小鳥遊翔はやらかしてしまったようで! ②

「小鳥遊、結構やるじゃん……」

「ウチら勝てちゃうんじゃないの!?」


 2階からは女子の騒ぐ声が聞こえてくる。男子は男子で遂にクラスで1位を取れるのではないかと大騒ぎしている。

 取り敢えずこれだけいわせてもらうけど……


(次のサーブ打ちにくいな……)


 だって、これで手を抜いたら何かしら文句言われるだろうし……


 俺がそんなことを思っている間も体育館は一向に静まることは無かった。審判の女子生徒までも驚いていて、ホイッスルを鳴らすことを忘れている。


「えっと……大川。 あの人って結構うまいのか?」

「そうだな。リベロを除いて、レシーブに関しては県内でも1、2を争うくらいにはうまいぞ。それも俺たちの学年なら知っていると思うし……」


 俺は思ったよりもやらかしていたようだ……

 しかし、一向に落ち着く気配のない2階とは違って、相手クラスはすぐに気を取り直してサーブを受ける準備を終わらせた。もちろん、こちらのクラスの面々も試合が再開されるのを待っている。

 それでも審判を含めて、体育館は落ち着かない。

 見かねた大川はわざとらしく咳ばらいをした。


「っあ!」


 審判をしている女子生徒は現実に戻ってきたように、ホイッスルを鳴らした。その音は少し外れているようにも思えた。


(サーブどうしよ……)


 俺は正直に言って迷っていた。

 それは次のサーブをどう打つかだ。

 多分ではあるが、ここで手を抜いたら大バッシングを受けること間違いないだろう。それは今の体育館の雰囲気が証明している。

 少しの間、とは言っても2、3秒の間考えた俺は、ある1つの結論に至った。


 両チームの布陣は俺がサーブ。先程のレシーバーは後衛の中心に構えている。ちなみに名前は相田らしい。

 そしてセッターは俺と同じ場所、つまりコートの対角にいる。

 それなら狙うのは必然と俺から見て相手コートの右側。でもなく前を狙う!


 俺は俺の中で決めた作戦通りにサーブを打った。

 とは言っても、ジャンプサーブをして前を狙うなんてことをすれば先程よりも注目を浴びるのは明白だ。


(とりあえずサーブ打つか……)


 俺はフローターサーブをすることを諦めた。

 つまり先程と同じように回転を多く掛けて強打を打った。

 そんなサーブは低めの弾道を描いて飛んでいった。


 それにいち早く反応をした相田はボールを正面に捉えた。

 ボールがネットを超える前に正面にピッタリと捉えているあたり、本当にレシーブが上手いのだろう。


(だけど、それも意味がないんだよなぁ……)


 俺が狙うのは失敗すれば、先程の高松のサーブが失敗したときと同じ状態になるだろう。

 っていうか成功する可能性の方が少ないから、俺は自分で自分をピンチにしているということだ。

 何を狙ったのかと言うと、『ネットイン』だ。俺的には狙って入るものではないが、少ない可能性に賭けてみるのも一興というものだ。


 そして俺のネットインなんて警戒していなかった相田は2連続で点を取られることになった。


「小鳥遊、やるなぁー!」


 隣の高松はバカのように騒いで褒めてくる。

 そして体育館はまたもや騒ぎになってしまった。それも先程よりも大きく。

 隣のコートを見れば、既に試合は終わっている。そっちの試合を見ていた生徒がこちらに流れてきたのであろう。


(なんか無駄に目立ってるな……)


「小鳥遊『なんか無駄に目立ってるな……』なんて顔しているな。でも流石と言ったところだな」

「流石に狙ってやったわけではないぞ?」

「嘘だな」

「そうだな。でも割と賭けたつもりだったぞ。俺自身が一番驚いているくらいには」

「そうかな? あれ、見てみろよ」


 俺は大川にそう言われて、大川が指差す2階を見る。そこには普段の俺への対応を思い出せば考えられないほどの応援をしてくれるクラスメートがいた。


(なんか嬉しいな……)


 俺は久しぶりに受ける歓声や応援に心を打たれてしまった。

 そしてクラスメートの隣にいる琴乃葉。ついでに亜紀と夢。

 琴乃葉の存在は中学時代の試合を思い出させてしまい、懐かしくさせてくれる。


——2年前も、こんな気持ちだったんだっけ……


 体育館に染みる汗と涙の匂い。陳腐な表現だけど、その言葉はしっくりと俺の心に刺さった。

 この匂いには俺のものは含まれていない。だけど、そんな表現をさせてくれるくらいには、この体育館で3年間の青春を捧げている人がいるということは俺を高揚させた。


(もう少し、頑張ってみるか)


 たかだがスポーツ大会。それくらいなら少しは頑張ってみるのも悪くはない。

 俺はそう思うのだった。

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