第13話 デート回。そして――
巴からの電話で今日は輝臣、シャノン、環の三人でお出かけとなった。
急遽決まったことなので行先は駅前のショッピングモール。
このショッピングモールは駅から歩行者用デッキで直結されており、ファッション、レストラン、日用雑貨、ホビー。映画館など一通りは揃っている地域最大級の複合施設だ。
そのため地元民だけでなく遠方からわざわざ足を運ぶ人も多い。休日になるとここを訪れる車によって近くの道路が渋滞したりする。
バスで駅まで出てきた輝臣たちは前述の直結通路から早速モールへと入る。
すでにバスから驚きの連続の様子だったシャノンが感嘆の声を上げている。
「まあっ! 輝臣くんすごいです。人がいっぱいですっ。もしかして今日は国の重要な記念日だったりするんですか?」
「いや別にただの休日。ここはいつも混んでるんだよ。まあ今日は休みだからちょっと人は多めかもな」
「いつもこんな大賑わいなんて……なるほど毎日が特別な日なわけですね」
「なんのポエムだ」
何かに納得したようにシャノンが頷いている。
「てるくん、ふーせんもらった」
「おー、そうか。よかったな」
環が自慢げな顔で戦利品を見せびらかしてきた。
出入口付近で同じものをキャンペーンガールが配っている。
「たまちゃん、何ですかそれは! え? え? ふわふわ浮いてます。不思議ですっ」
「のんちゃんにこれあげるー」
「い、いいんですか? わたしなんとお礼したら――。わかりました。不肖シャノン、このご恩は一生を持って返させていただきますね」
「風船ひとつで人生棒に振るのやめい」
シャノンは環から受け取った風船を興味深そうにツンツンと指でつついている。
心なしか彼女のテンションは少し高めだ。
「お前、飛行機で来たんだよな。空港の方がもっと人でごった返してただろ」
「そうなんですか? わたし、輝臣くんのお家に着くまではずっと人目につかないようにしていたので」
「あー……そういやそういう話だったな。じゃあこういう人が多い場所は初めてなわけか」
「古郷のお祭りで教会が賑わうことはあったんですけどわたしは窓から眺めるだけでした……」
シャノンが少し寂しそうに笑う。
(それも生き神――“ロイヤル・レイ”ってやつの習わしだったんだろうな)
輝臣はシャノンの頭に手を置き、くしゃりと髪を撫でる。
「輝臣くん?」
「ほら。行こうぜ。たぶん初めてのことばっかりだけどはしゃぎ過ぎて疲れるなよ」
輝臣がそう言うと、少ししょんぼりしてしまっていた彼女の表情がぱっと明るくなる。
「はいっ。承知いたしました」
輝臣はモールに行くだけでここまで彼女が感激するとは思いもしなかった。
もちろん悪い気もしない。
今なら巴が提案してきた理由が少しだけわかったような気がした。
その後シャノンは、
「こ、これで上に上がるんですか? はわわっ。は、はやっ、たか――っ。え? もう着いたんですか。すみません足が震えちゃって動かないので引っ張ってもらっていいですか?」
と、展望エレベーターで慌てふためいたり。
「このまん丸なのはなんですか? たこやき? はいっ。いただきます。ん――っ……はふはふっ、おいひいけほはふいへふ(訳:美味しいけど熱いです)~~~~」
と、昼食で火傷しそうになったり。
「縦型、ドラム式、二層式、洗濯機だけでも色々なものがあるんですね。夢のようです。わたし、ここで一生眺めてられる自信があります」
と、家電量販店でキラキラと瞳を輝かせていたり。
彼女は行く先々で感動しまくりだった。
……。
…………。
………………。
最上階からショッピングモール内を見まわっていた三人は一階の中央広場へと差し掛かる。
ベンチがあったのでそこで休憩することにした。
広場には大型のバルーンハウスが設置されており多くの子どもたちで賑わっている。
「まあっ。あの建物は風船なんですか? 住める風船なんて夢のようですっ」
「テルくんあそんできていーい?」
「ああ。じゃあ俺たちはそこのベンチにいるからな。怪我するなよ」
「あーい」
「わーい。タマちゃん待ってくださーい。わたしもご一緒しまーす」
環に続こうとしたシャノンの首根っこを、輝臣はひょいと摘み上げる。
「待て待て。あれはちびっ子用。お前は駄目だっての」
「ええ~~~~、そんなぁ」
本当に残念そうにバルーンハウスを眺めているシャノン。
「まったく……」
輝臣がベンチへと腰を掛けると、くるりと踵を返して隣に座ってきた。
「えへへ」
「なんだよ。気味悪いな」
「タマちゃんと遊べないのは残念ですがこうして輝臣くんとお留守番するのも嬉しいなーと思いまして」
そう言ってシャノンがはにかむ。
「……そうかよ」
輝臣も少し照れてしまったので、それをシャノンに気付かれないように視線を外した。
しばらくの間、輝臣はぼんやりと目の前の景色を眺めていた。
シャノンは時折バルーンハウスから手を振ってくる環に応えたりしている。
「なあ」
「はい。なんでしょうか」
「あー、その、なんだ。今日はどうだったよ」
「はいっ。人生で一番楽しかったですっ」
即答する彼女に輝臣は大きく息を吐く。
「……相変わらず大げさだな」
「そんなことありませんよ。わたし、神様やっていたときはお出かけなんてしたことなかったのでここにきてからは毎日が新鮮なんです。だから――」
シャノンが一呼吸置いてから続ける。
「わたし、毎日が本当に楽しいんですよ」
そして、屈託のない笑顔を見せる。
「……」
輝臣は彼女の表情に魅せられていた。
ただ――。
それと同時にうなじ辺りからの寒気がぞわりと全身を駆け抜ける。
――「これはあんたにとってもいい機会だと思うわよ」
シャノンと一緒に暮らすことになったときの巴の言葉が脳裏を過ぎた。
(俺は――……)
「輝臣くん?」
シャノンに呼びかけられ、はっと我に返る。
「どうかしましたか? なんだか顔色が優れませんが」
「え? ああ、いや。何でもない……」
なんとかそう答えることだけ出来た輝臣の額にはじっとりとした汗がにじみ出ていた。
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