそう思ったとき……


「お前が小鳥遊で合ってるよな?」

「え、え? あぁ、そうですけど……」

「3年前の雪辱、果たしてしてもらうからな」


 雀宮先輩は先程までの大川との楽しそうに話す表情を一変させて俺にそう話しかけてきた。

 俺はもちろん雀宮先輩の言う『3年前』のことなんて知らない。

 そんな俺は不思議に思いながらもアップを始めた。




 アップを始めて10分経った頃だろうか。

 体育館では今までの喧騒をより一層大きくした。どうしたのかと気になり隣のコートを見れば試合が終わったところだった。

 結果は琴乃葉のクラスが2-0で勝利。1年生のクラス、それもバレー部がいないクラスが、3年で元バレー部がいるクラスを破ったのだから騒ぎが起きるのは当然のことだ。


「よし……次は俺たちの出番か……!」


 ついさっきまでは笑顔でアップをしていた大川。その表情は先輩との試合が目前に瀬町緊張が見えていた。


 アップを終えた俺たちは、女子の試合が礼まで終わるのを見届けた。

 それから、コートのラインに立ち挨拶を待つ。


 それから女子バレー部の生徒だろうか。女子にしては身長が高い1年生がやってきてホイッスルを鳴らした。


『お願いします!』


 女子の試合が終わってすぐ。

 体育館はまたもや熱気に包まれた。


 それから流れるように試合は始まった。

 最初のサーブ権は俺達2-C。このクラスの唯一のビッグサーバーと言っても過言ではない大川サーブだ。


「とりま1点決めますか……! オラァッ!」


 今日の数試合で聞きなれた高松の掛け声。その掛け声に乗ってサーブはそのまま相手コートへと叩きつけられた。


「あの後輩生意気だな。俺が後衛じゃないからって」


 きっと今のセリフは大川の言っていた元リベロの虎町先輩とやらだろう。体小さいしな。ってこっち見てきた!? こわっ。


 こんなではあるが、こうして決勝は始まっていった。


 こんなスポーツ大会の決勝。それが俺の転換点をなると、この時は俺自身思ってもいなかった。

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