昔話は3人で!

「小鳥遊、ナイスサーブ!」


 大川はそう言いながら、バレー初心者である運動部2人を横につけながらブロックの準備をしている。

 その時には相手リベロは俺のサーブを綺麗なレシーブへと変換していた。しかし、こちらのチームとは違ってセッターは経験者ではない。その差は歴然でセッターをしている生徒のトスは思いもしない方向へと飛んでいった。

 しかしそのボールは、またもやリベロの手によってレシーブされてこちらのコートへと飛んできた。


「あ、アウト!」


 大川は少し迷いを見せながら、レシーブされたボールを無視することを指示した。


(こういう時は大抵入ってくるんだよなぁ…… それで点を取られたら俺の責任にされるまでがセット……)


 そう俺は思ったのだが、実際は違った。


「マジか! あれ入っているのかよ! 小鳥遊、すまん! 俺の判断ミスだ」

「いや、別に気にしていないけど……」


 そんな会話を俺と大川がしている間には、高松と相手のリベロは言い合いをしていた。

 それを遮るかのように琴乃葉はホイッスルを鳴らして、試合を再開させた。もちろん、サーブは相手のチームだ。




「クッソッー! 負けたかー!」

「残念でしたぁ! 俺のほうが強いってことだな!」

「そんなことないですー! お前なんか微塵も活躍していませんでしたぁー!」


「……大川、あれでバレー部は大丈夫なのか……?」

「ケンカするほど仲が良いって言うじゃないか。あれでいて、同じチームでプレーをすると2人とも心強いぞ」

「やっぱり、そういうもんだよなぁ……」


 俺は大川の話を聞いて、ふと中学時代のリベロとウィングスパイカーの同級生のことを思い出していた。その2人は監督にも心配されるくらいには仲が悪かった、ように見えた。

 ちなみにだが、リベロ——相沢と俺との関係は良好であった。それは小学校のクラブから一緒にプレーをしていたからであろう。


「まぁ、仲がいいならそれで充分だろ」

「適当に済ませすぎじゃないじゃないか……? それよりも次の試合まで時間が空きそうだし体冷やさない様にしような」


 大川は俺にそう言ってから学校指定のジャージを投げ渡してきた。俺はそれをギリギリのところでキャッチするとそれを大川の言うと通りに大人しく着た。


「大川先輩、お待たせしました」


 ジャージを着たところにやってきたのは琴乃葉だった。

 琴乃葉は先ほどまで臨時で始めていた審判の仕事も終わって、試合の結果をスポーツ大会の実行委員に伝えてきたようだ。大体わかっているとは思うが、勝ったのは2-C、つまり俺たちのクラスだ。

 そしてそのまま琴乃葉は俺と大川が話している場にまで来たようだ。


「それじゃあ琴乃葉、話してくれるか?」

「了解しました」

「え? 何の話をするわけ? 俺だけ除け者にされるの……?」

「何言ってるんですか先輩。この話のメインは先輩ですよ」

「小鳥遊、急な事で悪いな。俺が琴乃葉に頼んだんだ。俺は同じクラスの一員である小鳥遊の事を知っておきたい。それに個人的に気になるしな」

「結局、私利私欲じゃねぇか……」


 俺がそう言うと大川はアハハと笑いながら話を続けた。イケメンじゃなかったら絶対に手を出してたわ。


「……えっと、話し始めてもいいですか」

「お願いするわ」

「やめてください」


「……それじゃあ話し始めますね。大川先輩は先輩がバレーをやめた理由を知りたいんでしたっけ?」

「それで間違いない。頼む。あと小鳥遊も聞かれたくないことがあったら止めてくれてもかまわないからな」


 大川はいきなりのことではあるが、俺が立ち会っている場で話してもらうというように気は使ってくれているのだろう。

 そして、大川は俺に確認を取ったのを確認した琴乃葉は話を始めた。




 私と先輩が出会ったのは、私が中学校に入学したときなんです。実は私には妹が居るんです。その妹が地元のクラブに入っていて、その送り迎えに母と一緒に行っていたんです。

 だからでしょうか。私は次第にバレーに興味を持っていたんです。

 それまでスポーツには何の興味を持ってこなかった私にはバレーという球技の中でも少し特殊なものに関心を持ち始めていたんです。

 それだから、部活を決める時も大して困りはしなかったんです。私はすぐにバレー部のマネージャーとして入部をしたんです。

 先輩が小学校のクラブチームとは比べつかないプレーをしていたのを見たのはその時が初めてだったんです。

 気づいたら私は先輩に話しかけるようになっていて、そこから交流が始まったんです。


 琴乃葉が話し始めたのは俺でさえも懐かしく思ってしまうような、そんな話だった。

 あるとき急に後輩に話しかけられた俺は驚きながらも丁寧に答えていった。

 それからも琴乃葉の話は続いていった。


先輩は強豪校であった私たちの中学のバレー部でも2年生で唯一スタメンに選ばれるメンバーになったんです。それも当時オポジットでエースであった3年生の先輩を押しのけて。

そんな風にエースとして試合に出るようになった先輩の最初の試合は散々だったものを覚えています。それも、2セット目に入ったら動きは良くなっていって、すぐに活躍し始めたんです。

 その年はそのまま順調に試合を進めていって、全国でもなんとか優勝することができたんです。

 そんな風に活躍していた先輩が次第に注目されていくのは当然のことで、日本代表の選抜合宿にも呼ばれるようになっていったんです。

 それから練習をしていたらあっという間に1年が過ぎていて、3年生も引退していたんです。それから先輩はエースだけではなく、キャプテンとしてもチームを引っ張っていくことになったんです。その中出た全国大会では2年連続で優勝を飾ることができたんです。

 それから、先輩は日本選抜でもエースとして選ばれたんです。


 そんなときに起こったのが先輩が遠いこの学校にきた理由で、あんなにも熱心に打ちこんでいたバレーもやめてしまったんです……

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