練習は体育館で!
外からはボールを蹴る音、掛け声がひっきりなしに聞こえてくる。
いつもだったら体育館の壁に阻まれて聞こえてくるそんな音も、今日は一層大きく聞こえてくる。
「それじゃあ……せっかくの昼休みに集まってもらって悪いな」
バレーボール用のネットが張られた体育館のほぼ中心で、この集まりを作った張本人である大川が話し始める。
「せっかくスポーツ大会。やるからには俺は勝ちたいと思っている」
続けてそう言う大川に聴衆である俺を含めた残りの8人は言う。5人は大川の言葉に大賛成。残った内の3人はそれぞれ嫌そうな顔をしていたり、興味がなさそうな顔をしていたりと様々な反応を見せる。
ちなみに俺は大川の言葉なんてどうでも良くて、久しぶりにインドアでプレーできることにワクワクしていた。
「昼休みもそう長くはないし、今から練習を始めるぞ!」
大川の掛け声に周りの5人は拳を高く上げ「オォッー!」と互いに鼓舞しあう。その間俺を含めた3人はその様子をただ静かに見守っていた。
それから30分ほどの練習が始まった。とはいえ、このチームは大川もいれて2人しかバレーボール部員はおらず、まともな練習ができるような状況では無かった。
バレー部の2人には申し訳ないが、俺はこのメンバーの中では一番に上手にできる自信があるが、あまり目立ちたくないので自重することにしていた。
最初の練習メニューにはネットを挟んでのパス回し。俺はこの練習会を興味なさそうに見ていたや、山口? まぁ山口だということにしておこう。山口と一緒に俺はパス回しをする。正直に言って、山口は適当にパスを回しているようで俺の方向へとボールが来ないことも多い。それを見かねた大川がアドバイスをしているようだが山口は聞く耳を一切持たない。
俺も正直に言って山口の態度にイラついてはいたが、普段の授業態度が悪い俺が家tことでもないだろう。
それからも山口の態度が変わることもなく練習は続いた。
「それじゃあ今日の練習はこれで終わりにしよう! 明日もよろしく頼むな!」
大川が練習の終わりを告げると、それ以外のメンバーは教室に戻っていく。
俺は「昼飯を食べられなかったな……」なんてことを思いながら教室へと戻っていた。そうすると大川が突然、俺の横につき話しかけてきた。
「なぁ、小鳥遊って何かスポーツやってたのか? やけに上手に見えたんだけど」
「そんなことないけど、この学校で1番上手な大川に言われるとお世辞だとしても嬉しいな」
「お世辞とかじゃねぇから! 小鳥遊ってあまり目立たないけど何でもできるよな」
「そんなことないぞ。所詮俺だし」
「なんでそんなに卑屈になるんだ…… 小鳥遊はもっと自信持てよ!」
大川はそれだけを言い残し他のメンバーの元に走っていた。
残された俺は大川に言われたことを反芻しながら1人嬉しく思っていた。
「兄ちゃん、なんか楽しそーだけどニヤニヤしててきもちわるーい」
俺は日課となりつつある子供達とのバレーボールをしていた時、1人の子にそんなことを言われた。
言われたことは分でも自覚していたが、子供に「気持ち悪い」といわれるほどとは思っていなかった。子供の素直な言葉って本当に傷つくんだな……
だけどそれも仕方ないことだと、自分を言い聞かせる。なんて言ったって、久しぶりに誰かと一緒にバレーをやったんだから! いや、子供達とはやっていたけどノーカンで。
俺が同学年の人とバレーをやったのは久しぶりだったこともあって、俺のテンションは常に振り切っている状態だ。それも授業を真剣に受けるくらいには。
たしかにゲームをしたというわけではないし、なんなら基本動作の確認しかしていないけど、誰かと一緒に練習ができたということに俺は感動を覚えていた。
——あの時もこんな風に思えていたんだっけな……
この公園を赤く染める夕日に照らされた俺は子供にバレーを教えながらも昔、とはいってもたかだが2年前の気持ちを思い出していた。
「それじゃあな!」と子供たちと別れを告げた俺は自宅へと戻っていた。昨日とは一転、家には誰もいなかったけど俺の気持ちはどうしてか温かくなっていた。
昨日琴乃葉に注意されたことを反省した俺はコンビニ弁当と一緒にサラダも買ってきたので、それを更に移す事もなく食べ始める。
夕食を食べ終えたら残っている課題に軽くだけ手をつけて眠った。
◇ ??? ◇
『ナイッサー!』
その掛け声はコートの中から、客席からも聞こえていた。
俺は1人静かにコートの少し外に立っていた。
「ふぅ……」
この試合も佳境。今の点数は17-17でデュースへともつれこんでいる。セット数も2-2なので、先に2点差をつけたほうが勝つという状況だ。そんな状況でサーブ県は俺たちの方にある。
バレーの競技の特性上、サーブではない側、つまりレシーバー側の方が有利に点を捕りに行ける。
ようするに俺たちは大ピンチというわけだ。
「翔らしくないな。そんなに緊張してるなんて いつもはもっとバカらしいのに」
「……そうかもしれないな。ん? いまバカって言った?」
「……言ってない。それよりもキャプテン兼エースさんよ、味方にかける言葉はないのか?」
隣から話しかけてくるのはリベロの相沢 彰吾。身長は158㎝で学校では「ちっちゃくて可愛い!」なんてことを女子にも言われているコイツはコートに立つと存在感が半端なくなる。
彰吾は今もそうやって俺を応援してくれている。
俺は彰吾とグータッチを左手で交わしてから、その手をそのまま上に掲げる。
「絶対に勝つぞ! 今はそれだけだ!」
俺の拙い鼓舞にチームのメンバー12人に監督やコーチ、マネージャーも含めた15人が「オォー!」と反応してくれる。
それだけではなく学校からわざわざ見に来てくれていた先生方やバレーボール部員の保護者の人たち。それに友人までもを加えて観客席からも俺と同じように拳を振り上げてくれる。
それと同時にホイッスルが鳴る。サーブまでに残された時間は8秒。だけど主審までもがこの会場の熱に揉まれているように思える。そうすれば残された時間は8秒にも満たないだろう。
——深呼吸をして集中しなおす
——コートにいる味方の位置、そして相手の位置も頭に叩き込む
——狙うのは相手セッターのレフト側
——できうる限りラインのギリギリを意識する
——もう一度深呼吸をしてからサーブトスを上げる
——サーブトスと一緒に助走を始めて一番のスピードでジャンプする
——1番高く上がったところで左腕を鞭のようにしなやかに振る
——力を入れるのはインパクトの瞬間、それだけで十分だ。
そうやって俺の打ったボールはネットギリギリを通過して相手コート側に入る。それに早くも反応した相手セッターはセットアップを諦めてレシーブに入る。
セッターの腕に見事に当たったボールは綺麗な放物線を描いて上がった……なんていうことは無かった。
ボールはセッターを吹っ飛ばして観客席へと弾け飛んだ。
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