小鳥遊翔はやらかしてしまったようで!
「オラァッ!」
そう叫ぶのは高松。
高松は2階にいるクラスの女子に向けてガッツポーズをしている。まぁ、それにたいする女子の反応はひどいものだが……
そう、例えば……
「あー、うんうんすごいねー」
「高松うるさ」
「バレー部なんだからそれくらいしろっつーの」
そんな反応をする者もいる。
しかし高松にはそんなことは聞こえないようで、他の反応——それも良いほうの反応だけを拾ってはそれに喜ぶ反応を見せる。都合の良い耳だな…… 俺も欲しいわ。
「ホラ見たか! 大川、次も頼むぞ!」
「……絶対にトスあげたくないんだけど……」
それから大川は、「前衛で攻撃力があるのは小鳥遊か……」とつぶやいて、俺に次にトスを上げる旨を伝えた。
「あれ? 小鳥遊に…… 大川、俺は? ねぇ俺は!?」
高松は大川のそんな呟きにしっかりを反応するが、大川は何も聞かなかったことにしたのか、ボールを受け取ってサーバーの高松に渡した。
高松がボールを受け取ったのを確認した審判はホイッスルを鳴らした。
その音と同時に高松はサーブを打った。
高松の強打は、スポーツの大会のレベルだとは思えない速度で相手のコートに向っていった。
……向かっていったのだが…… そのサーブはネットに阻まれた。
「……」
「高松、なんで黙っているんだ」
ネットにサーブを阻まれた高松は何も言わずコートの横へと歩き出す。
その方向は誰がどう見ても、体育館の外へと通じる扉がある方だ。
そんな高松を大川は容赦なく追及していく。
「……バイバーイ」
先程まで散々調子に乗っていた高松は居た堪れなくなったのか、走って逃げようとする。
「オイコラ!」
しかしそれは大川が慣れた手つきで首の襟を掴んで阻止した。大川慣れすぎじゃない……?
まぁ高松が逃げ出したくなる気持ちも分かる。何しろ先程まで味方に付いていた女子生徒は、それまで文句を言っていた女子に混ざりブーイングをしている。ちなみに元から文句を言っていた女子たちのとげは鋭さを増している。
そして俺たちのクラスの男子は撮ったばかりの動画を楽しそうに大音量で再生している。高松の「ダァッ!」というサーブを打つ時の声がこちらまで響いてくる。
コートで聞いていると力強くて安心感を持つが、こうしてネタにされると間抜けにしか思えなくなるのは不思議なものだ。
体育館がそんな風にカオスになっている中、試合は再開した。
相手のサーブは高松の方へと飛んで行った。しかし高松は先程の汚名を挽回するかのように綺麗なレシーブを大川へとあげる。
「小鳥遊!」
大川は短くそう言い、俺にスパイクを打つようにと指示をしてきた。
あらかじめ助走スペースを確保していた俺は迷うことなくスパイクを打った。
力で言うと40%くらいだろうか。元から力を抜いていたのもあるが、今回はパワーよりもコントロール重視で相手のスキをついてみることにした。
そんな俺の思惑は見事成功した。相手は俺のスパイクに触れるも少し遠かったのか、ボールは思いもしない方向へと飛んでいった。
「小鳥遊ナイスキー!」
「……小鳥遊、俺よりも上手くないか。レシーブの活躍奪われた……」
純粋に俺を褒める大川と、すこし自信を失い始める。
それも仕方ないか。忘れかけていたけどスポーツ大会の勝者の告白は成功する言うジンクスがあった。それは活躍すればするほど可能性として上がるというのは当たり前のことだ。おおかた、高松はそれを狙っているのだろう。
「小鳥遊ってなんだかんだ言ってうまくやっているよねー」
「でも、地味なのもあって高松よりは目立たないよねー」
2階からはそんな声も聞こえてくる。しかし高松の強烈なサーブやスパイクよりかは興味は薄いようだ。別に目立ちたいわけではないから気にしないけど。
しかし、そんな中にも琴乃葉を始め、亜紀や夢、今では千秋の純粋な歓声も聞こえてくる。
正直言って美少女に応援されると目立ちそうだから、と少しだけ煩わしく思っていると、思いがけない位置からボールが飛んできて顔に当たった。
「……イタ」
「あ、」
ボールを投げたのは高松だったようだ。俺のサーブになるというのでボールを渡したつもりだったのだろうか、見事俺の顔に当たったという訳か。なんで真横から投げるんだろ……
「うわー 高松ないわー」
そんな様子をバッチリと見ていた2階の女子からは高松を非難する声。正直言って俺が「鈍くさい」なんて言われると思っていたから拍子抜けした。
高松は普段からお茶らけている節があるので、このようなことをしたらヘイトは高松に向くという訳だ。
とは言っても、あまり強い投げ方では無かったこともあって笑い話で済まされているが。
そう考えると高松もうるさいだけの奴ではなくて、いい性格とキャラをしているんだな、と思ってしまう。
その証拠か、俺の左前方に立っている大川は笑いを堪えているのか肩を震わしている。
もっと言えば大川だけでは無くて審判までもだ。
審判は笑いながら拭いているせいで、まともにホイッスルを鳴らせなかった。
(これってサーブ打ってもいいんだよな……?)
今のセットは1-0で勝っている。そして、1セット15点マッチのなか、俺たちのクラスは12点を取っている。
(サーブは時間をおかなくてもいいか……)
俺はボールを当てられたことの憂さ晴らしをするかのように、今までよりも少しだけ強くサーブを打つ。
そんな邪念があったせいだろうか。今まで打っていたフローターサーブ。つまり無回転サーブは、その特徴を失いネットギリギリを大きな回転を伴って飛んでいった。
そんなサーブは初心者には取りにくかったのか、弾け飛んで2階へと上がっていってしまった。
(なんかイマイチだけど、サービスエースだからいいか……)
俺がそんな風に妥協をすると、そんな考えを俺がしているとは露知らない高松が背中を叩いて「ナイス!」と言ってきた。
どうしてか認めたくはないけど、コイツいい奴だ。ボールを当てたのは許さないけど。
「小鳥遊やるな! バレー部からサービスエース取るなんて!」
「……はあ?」
高松にそう言われて、思わず相手のレシーバーを見た俺は、その力強い目力に圧倒されかけてしまった。
「オマエ、ユルサナイカラナ」
目でそう言ってきているようなレシーバー、それもバレー部の生徒は俺から目線をずらすことなく見続けてくるままだ。俺、このまま殺されるんじゃないかな……
あと隣で煽っている高松黙ってくれ。空気読めよ。
ちなみに2階からは亜紀の「先輩、スゴいねー!」という少し気の抜ける声も聞こえてきた。
「いや、あそこまで回転かけられるか。普通」
どうしてだろうか、大川にも若干引かれているような気がする。
いや、大川だけではない。体育館全体が静まり返っているようにも思える。
どうすればいいのか…… 俺はそう考えていると、ある名案が浮かんだ。いや、浮かんでしまった。
「俺、なんかしちゃいました?」
その瞬間。相手のレシーバーの目力が増したのは言うまでもないだろう。
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