ビーチバレーは後輩女子たちと一緒で!

「それじゃあいきますよー!」


 こちら側のコートの亜紀がそう宣言してみせた後、可愛らしい動作でサーブを打つ。それは綺麗な軌道を描いて相手コートへと落ちる。


「コトハンお願い!」

「任せてください!」


 相手のコートでは短い言葉だけを交わしてボールを処理しているのが分かる。

 既に分かっているかもしれないがチーム分けは、俺と亜紀、琴乃葉と夢となっている。


 琴乃葉と夢はレシーブをした後、夢のサーブによって琴乃葉が丁度スパイクに入ってくるところだった。いきなりスパイク合わせられるのは普通にすごくないか……


「タカチャン先輩、とってー!」

「オッケー! え、タカチャンって何?」


 俺はいつの間にかつけられていたあだ名に疑問を覚えつつも、言われた通りにレシーブをする。

 それは自分でもほれぼれするほど、綺麗なAパスとなり……なんてことは無くギリギリネット際の方へと飛んでいった。


「先輩? 下手になりましたね!?」

「琴乃葉、てめぇ! ビーチはほぼ初めてなんだよ!」

「あらあら、言い訳ですか!」

「お前らなぁ……!」


「はいはい、ケンカをしないでくださいねー とりゃー!」


 俺たち3人を窘める亜紀のトスによって、ボールは俺の少し前方にあげられる。


(全力はさすがにできないか……)


 俺はそう思いながらジャンプしてスパイクを打った。


「おぉー!」

「おぉ!!」

「先輩、大人げないですね……!」


 軽めに打ったと思ったスパイクはかなりの速さのスピードで相手コートへと落ちていった。


「……ごめん。軽めに打ったつもりなんだけど」

「タカチャン先輩ってー バレーやっていたんですかー?」

「あぁ、やっていたよ……っ!?」


 普段俺は、バレーをやっていたということを隠していたはず。だというのに、この2人にはスラスラと言葉が出てきた。


「俺よりか、2人もやっていたのか? やけに上手いけど」

「私たちはなんもやっていないですよー ただ単にスポーツが好きなだけですー」


 え、こいつらスポーツお化けなん? スポーツお化けってなんだよ……


「それじゃあ、続き行きますかー」

「やった! アキチンには負けないよ!」


 夢は亜紀の事をアキチンと呼び、亜紀は夢の事をユメッチと呼んでいるそうだ。それは2人の仲の良さを示している。


「狙うはユメッチのみー!」

「え!? ちょっと、待ってよ!」


 亜紀は夢にサーブを打つと宣言した後に、サーブトスを軽く前の方に投げた後、チョコンとジャンプをしてサーブを打った。

 打たれたサーブは無回転で相手のコートへと飛んでいった。


「ちょっと、アキチン! これは難しいって!」


 初心者で、ボールの前に構えに行っているのもすごいけどな……

 夢のレシーブは綺麗に上がることがなく、俺たちのコートへと飛んできた。


「タカチャン先輩、やっちまえー!」

「狙うは、琴乃葉のみ!」

「え? は? 無理に決まっているじゃないですか!」


 俺はサーブの時に、亜紀がやっていたことをそのまま真似て琴乃葉にスパイクを打つことを宣言した。

 俺は砂の上でもできる限りのジャンプをしてボールを打った。


「ちょ!? 結構強く打ちましたね!?」

「ちょっとなにいっているかわからない」

「絶対に確信犯じゃないですか!」


 琴乃葉は俺がかなり力を入れて打ったダイレクトスパイクを何とかレシーブした。そしてボールは、先ほどの夢のサーブレシーブみたく相手側のコートにそのまま落ちることは無く、こちらのコートへとフラフラと飛んできた。


「亜紀、とって!」

「り、ですー!」


 亜紀は俺の声に従い、ボールが落下するであろう位置にまで近づこうとした。


「ふにゃあー」


 近づこうとしていたのだが……見事な放物線を作ったのは亜紀のほうだった。

 砂に足をすくわれたのか顔から転んでいった。


「いたいですー……」

「先輩の鬼畜! 悪魔!」

「……なんかごめんね?」


 ボールが落ちて相手のポイントになった今、ゲームは一旦止まっている。

 そこでコートに目を向けて見れば……


 俺のスパイクを受けて両手首を抑えて悶えている琴乃葉と、砂の上にうつぶせになったまま転んでいる亜紀。

 そして、その2人は俺を恨むようなことを言っている。




 2人の回復を待ってから、俺たちはプレーを再開した。

 こちらが点を取られたので、サーブ権は相手へと移った。


「それじゃあ、先輩に恨みを果たしますよ!」

「ちょっと琴乃葉さん? 恨みって何のことですか?」


 琴乃葉はボールについている砂を落としてから、深呼吸をしてサーブを打った。

 それはただのサーブではなく、難易度もかなり高いジャンプサーブだった。


「コトハン! なんなのそのサーブは―!?」

(あいつ、ガチってきたな……)


 琴乃葉のジャンプサーブは俺たちが中学生だったころ、後輩がイジメられるがごとく、レシーブ練習で苦しめられていたのを見ていた。

 なんなら俺よりも厄介なサーブかもしれない。この国に限らず世界中で聞き手が左というのは珍しい。

 俺のサーブは速く、コースもセンチレベルで狙うのが取り柄なのだ。そして、琴乃葉は少々の速さに加えて、左手で打っているという利点がある。左手でのサーブをレシーブするっていうのはかなり難しい。

 普段から右手のサーブに慣れていると、無意識のうちにレシーブもそれに対応していく。そうすると、回転が全くの逆になっていく左手のサーブをレシーブをするのが難しくなる。


「いやぁーー!」


 そんな琴乃葉のサーブを受けた亜紀はそのまま倒れこんだ。

 そしてパッと起き上がったと思うと、亜紀はこう言った。


「次は止めるー! タカチャン先輩がー!」

「……はいぃ?」

「そうですか。先輩からサービスエースとっちゃってごめんなさいねー!」

「……あぁん?」


 琴乃葉は俺を煽ってからサーブの動作へと移った。そして飛んできたサーブの回転や落ちる位置を見極めた俺は自分でも褒めたくなるほどきれいなレシーブをあげる。


「亜紀! トスお願い!」

「いやー名前で呼ばれると恥ずかしいですなー」


(いや、さっきから名前で呼んでいただろ……そもそも苗字を知らないし)


 俺はそんなことを思いながら、亜紀のあげたトスにへと食らいついてスパイクを打った。


「あちゃー 取られちゃいましたか…… でも夢ちゃんも安心してね! 先輩のサーブを取るのは簡単だから」

「え? それって俺にケンカ打っているっていうことでいいのか?」

「……へぇ、なんか以外かも! それなら頑張れそ…… ちょちょ、ちょっとコトハン!? タカチャン先輩がかなり怒っているけど……!!」

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