第1章 練習あるのみ!

お弁当は体育館裏で!

(それにしても眠すぎるな……)


 4時間目は数学の授業だ。俺は去年の時点で何を言っているのか理解できなくなっていたので、ボーっとして1時間を過ごすことに決めていた。

 少し前まではそれを先生に咎められるようなことがあったのだが、ついには諦められた。

 そのことを良いとするかどうかはさておき、これで俺は1時間暇になった。暇になったからと言っても、授業中であることに変わりはないのでスマホを使うなんてことはできない。

 それでも今日の昼食は何なのかを想像を膨らませて楽しむことくらいは許されるはずだ。(許されません)




◇千秋 奈々◇


(……にしても分からない)


 私は4時間目の授業の内容——数学の授業を何も聞かずに適当に過ごしていた。

 もちろん、超絶天才的な私にとって高校2年生の数学なんて聞く必要がないだけだ。……ごめんなさい嘘です。先生の言っていることが何一つ分からないんです。

 それなら私が何を「分からない」って言っているのかと言うと……同じクラスの小鳥遊君のことだ。

 私の目から見て、いつも教室の中心で座っている彼(物理的に)はあまり目立つことはしないけど、身体能力がとても高いように見える。

 いつもはバレー部のマネージャーをしているけど、今のキャプテンである大川君より体格的には恵まれているとも思える。

 きっと彼は昔スポーツをやっていて、それもかなり強かったのではないかと今はほぼ確信している。


 あと気になることと言えば、私の後輩の琴葉ちゃんとの関係だ。

 普通女子同士だと、あまりにも可愛い子は敬遠されがちになる。それでも琴葉ちゃんは持ち前の愛らしさで部活の顔をなりつつ。そのことは私としても嬉しい事なんだけど……

 やっぱり小鳥遊くんとの関係は気になる! それはもう授業に手が付けられなくなるくらいには。まぁ、それはいつもの事なんだけどね。

 それに私が昼休みに購買に行った時も2人で話していたのを見たことがある。その細かい内容や、どうして2人が話すことになっていたのかも知らない。


(ということで私は今日の昼休み、小鳥遊君のことを尾行したいと思います!)




◇小鳥遊 翔◇


(なんか凄いくらいに目線を感じるんだけど……)


 教室のかかっている時計を確認するとちょうど12時になったくらいだった。腕時計の方も確認してみたが、当たり前のことではあるが時間が進んでいるわけではない。

 先生は生徒に問題を解かせている最中で教室の中を歩いている。先生は俺たち生徒がきちんと問題を解いているかどうかを見ているらしく、気になるような事をしていた生徒のノートを覗いては助言をしたりしている。

 俺も形式上だけは解いておくことにするか……そう思っていた矢先。


「いひゃっ!」


 可愛らしい女子の声よりかは悲鳴に近い声が聞こえてきた。教室にいるみんなと同じように声の元を見てみると、千秋が先生に問題集で軽く叩かれたようだった。

 先生はボーっとしていた千秋を窘めていたようだった。

 そういえば千秋のことは琴乃葉からも真面目で優しいいい先輩だと聞いたことがあるんだけどな……どこが真面目何だか。


 そんなことが起こって以降、授業は大したことが起こることもなく終わりを告げるのだった。




 チャイムの音が鳴り、学級委員の声に従い礼をする。4時間目の授業や、1日の最後の授業の6時間目でさえなければすぐさま席に座りスマホをいじり始めるのだが今は違う。

 4時間目のチャイムが鳴ったということは、それを示すと同時に50分程の昼休みが始まる合図でもある。

 そうとなれば俺が向かう場所はいつも同じ。体育館の裏側にあるスペースだ。そのスペースとは木が数本とベンチがポツリと1脚だけ置かれているだけだ。

 普通教室棟から家庭科室や理科の実験室のある特別教室棟への渡り廊下を通る。更にその1階にある昇降口から外へ出る。ちなみに、この昇降口は生徒や先生が普段使っている者とは別なので人の気配は一切と言ってもいいほどに感じられない。俺の向かおうとしているスペースも他の人には知られていない。

 それから体育館の裏側を回り、いつものスペースに着くことができた。


「あ! 先輩来たんですね!」

「なんでお前のほうが早く来てるんだよ……そっちのほうが教室から遠いだろ?」


 体育館の裏のスペースに居たのは琴乃葉だ。俺たちはこの高校で何とも言えない再会を果たしてからは、できる限り一緒に昼休みを過ごすことになっている。それは琴乃葉の強い願いからのもので、当初は俺自身も面倒くさかったが今はそうではなくなっている。

 それは琴乃葉も似たようなものだと思ってくれるのか、琴乃葉は教室が俺よりも遠いはずなのに、いつも俺より早く来ている。


「それもこれも先輩への愛によるものなのです!」

「えーっと何て言うんだっけ? 確か……ヤッター、ウレシイナー」

「あからさま過ぎません!?」


 俺の定型化した言葉を受けてまで琴乃葉は顔を崩して笑う。普段はまじめな性格で通っている(らしい)琴乃葉には珍しい光景なのではないかと思う。


(なんていうか俺ってけっこう幸せ者なのかもしれないな……)


 琴乃葉は学校三大美少女も呼ばれるくらいには顔が整っている。ちなみに三大美少女のうちの1人は俺と同じクラスの千秋で、残るもう1人は3年の先輩らしい。

 腐れ縁とはいえ、そんな3人の内の1人と昼休みを過ごしているのだ。これを幸せと言わずに何と言うのだろうか。いつか俺刺されてもおかしくないな……


 俺がそんなことを考えている内に琴乃葉はあからさまに弁当を掲げてこう言った。


「さて! 先輩お待ちかねの今日のお昼ご飯です!」

「ついに来た!」


 俺のテンションが気持ち悪いくらいに上がるのも仕方がない。

 だって、家に帰ってからはコンビニ弁当かインスタント麺くらいしか食べない俺が、三大美少女の手作り弁当を食べることができるのだから。

 これは琴乃葉本人が食べるものとは別に用意してくれているらしいので気兼ねなく食べることができる。


「それじゃあ食べますか?」

「そうだな」


 俺と琴乃葉はそれから箸を手に取った。


「「いただきます!!」」

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