あの日の思い出は失敗だらけで!
「よしっ! 小鳥遊も一緒にアップ行くか!」
「そうだな……」
俺は丁度始まった琴乃葉たちのチームの試合に後ろ髪をひかれながらも、大川の言う通りに一緒にアップに向かった。
時期的にも冷えてきたなぁ、と感じてきたのでアップも念入りに行う必要があるだろう。
それから俺と大川は他のメンバーとも合流してアップを始めた。
「……山口は?」
普段から人には優しいことで人気のある大川が呆れながら他のメンバーに聞く。
しかし、他のメンバーも知らないようで全員が首を横に振る。
「クソッ! ……いや、こんなことになるとは思っていたから、今さら文句を言っても仕方がないか……」
高松は遂に完全にサボった山口に苛立ちを募らせたように見えたようだが、すぐに落ち着きを見せてアップを再開した。
バレーボール部員として、アップはしっかりとして試合に臨むということだろう。例えそれが学校のスポーツ大会だったとしても関係はないらしい。実際にバレーとは関係ない他の運動部員もケガをしないためにもしっかりとアップをしている。
(俺も始めるか……)
それから俺はスポーツ大会に向けての練習で少しではあるが仲良くなったメンバーと一緒にアップを始めた。それと同時にある試合の事を思い出していた。
あれは既に3年も前のことになっている。
「小鳥遊―! アップ行くぞ!」
「は、はい!」
俺は3年生の先輩に連れられてアップへと向かった。その日は俺にとって初めての公式戦でとてつもない緊張感に襲われていたのを今でも覚えている。
その後、俺は先輩と一緒にアップへと向かって、体を温めた。それにしては少し疲れすぎていたような気もするが、そんなことは仕方ない。
それから俺は先輩に連れられて公式練習へと向かった。そしてそのまま試合となったのだが……
「小鳥遊! 入ってくんの遅い!!」
「すす、すいません!」
「小鳥遊! 入ってくるの早すぎ! 合わせられる訳ないだろ!」
「すすす、すいませんでした! 頑張りますので許してください!」
試合となったのだが、それは散々たるものだった……
俺は緊張のあまり、前日までの練習で合わせていたはずのコンビネーションが一切合わせることが無かった。そしてその試合の1セット目は落とすことになった。
その時は本当に心が痛んだのをしっかりと覚えている。それもトラウマになるくらいには。
『なんか、あの学校のオポジット弱くない? かなりの強豪校のエースがあれってヤバくない……?』
『なんていうか……俺達でも勝てそうじゃね!?』
俺はしっかりと観客席から聞こえてくる声が聞こえていた。
「…………」
「……知っている? うちの2年が緊張のあまりまともに仕事してないらしいぞ? ホンットにダサいよな~」
当時セッターをやっていた3年生の先輩は観客席から聞こえてくる声を揶揄るように、そんなことを言ってきた。
「……本当にすいませんでした」
「本当だよ。なんでそんなに緊張しているんだよ。そんなお前の姿にむしろ俺らがビビるわ……」
俺が顔をあげるとそんなことを言いながら笑っている先輩の姿があった。他の先輩たちも大笑いしながら俺たちの様子を見ていた。
「ホントにダサいからさ、しっかりとしてくれよ。お前はこの学校の中で俺達3年を押しよけてエースになったんだ。その分の仕事はしてもらうし、何よりも……」
——信じているからな
俺は先輩にそんなことを言われたのを覚えている。そして、先輩にカッコいい言葉に励まされたのを。
それからの俺は自分でもいいたくなるほどには活躍をした。相手も3年生が主体のチーム。確かに強い学校というわけではないけど年上相手に俺はサービスエースやストレートでスパイクを決めることができた。
「ナイスキー! いいぞ小鳥遊、その調子だ!」
俺は先輩に背中を叩かれながら褒められた。叩かれた背中はジンジンと痛んで、どこか温かかった。
「小鳥遊、どうしたんだ? もう試合だぞ。」
「わ、悪い。ボーっとしてた。」
「大丈夫かよ。まぁ機体しているぞ」
大川は笑いながら、シューズやら荷物をまとめて体育館に行く準備をしていた。
それに合わせて俺も体育館に持っていく荷物をまとめていく。とは言っても、体育館用のシューズと水稲だけだが。
「よっしゃ、行くか!!」
「「「「「「「「おぉー!!」」」」」」」」
『おー! 2-Cが来たぞー!』
「……なぁ大川。さっきから俺達やけに絡まれていないか……?」
「仕方ないだろ……こちとらバレー部の正セッター兼キャプテンと正オポジットだぞ」
「え……? そうだったのか……」
「逆に2週間以上一緒に練習していて何で知らなかったんだよ……」
俺の質問に答えたのは大川ではなく高松だった。話を聞く限り正セッター兼キャプテンは大川のことでオポジットは高松のことらしい。このクラス強くすぎないか……?
「う~ん…… この試合勝ったな!」
「小鳥遊、お願いだからやめてくれ。プレッシャーで胃に穴が開きそう…… ほら、あそこ見てみろよ……」
俺のフラグを立てるような言葉に珍しくも大川が弱音を吐いた。そして、大川が指さすほうを見ると横断幕を持った女子が数人いた。なんだよ、自慢かよ。絶対に許さねぇからな。ってあれ……?
「あー、うん。お疲れ」
「本当だよ…… マジでやめてほしい」
俺は大川の自慢ともとれる発言の意味の本当の意味を知った。そこには『いかにも』といった様子の3年生がバレー部の試合で使う横断幕をもっていた。そしてその人たちは大川を煽るか如く声をあげていた。
その姿は女子が多く観戦している体育館の中でも異彩を放っていた。
「……気を取り直して、攻撃合わせていこう!」
大川の掛け声で俺たちはサーブやスパイクの最終確認を行った。
『せんぱーい! 頑張ってください!』
「あ、琴乃葉ちゃんだ! イエーイ! 俺頑張るからなー!」
「……多分お前じゃないぞ」
体育館の2階には琴乃葉が経っており、こちら側を向きながら声を掛けてきた。それに機敏に反応した高松を窘める大川を見て、俺はどこか面白く感じて笑ってしまった。
それからしばらく待つと、バレー部らしい女子生徒がホイッスルを鳴らした。
いよいよ試合が始まるらしい。
(ほどほどに頑張りますか……)
そう思っていたその瞬間も、上から視線を感じていたが俺は気にしないことにした。
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