高松はモテたいようで!
「そして、ある日から俺はバレーをやめることにしたんだ」
俺がそう言うと、話を聞いていた3人は静かになっていた。
実を言うと、この話は琴乃葉も知らないことが多い。それは、学校側が事実を隠蔽しようとして、当時のクラスメートを始め、事を知っている生徒に箝口令をしいたからだ。
「私もそこまでの事は知りませんでした……」
「結構色々あるものなんだね……」
大川は何も言わなかったようだが、琴乃葉と千秋はそれぞれの反応をする。
琴乃葉は中学校側からの箝口令が意味をなしていたのか、同じバレー部員でも詳しい話は知らされていなかったらしい。
千秋に至ってはポカーンと口を開けているだけだ。
「まぁ、とにかく俺自身も誰に嵌められたかも知らないし、知る必要がないと思っている」
「終わったことだから小鳥遊は気にしないと……」
「まぁ、そういうことだな。その辺のしがらみを忘れるためにも一人暮らしをしているわけだしな」
俺は話を終わらせるべく、座っていた階段から立ち上がった。
「大川、次の試合もうそろそろじゃないぁ?」
「あ、あぁ。そうだな。他のメンバーに合流しておくか」
俺と大川は一緒に体育館のコートへと向かった。
「それで、小鳥遊は本気を出してくれないっていうことか?」
「そういうことだな。まぁ、このチームなら勝てるんじゃないか?」
俺と大川がそんな話をしながら体育館に入ると、他のメンバーは既に集まっていた。コート内を見ると試合が終わっている所の方が多い。
「もうそろそろ試合らしいぞ」
高松はアップをしながらそう言ってきた。他のメンバーもそれに従うかのようにアップを続けていた。
「じゃあ。俺達も始めようか」
俺は大川に言われて、混ざってアップを始めた。
そうしていると相手となるチームもやってきた。
相手は3年生。とは言っても、見た限り体格が良い人がいるわけでは無かった。
それからしばらくして試合が始まった。
結果的には2-0のストレート勝ち。なにか特異な事が起こったわけでもなかった。
「さすがに疲れてきたなー 15点マッチでも結構動かなきゃいけないもんなんだなー!」
高松は試合後の疲れを癒すかのように体育館の床に寝そべっている。
この後には準決勝があり、25点マッチの決勝となっている。
1日でこの試合をすべてやるのだから、身体的にかなり疲労が来る。
「準決勝、もうそろそろだってー」
「うっわ! もう試合なのかよ!?」
実際に1日中初心者組のフォローに、スパイクの為のジャンプを続けていた高松は、床に寝たまま立ち上がれなくなっている。
そんな様子の高松を見た大川はある一言を投げかけた。
「高松、俺たちのクラスで準決勝まで残っているの男子のバレーだけらしいぞ」
「……それがどうしたんだよ? すこしは俺を休ませろ!」
「クラスの奴ら、全員暇になっているらしいぞ。つまり全員見に来るらしい。全員だ。男子も女子も関係ない」
「……つまり、俺が大活躍すれば……」
高松は何かをブツブツつぶやいた後に、ゾンビのようによろよろと立ち上がって腕を高く振り上げた。
「俺が大活躍すれば…… 俺は女子にモテることができる!!!!」
高松の声が体育館でエコーのように響いた。気がした。
そんな高松の様子を確認した大川は「大丈夫そうだな」と言ってコートに向かっていった。
もちろん俺を含めた他のメンバーはついていった。
それから俺たちは数分のアップを始めた。いつまで経っても高松が来なかったので大川が見に行ったところ、俺たちがアップに向かった瞬間の姿勢のままいたらしい。高松はそんなのでモテると思っているのか……
なにかとテンションの高い高松と俺達は、そのまま試合へと移っていくことになった。
「ないすさー」
大川のやる気のない掛け声は高松に向けられたものだ。
高松は誰が見ても分かるくらいには顔が綻んでおり、それが観客側に向けられているのは誰でもわかることだろう。
「オラァッ!」
高松の声と同時に飛んでいったサーブは、相手にとられることもなく得点へとなった。
「ッシャアァ!!」
高松はウザいくらいに喜んで、サービスエースを取ったことをアピールしていた。もちろんアピールをしていたのは2階にいる女子に向けてだ。
「大川、見たか!? 俺のサービスエース」
「……高松、うるさい」
いつもは朗らかな大川がここまで面倒くさい顔をしているのは珍しいことだと思う。
そこから高松は更にサービスエースを3本決めたが、4本目でレシーブ、そのままスパイクを打たれて、点を取られた。
こうして、準決勝は始まっていった。
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