第2話 それはちなむことじゃない
「輝臣くんっ! お初にお目にかかりますっ! わたしはシャノンと申します。不束者ではありますが末永くよろしくお願いいたしま――」
がちゃり。
玄関のドアを開けたら見知らぬ少女がいたので思わずそっと閉じてしまった輝臣。
(ん? なんだ今のは……)
アパートの部屋番号と表札を確認してみる。
(俺の家、だよな……あー、最近疲れてたからな。ちょっとゲンカク的なあれが見えちゃった感じか?)
肩越しに環を見ると、
「………………」
真ん丸にしていた目をぱちくりとさせていた。
どうやら見間違いというわけではなさそうだ。
(もしかしてユーレイってやつか? 結構古いアパートだから出てもおかしくないっちゃないが。まさかホントにいるとはな……にしてもなんで金髪の女? 何でそこはグローバルなんだよ)
「と、とりあえずもう一回開けてみるか」
気を取り直してドアノブを捻る。
「――そのときわたし、目の前がぱーってなりまして、ぱーって。それでわたし、もういてもたってもいられなくなって――」
「うおっ。まだなんか話してるし!」
玄関にはやはり先ほどの少女が座っていた。
なにやら身振り手振りを交えて熱弁している。
(まあ……これはあれだ。全然ゲンカクとかユーレイとかじゃないわな。俺んちの玄関にがっつり見知らぬ人間がいるわ、面倒くさいことに。でも空き巣や物盗りって感じじゃなさそうだしマジ何なんだ……?)
輝臣は頭痛のする額を抑えながら座っている少女へと視線を落とす。それに気づいたのだろうか、彼女の言葉がぴたりと止まった。
「「……」」
そこで初めてふたりの視線が交差した。
神秘的な黄金色の流れるような長髪。簡素でありながらも高い技巧が施されたヘッドドレスを片側に付けている。
どこまでも澄みわたる碧く大きな瞳。
新雪のように白くきめ細かな肌。
ワンピースからのぞくほっそりとしつつも柔らかそうな四肢。
まるで幻想郷から迷い出てきた妖精かと感じてしまうほど容姿の整った少女だった。
こんな珍妙な状況にも関わらず輝臣は彼女の姿に思わず息を呑む。
「えへへ……」
少女が少し気恥しそうに表情を崩した。
そこで輝臣も見つめあっていたことに気付き慌てて視線を外した。
動揺しているのを誤魔化すように話を切りだす。
「ここ俺んちなんだけど」
「はいっ。それはもちろん存じておりますよ、輝臣くん」
(輝臣くん、ね……たしか最初も俺の名前呼んでたような気がしたな)
輝臣は率直に思い浮かんだ疑問を投げかけてみる。
「ちょっと状況がよくわからないんだけどさ。あんた誰なの? それで何でうちにいるの?」
「まあっ。そう言えばわたし感激のあまり名乗り忘れていました。うう……失敗です。申し訳ありません。では改めて」
少女がいそいそと姿勢を正す。
そして、三つ指立てて深々と頭を下げた。
「わたし、シャノンと申します。今日から輝臣くんたちと一緒に暮らすことになりました。末永くよろしくお願いしますねっ」
顔をあげた少女、もといシャノンがぺかーっと聞こえてきそうなほど満面の笑みをみせる。
(一緒に暮らすことになった……? 意味が分からなすぎる。こいつあれか? もしかしてやべーやつなんじゃ――)
「あ。ちなみにこの前まで北欧の方で神さまやってました」
「やっぱやべーやつじゃん」
思わず声に出てしまう輝臣であった。
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