小鳥遊翔は中学で!
先輩はマネージャーで実際にプレーをすることのない、私にとっても憧れでした。
中学のレベルとは言え、単純な高さと強さ。その両方を兼ねそろえたのが先輩のプレースタイルで最強の戦術だったんです。
そんな選手を他のチームメイトが指をくわえて見ているわけがなく、後輩の選手、特にアタッカーがこぞって追いつこうと頑張っていたんです。
そんな風に先輩を中心にチームとしても日本一に達した私たちのチームは、残念ながら解散をすることになったんです。
その時は何かが起こったわけではなく、単純に3年生が受験とかの理由で引退しただけなんです。
全中が終わってからの10日間、夏休みが終わるまでですけど、本当に静かになって寂しくなったのは鮮明に覚えています。
夏休みが終わってもバレー部の練習は当然続きました。
いつも通り練習をしていたある日、先輩とリベロだった相沢先輩がいきなり体育館にやってきたんです。
2人は全国選抜に選ばれたので練習を続ける必要があったんです。
3年生全員がいたわけではないですけど、部活もまた賑やかになっていったんです。
それかは、先輩たちが引退する前までに少し戻っていたんです。
そして、先輩は先輩で日本選抜に向けての練習を順調に進めていたんです。
そんなときに、あの事件が起こったんです。
私たちの学校の3年生。つまり先輩たちの学年でイジメが起こっていたことが発覚したんです。
それも、イジメられた生徒が不登校になってしまうほどのものだったんです。
そんな大事件を教育委員会が見逃すわけもなく、すぐに調査は始まりました。
それにかかわっている訳の無かったバレー部の面々は練習をいつも通りしていましたけど……
でもある日、校長先生がバレー部の練習する体育館にやってきたんです。
私たち2年生が何が起こったのか不思議に思っていると、校長先生は先輩の名前を呼んだんです。
そこからは詳しいことは私にはわかりません。
少なくとも、先輩がイジメの主犯とされて、全日本の選抜からも除外されたんです。
「私が知っているのはこれだけです。大川先輩、もし詳しく聞きたいんだというのなら先輩に直接聞いてください」
「……そうか。琴乃葉、教えてくれてありがとうな。それで…… 小鳥遊、もし良かったらでいい。何があったのか詳しく教えてくれないか? 小鳥遊は隠しているつもりなんだろうけど、俺にはお前が凄い選手に見えて仕方がない」
「……もう終わったことだ。別に話すくらいどうだっていい」
「その話、私が聞いても問題ないかな?」
「「っ、千秋(先輩)!?」」
俺が話そうとした、その瞬間。俺たち3人の元に千秋がやってきた。
千秋は手にある雑誌を持っていた。
『月間バレーボール』という雑誌はバレーをやっている人は誰もが知っていると言っても過言ではないだろう。
そしてその雑誌は2年前の9月号のものだった。
この号に関しては俺も何度も読んでいる。その理由は単純。俺についての特集が組まれていたから。いや、本当はチームメンバー全員が載っていたけど……
「小鳥遊君は分かったかもしれないけど。これは琴葉ちゃんと小鳥遊君が卒業した中学校についての特集が組まれた号よ」
「確かそれって…… 全中で優勝した後に取材された奴ですよね……?」
「うん。そうらしいわね。小鳥遊君には悪いけれども、勝手に調べさせてもらったわ」
——それと…… 小鳥遊君が何らかの理由で全日本代表選抜から除名されたことも。
「……どうやら、なにがあったのか大体は分かっているようだな……」
そんな3人の様子を見て、俺は2年前に何があったのかを話すことにした。
ある日突然、校長が練習をしていた体育館にやってきて、俺を呼んだんだ。
それから校長に言われるがまま俺が向かったのは校長室だった。
中に入ると、担任と学年主任、教育委員会の職員の人もいた。
それから俺は4人に尋問を受けるかの如く、質問攻めにあった。
それは全部、俺も話に聞いていたイジメについてだ。
これは後から知ったことだが、俺はある生徒によって、イジメの主犯とされていたんだ。
さすがにその日にいきなり主犯にされたわけではなかったけど、問題は次の日から起きたんだ。
「小鳥遊、お前ってサイテーだな」
「ホントそれ。女の子をイジメるとか恥ずかしくないの?」
俺が校長室に呼ばれたということは、既にクラスの全員が知っていた。
それも仕方ないよな。放課後に生徒が好調に連れられて校長室に入っていったんだ。誰かが怪しんで聞き耳を立てていたとしてもおかしくはない。
でも、これだけは確かなんだ。俺はイジメになんて加担していないし、そもそもいじめがあったことも知らなかった。
何しろ、イジメられていた子のことは今でさえ詳しく知らないし、あったこともない。ただただ、クラスでは事実が曲解されていたということなんだ。
そんな状況になっても、俺が何かをしたわけではないから、気にせずにいつも通り過ごしていたんだ。
そうしていたら、俺がイジメの主犯だったということが完全に決められてしまった。今思えば、俺ももう少し否定しておけば良かったのかもな……
それからは俺にとって最悪の日々だった。
ある日から俺は陰口をたたかれるようになっていた。
ある日から俺は近所の井戸端会議の対象になっていた。
ある日から俺は3年間通っていた体育館に足を運ぶことが無くなっていた。
ある日から俺はイジメられるようになっていた。
ある日から俺は日本の代表を背負うことが無くなっていた。
そして、ある日から俺はバレーをやめることにしたんだ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます