第14話 あの頃のことは今も夢にみる
その夜、輝臣は夢を見た。
2年前、祖父の義昭が亡くなってすぐの時期の、あの頃だ。
――『なんで!? テル兄ちゃんこの家なくなっちゃうの!?』
(こんなはずじゃなかったんだ……)
――『まずいことをしたわね。輝臣』
(巴……俺はこの家のために――)
――『輝臣兄さん。全部貴方のせいよ』
(ち、違うんだ。俺は……俺は……っ)
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
輝臣は絶叫とともに目が覚めた。
弾かれたように上体を引き起こす。
(ゆ、夢――……)
全身から汗が吹き出し、額に前髪がじっとりと張り付いている。
「はぁ……っ……はぁ――」
夢から覚めた輝臣だったがまだ呼吸が整わなかった。
動悸も治まらず心臓はまだ早鐘を打ち続けている。
そして、震えが止まらなかった。
(あの時の夢、か。……そっか。そうだよなぁ)
「俺なんかが何夢見ちゃってるんだって話だもんな」
輝臣は片手を額に当て、天井を仰ぐ。
そのとき。
「輝臣くん……?」
不意に名前を呼ばれた。
シャノンだ。
先ほどの輝臣の大声で起きてしまったのだろうか、彼女は心配そうにこちらを見つめていた。
視線が交差する。
が、輝臣はすぐにそれを切った。
怖かったのだ、今の自分の顔を見られるのが。
シャノンに見られてしまうのが。
「んー……なぁに」
そのとき、環も目を覚ましてしまう。
「何でもありませんよ~。安心しておやすみください。不肖シャノン、たまちゃんが眠るまで添い寝させていただきますね」
「あいー……」
シャノンが環を寝かしつけてくれる。
覚醒が浅かったのか、環はすぐに安らかな寝息を立て始めた。
今の輝臣はその光景をただ眺めることしかできなかった。
(……気を遣わせちまったな)
環が眠ったのを確認してからシャノンがそっと布団を抜け出す。
「環のことありがとな」
「い、いえ、わたしはそんな。あの、怖い夢でも……見られたんですか?」
いつもお喋りな彼女だが今は歯切れが悪い。
「まあ、そんなところだな」
薄暗い部屋の中、沈黙が落ちる。
(潮時だな……)
そう思った輝臣は大きく息をついてから、口を開いた。
「俺はさ、最初お前がここで暮らすってなった時、じじぃのやつ面倒くせーもの押し付けやがってマジでふざけんじゃねぇって思ったよ。しかも風呂の入り方までわからない超世間知らずだしな」
「そ、それはごめいわくをおかけしました……しゅみません」
しゅんと肩を落とすシャノン。
そんな彼女に続ける。
「でも一緒に暮らしてみたこの数日は悪くなかったよ。環も懐いているしな。俺もシャノンのことは嫌いじゃない」
これは輝臣の嘘偽りない本心だった。
「そんな――。輝臣くん……えと、その」
その言葉にシャノンが耳まで真っ赤になりながら口ごもっている。
彼女のコロコロと変わる表情に輝臣は思わず吹き出しそうになってしまう。
しかし――。
(だからこそ……)
――「わたし、毎日が本当に楽しいんですよ」
シャノンの言葉が脳裏をよぎる。
輝臣は歯噛みする。
爪が食い込むまで握った手に力が入る。
伝えなければいけないという意志に迷いが生じる。
輝臣は意を決してそれを言葉にした。
「悪い。もうお前とは一緒に暮らせない」
その残酷な言葉を。
「――っ」
シャノンが大きく瞳を見開いた。
「……わかりました。えへへ」
しかし、すぐに微笑みながら頷く。
輝臣にもわかる、その言葉が本意ではないことが。
無理をして笑顔を作っていることが。
(くそ……っ)
それでも先ほどの言葉を撤回するわけにはいかなかった。
「一緒に暮らせないのには理由があるんだ」
「理由、ですか?」
「誰にも話したことないんだけどな。さっきの夢にも関係ある。聞いてもらっていいか?」
「そんな無理しなくていいですよ。わたしなんかが聞いても……」
「いや、お前には聞いてほしいんだ」
それは輝臣からシャノンへのせめてもの誠意だった。
「輝臣くん……。はい、わかりました」
シャノンが神妙に頷く。
輝臣はゆっくりと語り始めた。
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